王の代人 (7)
あたりを圧する輝きが世界に満ちた。
これが人里離れた山奥でなければ、何かとんでもないものが爆発したと思われただろう。
そこにもう一つの太陽が出現したかのようだった。
その強烈な光の中心にトモがいた。宙に浮かんでいる。
巨人の剣ははじき飛ばされ、それどころか、巨人も、龍たちも、その光の圧力にじりじりと後退させられた。
トモを助けるために飛び込んできた杏ちゃんも呆気にとられて眩しそうに見ていた。
その中で、トモは自身驚いていたが、特に苦しくもなく少し暖かい空気に包まれているような気がした。
しばらく満ちていた光は、やがて急速に縮み、最後にはトモの体を薄く包むようになってかすかに光っていた。
青き龍が信じられないようにいう。
「これは、夢か?」
剣をはじき飛ばされた金色の巨人は、さらに驚いていた。
「天光球の輝きなど、もはや見ることもないと思っておったが……」
青き龍がはっとして、トモを見つめる。その手の中にあるものを察して彼はつぶやいた。
「何故、あれを、その者が持っているのだ?」
「王の代人なれば」
杏ちゃんが答えた。
「資格なき者に、扱うことは出来ぬものじゃが……」
「ならば……その者、王の代人と認めよう」
金色の巨人が興味深そうに言う。
「場合によっては、その者の言上、飲んでやってもよい」
青き龍が目を見張り、周りの者がざわめいた。
「それは、ほんとですか?」
まだ宙に浮かびながらトモは訊いた。杏ちゃんがそのトモをそっと手のひらに乗せる。
「だが、条件がある」
金色の巨人が言う。
「我らは、それぞれ大切なものを相手にさしだすのだ。ならば、お前も差し出すがよい。お前の大切なものを」
巨人の顔に明らかに意地悪な表情が浮かんでいる。
「それは……」
トモの脳裏にチラッとメグの顔がよぎる。
「僕の命のことでしょうか?」
「いや、そうではない」
今度は青き龍が巨人に合わしたように言う。
「お前の大切な人を差し出せ」
今度ははっきりとメグの顔が浮かんだ。
トモの心が震える。それは怖れではなく怒りのためだった。
その瞬間、トモのまわりに再び光が溢れ出した。トモがはっきり告げる。
「それは、お断りします。なぜなら、あなたたちは間違っているから。ふたりの想いを引き裂くかわりに、人の大切なものを奪うのなら、それは和解でもなんでもない。ただの嫌がらせです。もし、そういうことなら、僕は仲裁なんかやめて、ふたりのためにあなたたちと戦いましょう。それで命を落とすのなら、その方がましです」
トモの光が急速に大きさを増していく。
杏ちゃんと翠の体からも闘気が溢れ出してくる。
その様子を見ながら、青き龍と金色の巨人が顔を見合わせた。
ふたりの目に怪しい光が宿り、そして……
同時に笑い出した。
ふっはっはっはっは。ぶわっふぁっふぁっふぁ。
そのさまを、トモはびっくりして眺めた。光がもとのように収まっていく。
笑いながら、金色の巨人が言った。
「いや、おもしろい。今の世の王の薬師は、仁も義もあり、しかも……」
「……勇もある」
青き龍が言葉の続きを引き取った。
「それでこそ、仲立ち人を果たせよう」
そうして、二つの族の代表は口々に誓った。
「われら、当代の王の薬師がいる限り、共に争わぬことを誓おう。そのあかしに、そこな我らが若者の行く末を祝福する。王の代人の名に賭けて」
青き龍が話しかける。
「翠よ。我が族の誇りにかけて、その娘を幸せにせよ」
「はい。青騎どの」
金色の巨人も声をかけた。
「晶よ。そなたの幸せを、わしらも願おうぞ」
「ありがとうございます。宝輝さま」
そして、龍と巨人はもう一度トモに話しかけた。
「王の薬師よ。いつの間に杏と知り合ったのやら。そのほうらに、一本とられた気分だ。だが、それもよかろう」
苦笑しながらそういって、青き龍とその仲間は空に消えた。
「王の薬師よ。久々に面白きものを見せてもらった。礼を言うぞ。それでは、またいつか会おうぞ」
そういうと、巨人たちも瞬く間に消え失せた。
杏ちゃんと翠が人の姿に戻ったとき、トモは河原の草の上に倒れ込んだ。
傷を負った右腕が疼く。
杏ちゃんが、ちょっと心配そうにトモを覗き込んだ。
「トモ、大丈夫か?」
ああ……
と、トモは思う。
ああ、ほんとに……
「……怖かったあ」
杏ちゃんがキョトンとして、それから笑い出した。
「何を言っておるのじゃ、トモ。そなたが、一番、無謀だったのじゃぞ」
「え? そうなの?」
「そうじゃ」
その声に、青年と少女の声が重なる。
「王の薬師さま、本当にありがとうございました」
「感謝致します」
「あ、そんな、いいんです。僕もうれしいから」
それから、トモは起き上がろうとして、身体が少しも動かないことを知った。
見上げている夜空には、満天の星が煌めいている。
その星空を流星が四方に流れていく。
トモは、ふと、この星空をメグに見せてあげたいなと思った。
そうして、もう今日はメグの誕生日だよと思いだし、まだ贈り物決めてないやと思った。
そう思いながら、いつの間にか意識が遠のいて、何も分からなくなった。
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