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    王の代人 (2)
「その人が、行方不明なの? なんか大変なことがあった?」
「それはの……」


 杏ちゃんが言う。
「ちょうど、わたしと同じように、龍の青年が異族のものと恋に落ちたのじゃ。
 彼らは、その許されぬ恋ゆえ、二人して姿を隠しおった。
 今、両族のものが彼らを躍起になって捜しておる。
 わたしは、皆より先に彼らを見つけだしたい。見つけだして何とかしたいのじゃ。
 そうでなくては、ふたりにとって悲しい結末が待っていることじゃろう」
「ちょ、ちょっと、待って」
 トモが、そこで手を振って遮った。
「えっと、杏ちゃんと同じような出来事なんだね? それなら、逃げる事なんて無いんじゃないの。
 その青年さえ、杏ちゃんと同じように彼女を守り通せば……」
「トモ、相手が少し悪いのじゃ」
「相手? 娘さんのこと? それとも、親御さん?」
 杏ちゃんは頭を振った。
「相手が人ならば、まだよかった……娘は……宝玉の乙女なのじゃ」
 は……い?
 宝玉の乙女って、なに?
 トモの頭に疑問符が飛ぶ。
 えっと、その名前は、やっぱり精霊?
「そうじゃ。しかも、力強き一族でもある」
 龍の杏ちゃんに“強き”っていわれるなんて、どんななんだ?
 トモの混乱に拍車を掛けるように、さらに杏ちゃんがいった。
「しかも、我が族と敵対関係にある」
 え?
 ……敵対関係! 龍族と? 争ってる?
 ……そんなこと、信じられない!
 トモの顔色が変わる。
 そんなトモの表情をみて、杏ちゃんが説明しだした。

 宝玉の精霊とは、大地の支配者なのじゃ。大地に育まれ大地より生まれいでる。
 一方、我らは水と天の支配者でもある。河川を守り、風雲と共に昇れば、地を水で潤す。
 そして、我らはまた、地を削りゆくものでもあるのじゃ。
 この両族はいつしか反目するようになった。
 それは、さほど古きことではない。そう、ちょうど王の失せし頃……

 少し事情ののみ込めたトモの頭に、冷静さが戻ってきた。彼がいう。
「杏ちゃん。だいたい分かったけど、それって僕が捜すより、杏ちゃんの方がいいんじゃないの?」
 杏ちゃんが困ったように言う。
「いいや。龍の能力で隠れた者を、同じ力でもって見つけだすのは難しいのじゃ」
 そうなのか……
 でも、僕じゃ薬を使っても、せいぜい1キロ四方しか探せないし……
 杏ちゃんの役に立つかなあ? そうだ。
「僕より、メグの方が……」
 トモは、いいかけて気がついた。
 あ、ダメだ。こんな危険な状況の人捜しなんて、メグを巻き込めない。
 よし、やっぱり、僕がやるしかないや。でも……
「僕の力じゃ、遠くは探せないよ」
 杏ちゃんはすでに考えていたように、
「大丈夫じゃ。そなたの力の助けになるものを授けよう」
 そう言って、メグが貰ったのに似た、涙形の白い石をトモに差し出す。
「メグのものとは少し異なるが、そなたの力を高めてくれよう」
「うん、分かった。それから……」
 その白い石を受け取りながら、トモが言う。
「杏ちゃん、その人たちの心当たりは? 何を目印に捜せばいい?」
 そう言うと、杏ちゃんはしばらく考えてから静かに言った。
「天は、我らの族が見張り、地は、かの族が見張っている。隠れられるは、すなわち、人。きっと、人のまにまに紛れているはずじゃ。トモよ。人の中に人であって人でなき者を捜すのじゃ」
「わかった」
「ただ……」
 杏ちゃんは言う。
「そのような者は、実は数多い」
 え? そうなの?
「じゃが、二人しているのは珍しいじゃろう。しかも、共に他の者からは抜きんでているはずじゃ」
 トモは分かったというようにうなずく。
 そして、最後の質問をした。
「もし、他の人より早く見つけたとして、杏ちゃんはふたりをどうするつもり?」
 その質問に杏ちゃんは困ったような顔をして、答えなかった。
 ただ、口元で、トモには聞こえない小さな声で、つぶやいた。
「その時は、トモ、そなたが最後の望みやもしれぬ……」


 送っていこうかというトモの申し出を断って、杏ちゃんは玄関でトモに手を振った。
 トモの母がそばに来て、ちょっとそこまで送っていくわという。
 トモは自分の部屋に帰った。
 トモの母が玄関の扉を開けながら、杏ちゃんに声をかけた。
「ふふ、思い出しましたよ。杏ちゃん」
 杏ちゃんが振り返りつつ顔を上げた。
「ご先祖様のお話に、あなた、出てくるでしょう?」
 杏ちゃんの目がきらりと光った。
「だって、姿がそっくりですもの」
 そう言って、トモの母は微笑んだ。
「母上どのは、もの知りなのじゃな」
「ええ」
 それから、表情をあらためて、トモの母は言った。
「さて、今日は、なに用だったのでしょうか?」
「それは、必要ならばトモが言うであろう」
「そうですか」
 それから続けて、
「ならば、ひとつだけ、母親の戯れ言をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
 杏ちゃんがいぶかし気に見る。
「あの子を、あなた様の宮に連れ往くことは、しないで下さいまし。あの子には、すでに心に決めた者がおりますれば」
 杏ちゃんが、にこやかに笑った。
「よく、知っておる」
「まあ! それは、失礼なことを申しました。許して下さいね」
 トモの母も同じような笑みを見せた。
「では、母上どの、またおじゃまする」
「ええ」
 そうして、杏ちゃんは夜道に消えていった。
 
 
 
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