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    王の代人 (6)
 人里離れた山奥の盆地の河原に二匹の龍が佇んでいた。
 その手に少女とトモが握られている。
 夜空は満天の星空で、その中を幾筋もの流れ星がはしった。
 同時に、河原の端から続く森の木がざわざわとゆれ動いた。
 河原の一方に五匹の龍が現れた。
 色とりどりの龍は、その中でも黒光りする青き龍が飛び抜けて大きかった。
 反対の森から、同じように5人の巨人が現れた。
 緑や赤や群青に輝く鎧に身を固めた隆々たる体格。
 その中で、金色の鎧の巨人は、まさに金剛力士のようだった。
 両族が、河原を挟んで対峙した。
 彼らは、真ん中にいる二匹の龍とその手の中を一瞥した。

 青き龍が口を開いた。
すいよ、もはや逃げることは叶わぬぞ。あきらめるがよい。その娘のことは忘れ、我らと共に来るのだ」
「出来ませぬ!」
 翠が叫んだ。
 同じように金色の巨人も娘に言う。
あきよ、帰ってくるのだ。しょせん、我が族は彼らとは共に歩めぬ。そなたが不幸になるだけだ」
宝輝ほうきさま。わたくしには、そのようなことは、もはや出来ません。この人と裂かれるならば、みずからを毀ちましょう」
「ならば、力ずくで分けるまでよ」
 青き龍が言う。
「何を申す。我が乙女を毀すつもりか!?」
 宝輝と呼ばれた巨人が怒鳴った。

「待つのじゃ」
 その時、杏ちゃんが静かに割って入った。
「杏、そなたここで、何をしておるのだ?」
 青き龍が困ったように言う。
「仲裁を」
 杏ちゃんのその言葉に、青き龍が嗤った。
「愚か者め。そちは昔から変わり者じゃが、この場を仲裁など出来ると思うておるのか?」
「はい。青騎せいきどの」
 杏ちゃんは平然と答えた。青騎と呼ばれた龍がちょっとイヤそうな顔をする。
 金色の巨人が言う。
「白き龍よ。仲裁など無意味だ。我らは、我らの乙女を引き取り帰るのみだ」

「それじゃあ、ふたりは、ふたりの仲は、どうなるんです?!」
 突然トモが叫んだ。
 それまで、まったく気にとめていなかった存在を、龍達も巨人達も見た。
 トモは、杏ちゃんの手の中で立ち上がっていた。
 その存在を認め、しかし青き龍がつまらなさそうに言う。
「なにゆえ、ただの人間がいるのだ。人などには関係なきこと」
 杏ちゃんが言う。
「仲裁の仲立ちとして」
「ばかな!? なぜ、弱き人などが仲立ちにたてる?」
 青き龍は今度は怒ったようにいう。杏ちゃんが静かに言った。
「なぜなら、この者、王の薬師であり、王に代わりて仲立ちしうるからじゃ」
 5匹の龍と5人の巨人が、同時に動きを止めた。かすかな驚きの声が聞こえる。

 しばらくして青き龍が声を上げた。
「何をもって、そのようなこと証明する?」
「わたし自身が証人じゃ」
 杏ちゃんが言った。
「その言を信じろと言うのか?」
「わたしが嘘をついていると申すか?」
 青き龍の言葉に杏ちゃんが答える。とたんに杏ちゃんの全身から闘気が立ち昇った。
「まあ、待ちなされ」
 金色の巨人が制した。
「そのもの、いにしえの王の代人として仲立ちするに、我らに何を提案する?」
 自分に振られたことを悟って、トモは顔を上げた。
 物珍しさと忌々しさの混じった幾つもの顔が、トモを見つめていた。
 トモは、自分に落ち着けと言いきかせて口を開いた。
「あの、僕がこの場に相応しいのかどうかわからないんですが、でも言わせてください。
 翠さんも晶さんも、互いのことをとても愛しているんです。もし相手がいなくなれば、自分もなくなっていいと想うぐらいに。
 だから……これはだめです。
 ふたりを引き離すなんて、だめです。やめてください。
 そして、どちらの方々にも、ふたりを祝福してあげて欲しいんです。
 お願いします」
 杏ちゃんが、ちょっとキョトンとしてトモを見ている。周りで聞いていた龍と巨人もすぐには反応しなかった。
 やがて、周りから哄笑が起こった。金色の巨人が嗤いながらいった。
「あははは、王の薬師というから、いかなる者かと思ったが、これでは話にならんな」
 そうして、目をぎょろつかせ叫んだ。
「もはや、これまで。あとは、実力のみ!」

 巨人が翠の龍に向かって駆け出す。同時に青き龍も動き出す。翠が手の中の少女をかばった。
 トモは、自分の失敗を感じると共に、ふたりの身の危険を思った。
 助けなきゃ! と夢中で思う。
 その時、手の中の白い石が薄く光り、トモの意志のまま、その体を翠の龍に向かって飛ばした。
 あっ! と、杏ちゃんが叫ぶ。
 翠に向かって迫り来る巨人とそれを追いかける龍の前に、信じられない速さでトモは飛び込んだ。
 トモの姿は、まるで人の前の蚊のようなものだろう。巨人がかまわず剣を振るった。
 とっさによけた右腕に激痛が走る。風圧だけで腕に無数の傷が走り、血が噴き出す。
 それでもトモは、巨人の前に立ちはだかった。
 巨人が再び剣を振るった。トモの眼にその動きがスローモーションのように映る。
 しかしその時、トモの脳裏にはまったく別のものが浮かんでいた。
 それは……
 メグの笑顔。とびっきりの眩しい笑顔。
 キラキラと輝いて自分を見ている。
 その笑顔を見つめながら、トモは、心の中でつぶやいていた。

 メグ、ごめん。
 誕生日に会いに行けないかもしれない。
 もしかしたら、もう会えないかもしれない。
 メグ、好きだよ。
 君のことを、愛してる。

 その時、巨人の剣がトモにとどいた。
 
 
 
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