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    ゆきのお手玉 (2)
 わたしを迎えに来てくれたトモが、少しうつむき加減で玄関に立っていた。
 その表情が、なんだか真剣で、かけようとした声が途中で止まった。
 あれ? なんかあった?
 わたしに気づいてトモが顔を上げる。
 一瞬で表情が変わった。
「わあ、メグ……」
 一声言って、わたしを見ながら言葉に詰まっている。
 な、なによ? なんか変?
「す、すごく……あ、えっと、明けまして、おめでとう……」
 え? ……ああ。
「こちらこそ、おめでとう。今年もよろしく」
「うん」
「トモ、どう?」
 わたしは袖をつかんで腕をひろげてみせる。トモが照れた顔で見ていた。
「う、うん。なんていうか、すごく似合ってる。えっと、馬子にも衣装?」
「はあ?」
 トモ、使い方間違ってるから、それ。
「わたしの晴れ着姿見れてうれしい?」
「えっと、その……」
 どうなのよ? トモが見たいって言うから着たんだからね。
 その時、トモがちょっと手招きした。
 なに?
 わたしが近づくと彼がさらに顔を寄せて来た。手を耳元にかざす。
「メグ、とっても綺麗だよ」
 うわあー。
 ドキドキする。頬が熱くなる。
 でも、でも、ヘッヘー。綺麗って言われた。よーし。
 わたしは、目の前の彼の手を握った。
 でも、顔はあげられないよ。


 わたしたちは、一緒に外へ出た。
 一面の雪景色だ。
 年末に降り積もった雪。
 昨日の夜も少し降っていた。
 足元の路面だけは綺麗に除雪されていたけれど、人が歩かない場所や街路樹、家々の屋根には雪が積もり、街は白く輝いていた。
 こんなに積もったのは、久しぶりね。
 そういえば、昔、トモとかまくら作って遊んだこともあったっけ。
「ねえ、トモ、覚えてる?」
 わたしたちは、手をつないでゆっくり歩いていた。
「昔、大雪が降ったとき、庭にかまくら作ったわよね」
「うん。覚えてるよ。あれ、たいへんだった」
「そうだった?」
「だって、メグが、もっと大きなの、もっと大きなのって、ずっと言うんだもん。くたくたになったよ」
 えっと、そうだったっけ?
「そうだった」
 で、でも、楽しかったでしょ。だって、あんなに大きいかまくらだったんだもの。ね。
 トモが、困ったように笑っていた。


 神社の人出は、思っていたほど多くはなかった。
 やっぱり二日だからね。元旦程じゃないよね。
 境内には、秋祭りの時ほどではないけど屋台もでていた。
 お正月らしく、羽子板や凧を置いたおもちゃの店。
 縁起物の金糸や銀糸で飾り付けた小物屋さん。
 ひよこや亀のお店。それに、食べ物屋さん。
 うん、いい匂い。後で食べようか?

 社殿に近づき、お賽銭を入れて鐘を鳴らす。
 二人で手を合わせた。
 ……えっと、去年は素敵なことがいっぱいありました。
 ありがとうございます。
 今年も、もっと、いっぱいありますように。
 それから……いつか、わたしの想いが叶いますように。
 お願いします。
 目を開けて、チラッと隣のトモを見る。
 目が合った。心臓が鳴る音がした。
 うわっ! だ、だからなんで、見つめてるの!?
「いや、何お願いしてるのかなっと思って」
「家内安全!」
 わたしはちょっと困っていた。
 どうしたんだろう? なんだか今日は、すぐ照れちゃうよ。おかしいなあ。
 その原因は、たぶん、きっと、分かってる。
 さっき、おかあさんに言っちゃったからだ。意識しちゃってるからだ。
 でも、でも、止められないよ。今はね。

 おみくじを引いたら大吉だった。願い事叶うって! やった!
 えっと、トモは……凶。
 うわあ、初めて見た。トモが、ガッカリしてる。
 しょうがないなあ、そう言うときはね、左手で枝に結ぶといいんだって。
「そうなのか?」
「うん、何かで読んだ」

「メグ! トモ!」
 小枝におみくじを結んでいたら、後ろから声を掛けられた。
 振り返った先に、杏ちゃんと青年が立っていた。
 晴れ着姿の杏ちゃんと羽織袴の青年。彼の表情は見違えるように穏やかだった。
「杏ちゃん! あけましておめでとう。矢七さんもね」
 青年が私たちに深くお辞儀して、片膝をついて控えた。
「メグ、トモ。新年じゃな。祝着至極じゃ」
「うん。それと、こないだは、誕生日プレゼントありがとう。うれしかった」
 杏ちゃんの顔に、ぱあっと笑みが広がった。素敵な笑顔。わたしまで、嬉しくなる。
 その時、素朴な疑問がわいた。
「杏ちゃん達も、神社にお参り?」
 杏ちゃんがキョトンとする。それから、笑い出した。
「メグ。この神社に奉られているのが誰か知っておるか?」
 え? ……あっ、そうか。
「杏ちゃん……だよね」
「その通り」
 わたしも、笑ってしまった。
「あれ? じゃあ、わたし、杏ちゃんにお願いしたのかな?」
「聴いておったぞ」
 ドキンとした。
「うそだあ〜」
 杏ちゃんがいたずらっぽく笑って舌を出した。困った神様だなあ。
「じゃあ、今日は?」
 トモが訊いた。
「これから、少し、出かけるのじゃ。西の方にな」
 あ、そうなんだ。
「じゃあ、神社に神様いなくなっちゃうね。今から来る人、かわいそう」
 杏ちゃんが、また、ぺろりと舌を出した。
 それから、手を振って杏ちゃんたちと別れた。
 わたしとトモは、連れだって参道を戻った。
 
 
 
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