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    王の代人 (8)エピローグ
 誰かの話し声が聞こえて、トモは気がついた。
 目を開けると部屋の端で、母親と杏ちゃんが楽しそうに話しているのが見えた。
 トモは、しばらくその光景をぼんやり眺め、それから突然思い出したように体を動かした。
「っつ!」
 右腕に痛みが走って声が漏れる。その声で話していたふたりがトモの方をむいた。
「気がついたかの?」
 杏ちゃんがトモに近づきながらいった。
 トモは自分がベッドで寝かされて、右腕には包帯がぐるぐると巻かれていることにようやく気づいた。
 母親も覗き込んできた。
「大丈夫よね?」
「う、うん」
 そう答えたとき、トモは重大なことに気がついた。
「あ、かあさん、あの……この事情、知ってる?」
「ええ、すっかり。杏ちゃんに聞きましたよ」
 そうして、トモの母と杏ちゃんは、にっこり顔を見合わせた。
「えっと、それって……杏ちゃんの正体も知ってるっていうこと?」
「もちろんですよ。ご先祖さまも知っていました」
 そういわれてトモは、今回の件で、どうしてもはっきりさせたいと思ったことを口に出した。
「かあさん、その、ご先祖のことだけど……王の薬師ってなに? かあさん知ってる?」
 トモの母親は軽くうなずいて、それからいった。
「そうね、あなたも、そろそろちゃんと知ってもいい年ね。わかったわ」
 トモが起き上がろうとする。その背に手を貸しながら母はいう。
「でも、今日は待ちなさい。用意する必要のあるものもあるし……そうね、今度のお正月が来たら、お父さんから話してもらいましょう。あなたの17歳のお正月ですから」
 トモは、ちょっと残念な表情をした。しかし、すぐに気を取り直し杏ちゃんに話しかける。
「杏ちゃん、僕を連れ帰ってくれたんだね。ありがとう」
「当然じゃな。お礼を言うのはこちらの方じゃ。今回のこと恩に着るぞ」
 杏ちゃんが優しく言った。

 杏ちゃんの肩越しにトモの机が見える。
 その上にきれいな涙型の白い石がおかれ、その先の卓上時計がもうすぐ6時になろうとしていた。
「あ、あれ? 今、朝? それとも、夜?」
「夜ですよ」
 母親がいう。
「うわあ! まっずい!」
 トモは慌てて叫んだ。
 叫んでから、でも、どうしよう? と心の中で思った。
 なにも用意できなかった。
 今からじゃ無理だろう。
 いったい、どうしたらいいのか?
 母親が、何か食べる物でも持ってきてあげるわねと言って部屋を出ていく。
 出がけに電話しなさいよと言った。
 トモは頭を抱えて、どうしようと思ったが、その前にもう一つのことを思い出して杏ちゃんに言った。
「杏ちゃん、机の上の石、ありがとう。それがあったから、僕は助かったんだよね」
 そういって、白い石を手に取った。
「感謝してる。はい、返すよ」
 差し出すと、杏ちゃんがトモを見つめてから首を振った。
「トモ、それは、そちに譲ろう。というより、それは元からそなたらに属する物なのじゃ」
 トモが、えっ? と言う顔をする。
「いにしえの王にまつわる品。我が族に託されていた。だからそれは、そなたが持てばいいのじゃ」
「そうなの?」
 杏ちゃんがうなずく。
「また、そなたでなければ扱えぬじゃろう」
 トモはちょっと首を傾げて、
「扱うって言われても……」
「そは、そなたの意志に従う。昨夜のように宙を飛ぶことも望むなら出来ようぞ」
 その時、トモは思いだした。
 昨夜、記憶を無くす直前、仰ぎ見た満天の星空を。
 その時、誰と一緒に見たいと想ったかを。
「杏ちゃん。メグに見せてもいい? 空を飛んでもいい?」
「もちろんかまわぬが、でも、なぜじゃ?」
「今日は、メグの誕生日なんだ! メグにあの星空を見せてあげたいんだ!」
 杏ちゃんは、そこで、にっこりと微笑んだ。
「では、それは、わたしからの贈り物でもあるの」


 それから、トモは、電話をした。
 相手の出るのが待ちどうしかった。
 相手が電話をとった。
「もしもし……」
 ほとんど毎日聞いているのに、その声が懐かしく聞こえた。
「メグ。誕生日おめでとう」
「え? あ、ありがとう」
「あのさ、夜、時間ある? そっちの夕食終わってからでいいから……」




 番外編 王の代人
 おわり
 
 
 
番外編『王の代人』いかがだったでしょうか?
第八話のメグの誕生日の裏で、こんな事があったなんて!
トモくんも影で苦労してるんだなあ……

それでは次回もお楽しみに。
 
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