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    ゆきのお手玉 (4)
 いつの間にか夕暮れが広がっていた。
 トモが手をとめて、ゆきちゃんに近寄る。わたしもその傍らに。
「ゆきちゃん。もう遅いから帰りましょう」
「送っていくよ」
 私たちがそういうと、彼女の表情が曇った。
「やだ!」
 そしてイヤイヤする。
「やだ。もっと遊ぶの。遊ぶ!」
「ゆきちゃん、もう暗くなるから、ね」
「やだー! 遊ぶのー!」
 彼女が哀願の表情で、わたしの手を引っ張った。
 雪合戦をしていた手は、びっくりするほど冷たかった。わたしは驚いて手を引っ込めた。
 今度はトモの手を引っ張る。その手を握りながらトモがゆきちゃんに言った。
「ゆきちゃん、今日はもうお帰り。明日また遊ぼう、ね」
 相変わらずトモは優しい。でも、ゆきちゃんは、やっぱりイヤイヤを繰り返していた。

 急に、ドキンと胸が鳴った。

 たちまち、顔が火照って熱くなってくる。
 駄々をこねるゆきちゃんの姿に、わたしは、まるで遠い日の自分を見ているような気になってきた。
 そして、急に恥ずかしくなってきた。
 あのころ、自分もトモにあんな風に無茶を言ってたのだろうか?
 木の上の虫を捕ってといった時も。
 大きなかまくらを作ってとせがんだ時も。
 あんな風に困らせてたんだろうか?
 そして、今は……?
 そう思ったら、なんだか、いたたまれなくなってきた。
 我が儘な自分を見せつけられているようで。ダメな子供の自分を見るようで。
 だから……必要以上に厳しい声が出た。
「ゆきちゃん。我が儘いっちゃダメ! もう帰りなさい!」
 トモが驚いた顔でわたしを見てる。わたしも自分の声の大きさに自分で驚いていた。

 ゆきちゃんが、目の前で見る見るうちに涙をためた。
 わたしを見つめるその瞳が、哀願から悲しみへと変化した。
 あっ……
 わたしの心に、たちまち後悔の念がわきあがる。
「ゆきちゃ……」
 名前を呼ぼうとしたときには、ゆきちゃんは泣きながら走り出していた。
 すぐに暗くなった路地に消えていく。
「トモ〜、どうしよう〜」
 わたしは、なんだか、取り返しのつかないことをしてしまったような気がしていた。
 あんなに強く言うことなかったのに。
 もっと優しくいってあげればよかったのに。
 もう少し遊んであげることもできたのに……
 どうして……出来なかったんだろう?
「そういうこともあるよ」
 なんにもいってないのに、トモがそう言った。
 こんな時に伝わらなくてもいいのに。泣きたくなるじゃない。
「明日、また遊んであげようよ」
「うん」
 わたしはそう言いながら、もう、ゆきちゃんに会えないかもしれないと沈んだ心で思っていた。


 翌日、トモと一緒にゆきちゃんを捜した。
 昨日出会った通りから、遊んだ公園、神社の境内。でも、彼女はどこにもいなかった。
「今日は、来られないのかもしれないね」
 トモが言う。
「だから、昨日あんなに遊びたがったのかも」
 そうなのかな? そうだとしたら、やっぱりかわいそうな事したな。
 わたしは、ゆきちゃんの顔が忘れられなかった。
 涙をためて、私たちを見た顔。
 遊びたいとだだをこねた表情。
 よっぽど誰かと遊びたかったんだ。
 たぶん、一人っ子で、遊び相手がいないのね。
 だから、初めて会った私たちに、あんなにせがんで……
 チラッとトモの薬で捜そうか? と思った。
 でも、それほどまでにすることはないわよね。
 トモの言うとおり、今日はここには来れないのかもしれない。
 出かけてるのかもしれないし、誰かが遊びに来ているのかもしれない。
 わたしは、そう思って、自分の心を納得させた。
 心に小さな棘が残った。
 
 
 
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