ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
    王の代人 (3)
 翌朝、トモは隣の家の門の傍らで佇んでいた。
 ほんの少し待っただけで、軽やかな足音が響いてくる。
 向こうから、メグがちょっと急ぎ気味に歩いてくるのが見えた。
 トモは、目を細めてその姿を眺めた。
 すっと鼻筋の通ったきれいな顔立ち。
 瞳には勝ち気な光が宿り、キラキラとした生気にあふれている。
 それが、トモの心臓をドキドキさせる。
 物心ついたときから側にいる少女なのに、いや、だからこそよけいに最近のメグは眩しく見えるのだ。
 その表情の内に秘めた彼女の優しさ、まっすぐな素直さ、そして深い愛情を、トモは知っている。
 トモは自分が彼女をどうしようもなくいとおしいと想う心を、照れ笑いの中に隠して大きな声で言った。
「おはよう、メグ」
「うん。おはよう!」

「あのさ、ちょっと何日か忙しくなりそうなんだ」
 手をつないで登校しながら、トモはメグに話し出した。メグは、それで? という顔をする。
「だから、ごめん。しばらく、迎えに行けない」
 彼女が一瞬照れた表情をして、それからすぐに残念な顔をする。
「そうなの……」
「あ、うん。たぶん、すぐすむと思うから……」
 トモはあわてて言い添えた。
「ねえ、何があるの?」
 トモは、うっと詰まってしばらく黙る。それから思い出したように、
「えっと、ちょっと探し物」
「ふ〜ん。そうかあ」
 メグの表情がとたんに明るくなった。
 トモはメグの勘違いに気づいて、心の中でつぶやいた。
 ごめん、メグ。すぐ終わらせて、本当に君への探し物するから。


 トモの願いは、しかし、そう簡単にはいきそうになかった。
 トモは、部屋でいつもの感覚が鋭くなるカプセルを口に含む。
 手には、杏ちゃんから受け取った白い石を握る。
 トモがカプセルを飲んだとき、たちまち全ての音と匂いが自分を取り巻く感覚がした。
 それが、いつもの何倍もの勢いで迫ってきた。
 トモは、うっと吐きそうなめまいに襲われる。それを意志の力で我慢して、感覚を制御した。
 もしかしたら、メグはいつもこんななのかな? という想いが浮かんだ。
 平静に戻ると、いつもよりはるかに広大な範囲を感じ取ることが出来ていることに気づいた。
 トモは、すぐに試してみる。
 杏ちゃんが言ったように、人の集まるところ。
 駅前の繁華街。デパート。
 今までなかったようなすごい数の人の気配を感じ取ることが出来た。
 その中に、人でない、おかしなものは……
 確かにいる。
 人の気配とは違うものがいる。
 それもひとつではない。なんだか、もやもやした影や、のっぺりした白い影が見えた。
 トモは、杏ちゃんにもらった石の効果で、今までとは距離だけではなく質的にも異なる感覚が与えられていることに気づいた。
 その影が、捜している青年や娘さんでないことは、何となく分かった。
 ただ、これは杏ちゃんの助言がほしいなとトモは思った。
 薬が切れたとき、今まで感じたことがないような疲労に襲われた。
 トモはあらためて、これは難しい捜索だと感じた。
 その日、三度捜索を試みて疲労困憊でトモは眠りについた。


 翌日の放課後、トモは神社の裏手に広がる大きな池の畔にいた。
 湖と表現してもいいその池は、通称龍神池。杏ちゃんの住まうところだ。
「杏ちゃん、いる?」
 トモの呼びかけに応じるように、池の水面が波立ち渦を巻き始めた。光が渦の中から漏れてくる。
 その中に、杏ちゃんの姿が立ち現れた。
 水面に浮かんだ杏ちゃんは歩くようにトモのところにやってきた。
「トモ、どうじゃ?」
「えっと、なんだか、人でないものがいることは分かるんだけど……杏ちゃんの助言が必要」
「うむ」
 ふたりは、神社の社殿の中に入った。
 トモはカプセルを飲んで、捜索を始めようとした。
 そして、いきなりびっくりした。
 傍らにいる杏ちゃんが、圧倒的な存在感で感じられるのだ。
 逆巻く竜巻のようというか、夏の日の積乱雲の高まりのような、全てを覆う巨大さで感じられた。
 ああ、こりゃだめだ。トモは思った。
「ごめん、杏ちゃん。君の存在が大きすぎるや。もしかして気配を消したり出来る?」
 杏ちゃんは、分かったというようにうなずいた。
 急に杏ちゃんの気配が小さくなっていった。世界を被っていた雲は晴れたが、それでもまだ、風の逆巻くさまが見える。
 トモは、その姿に昨日見たものとの根本的な違いを感じた。
 もし、隠れている青年がこんな感じなら、間違いなく分かりそうだ。
 そして、トモは昨日とは別のところに意識を向けた。

 この日も、3度捜索してトモはくたくたになった。
 杏ちゃんの助言で、関係ない影の見分けはだいたい分かってきた。
 それでも、めざす相手は見つからない。
 トモは、すまなそうにいった。
「ごめん、杏ちゃん。明日は、もっと遠くを捜してみよう。それから、出来れば僕の家に来てくれる? なんだか、この状態で家まで帰るの、正直きつい」
 トモの疲労した顔を見ながら、杏ちゃんが優しくいった。
「わたしが、送り届けようかの?」
「あ、いい、いい。大丈夫。帰れるから」
 トモはそう強がって、夜道を帰っていった。
 
 
 
以下のランキングに参加しています。
cont_access.php?citi_cont_id=158005725&size=135
長編小説検索Wandering Network
オンライン小説ランキング
恋愛ファンタジー小説サーチ
NEWVEL


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。