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    透明少女 (7)
 で、話は最初に戻るわけだけど、わたしは山道を自転車で全力でかけた。
 とにかく薬の効き目が切れる前に家に駆け込まないと大変なことになる。
 だって、今裸なんだもん。
 家について、自分の部屋に駆け込んだ。よかった、間に合った。
 タンスから下着を出して着けようとしていたら体が戻ってきた。
 肌がピンクに染まってる。運動しすぎ、体が熱い。
 わたしは、Tシャツとスカートを着ると、電話に急いだ。


「もしもし、警察ですか?」
「はい、XX警察署です」
「あのー、ネコがですね、いっぱい捕まってるんです」
「はい? 何が捕まってると? え? ネコ? ネコって、飼い猫のネコですか?」
「ええ」
「えーと、たぶんそういうことは、保健所の方に連絡していただけるとこちらとしては助かるのですが」
「あ、でも、なんか、やくざっぽい人がいっぱい居て……」
「やくざが、ネコですか? ……いやあ、そんなことあるかなあ?」
「でも、それで、友達も捕まったみたいで」
「本当ですか? いやあ、一応お話は伺っておきますけどね、もう一度、確かめてから電話してもらえませんか。それから、ネコの話なら保健所の方がいいと思いますよ。それでは……」
 あ、待って。と言おうとしたときにはもう切られていた。
 えーん、何なのよ。もう。
 ごめん。トモ。うまくいかないよ。
 心の中でつぶやきながら、わたしはトモの家に向かってダッシュした。

 案内も乞わずトモの家に上がる。
 廊下を進んでいくと、途中で彼のお母さんが顔を出した。
「ああ、メグちゃん。どうしたの? トモなら外出中よ」
「あ、はい。おばさん。知ってます。トモに頼まれたことがあって。部屋に入ります」
「いいわよ。あとね、今日夕飯食べにおいでなさい。そちらのお母さん、今日は遅いんでしょう?」
「わかりました」
 わたしは、焦っている素振りを見せないようにして2階に上がり、トモの部屋に入った。
 この部屋にはいるのは久しぶりかな。高校になってから来てないかも。
 部屋はよく整頓されている。トモの性格がでてる。
 部屋の左の壁には、大きな本棚がある。その本棚の中段辺り、そこには本ではなく、いくつも引き出しのあるプラスチック製の小さなキャビネットが乗っかっていた。
 えーと、6番って言ってたよね。
 それぞれの引き出しには、色とりどりのカプセルがきれいに分けて入れられていた。6番の引き出しには、オレンジ色のカプセルが入っていた。
 わたしはそれを一個取ってポケットに入れる。それから、思いついて、他の引き出しも開けてカプセルを探す。あの、わたしに効くカプセル。
 あった。20番の引き出しに見覚えのある白いカプセル。
 それも一つ取って、わたしは外に駆け出した。

 タクシーでも使っていけば速いのだけど、こんなとこに走ってないし、車の音で気付かれるのもいやだし、結局自転車で戻ることにする。
 まだ、トモはあそこにいるかなあ? かなり不安。もうあれから40分近くたってる。
 わたしは、白カプセルを一つしか持ってこなかったことを後悔した。
 飲んじゃったら30分ぐらいしか効かないし、カプセルを開けたら粉がこぼれて落ちちゃうし。じっと我慢して、自転車を急がす。
 山道の登りはさすがにきつい。胸が苦しくなるよ。
 絶対あと少しで着くと思ったところで、白カプセルを飲んだ。
 感覚がとぎすまされる。
 ネコは……まだ居る。いっぱい。
 がちゃがちゃという音。これは何?
 トモの声とか、足音は……聞こえない。きっと動けないんだ。
 でも、たぶんまだ居る。わたしにはわかる。

 倉庫が見えてきたところで、自転車を降りた。
 それを斜面側に倒して見つからないようにして、わたしは一つ深呼吸した。
 トモに持ってきたカプセルをどうやって渡そうかと考えたとき、これしかないと思った。
 わたしは、服を脱ぎ始める。こんなとこで脱ぐのはいやなんだけど。でも、仕方ない。
 服を脱いで自転車のかごに畳んで入れる。そうして、透明になってわたしは倉庫に急いだ。

 倉庫の扉は開いていた。
 そこから男たちがゲージを運び出して、トラックに乗せている。ゲージの中にはネコが数匹ずつ入れられているようだ。
 わたしは、オレンジのカプセルを手の中に握りしめた。
 こうやって、手で覆い隠すと、中のものは見えなくなるんだ。ほんと不思議。どうなってるんだろう。
 わたしは、注意しながらだけど、堂々と扉から倉庫の中に入った。
 ネコの数は半分ぐらいに減っている。男たちがそれを追い回している。ちょっと変な光景。
 トモは? わたしは倉庫を見渡した。
 側面の壁の傍らに彼が縛られて転がされていた。
 わたしは、ネコに気をつけながらトモの方に近づいた。
 トモの顔に殴られたあと。くちびるが切れてる。
「トモ」
 耳元に口を近づけて小さく言う。トモがびくっとした。
「カプセル持ってきたよ。どうする?」
 彼は何も言わず、口を開けた。わたしはその口の中に素早くカプセルを入れてあげた。
 それから、縛られている腕の縄をほどこうと思って、トモの後ろにまわる。
 ところがその時、トモが、腕に力を入れて、その縄を引きちぎった。
 はあ? 信じられない! どうしてこんな太い縄。
 と思ったとき、トモが見えないわたしにつぶやいた。
「この薬、腕力が異常に強くなるんだ」
 え? そうなの? また、変なものを……
 わたしはあきれた。あきれてる場合じゃなかったけど。
 
 
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