第九話〜一緒に初詣に出かけたトモとメグ。
雪の中で出逢ったかわいい少女と一緒に遊んで……
でも、その別れが気にかかった。
第九話 ゆきのお手玉 (1)
夜空から、ちらちらと雪が降っている。
わたしは、開けた窓からそれを眺めながら息を吸い込んだ。
冷たい空気が肺に流れ込む。吐く息が白い。
「明日は、晴れてね。お願い……」
舞い落ちる白い雪を見上げながら、そうつぶやいていた。
* *
「じゃあ、メグちゃん。袖持って、腕を上げて……そうそう」
今日はお正月の二日目。
お母さんに晴れ着を着せてもらっている。
白地に、裾に向かって濃くなっていくピンク色。その中で、満開の桜の花が咲いている。
その華やかさが、なんだかちょっと恥ずかしい。
でも、まあ、晴れ着だもんね。いいよね。
「うっ。おかあさん、ちょっと苦しい……」
おかあさんが容赦なく帯を締める。昼御飯あとの身にはきついよ。
「メグちゃんも、自分で帯、締められるようにならないとね。困るんだから……」
あ、ちょっと、嫌みな口調だ。いつかのこと、まだ怒ってるかな?
「じゃあ、そのまま、回ってみて」
わたしは、袖を持ち上げながら、その場でゆっくり回転する。
えっと、あけましておめでとうございます。
今年もよろしく。なんてね。
で、なんで、晴れ着かというと……当然これからお出かけするから。
そう、初詣に行くの。
人出の多そうな元旦は避けて、今日、神社まで出かけるつもり。
でも、年末から雪が降って、だいぶ積もったからなあ。大丈夫かなあ。
ちゃんと除雪はされてると思うけど、ちょっと心配。
だって、着物だと歩きにくいし、汚しちゃいけないし。
だから、普段着でもよかったんだけど……
でも……トモが、着物って言うし
……あ、えっと、そう。
トモと初詣です。
で、でも、初めてなんだよ、そんなこと。
小さい頃から幼なじみで、いつも一緒にいたけど、初めてなんだから。
なんだか最近、初めてのことがいっぱいある。不思議だなあ。ちょっと夢みたいだ。
でも、今のわたし、とっても幸せ。
おかあさんが目の前でしゃがんで、帯を直してくれている。
手で、ぽんぽんと叩きながら何気なく言われた。
「メグちゃん。トモくんのこと好きよね?」
は、はい?
いきなり、なに?
「いつも一緒にいたいと思ってる?」
な、なんでそんなこと、今?
あわてる視線の先で、おかあさんがわたしを見上げていた。
「トモくんと、一緒になりたい?」
そ、それは、どういう意味で言ってるんでしょうか、おかあさん?
「えっと、あの、そんなこと、な……」
誤魔化すために逸らそうとした目の先に、びっくりするようなおかあさんの真剣な瞳があった。
わたしは、その目をそらすことが出来なくて、口の中で小さくつぶやいた。
「う、ん」
でも、おかあさんの表情は変わらない。聞こえなかったのかな?
わたしは、小さく深呼吸して、それから思い切って言った。
「おかあさん。わたし、トモのことが好き。大好きなの。だから、いつも一緒にいたいよ。いつか……一緒になりたいよ。……いい……よね?」
胸がドキドキしてきた。言葉に出した恥ずかしさと、ちょっとした不安。
おかあさんが、優しく笑った。
「ええ。あなたが、ちゃんと想っているなら、それでいいのよ。その気持ちを確認したかっただけ」
ほっとした。でも、
「なんで……」
「メグちゃん」
おかあさんが優しい顔で、でも、しっかりとわたしを見つめる。
「覚えておいて。あなた達が一緒になるっていうことは、とても、すばらしいことなのよ。あなた達二人なら、普通の人が出来ないこともできるのだから」
ドキンとした。サーと頭に血がのぼる。
おかあさん、トモのこと……
「知ってるの?」
「ええ」
おかあさんがにっこり笑う。
「だけど、忘れないで。その分、あなた達には責任も掛かってくるでしょう。時には、辛いことがあるかもしれない。だから、どうすればいいのか、考えなさい。あなたの力もトモくんの薬も、みんなを助けるためにあるのよ」
そういって、おかあさんが立ち上がる。
わたしは、突然のことに戸惑っていた。そんなこと考えたこともなかったから。
わたしとトモが一緒になったら?
確かに、いろんな事が出来るかもしれない。誰かを助けることが出来るかもしれない。
それは、うれしい。
でも、それに責任が伴う? 辛いこともある?
不安が胸をよぎる。
「おかあさん、わたし……まだ、よくわからない」
わたしの瞳を見つめていたおかあさんが、そっとわたしを引き寄せ抱きしめてくれた。
その顔は、わたしと同じ高さにあって、耳元で優しい声が聞こえた。
「ええ、大丈夫。おかあさんは信じてます。あなたも、トモくんも、もう大人だから。だから、メグちゃん。あなたも信じなさい。自分と、そして、トモくんを。いいわね」
いわれた意味はよく分からなかったけど、さっきの不安が嘘のように、わたしの心は安心で染まっていた。
遠い昔の子供の頃のように。
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