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    ハッピーバースデー&メリークリスマス(3)エピローグ
「メグ、着くよ」
 しばらくして、トモが言った。
 わたしは何を言われたのか分からなかった。
 自分たちが宙を飛んでいることさえ忘れていた。
 トモの顔を見た。トモが下を指さす。
 わたしの姿勢はもう一度変わって、こんどは空中に立っていた。

 はるか下方に街の明かりが見える。
 色とりどりのクリスマス・イルミネーションが地上に瞬いていた。
 その中心に、巨大な丸い輝きが見える。
 あれが……
「クリスマスツリーだよ」
 そうだった。これを見に来たんだ。忘れてた。
 でも、もう着いたなんて、移動してるのなんかすっかり忘れてたわ。
 わたしたちは、ゆっくり高度を下げていく。
 ツリーを回り込むように降りていった。
「あんまり降りると、見つかるから」
 そういって、トモはツリーの天辺より高い位置で、少し離れて止まった。
 空から見るツリーは、なんてきれいなんだろう。
 普段下から見上げるのと違って、全景が見渡せた。
 雪色の光をまとった巨大なツリーは、その頂上に、きらきら光る金色の星を載せていた。
 ああ、ここにも星が輝いている。
 天上と地上の星ね。


 私たちは、もう閉まっている駅前デパートの屋上に降りた。
 ここからも、ツリーと街のクリスマスの飾り付けがよく見える。
 二人並んでベンチに座った。薬が切れたのかちょっと寒くなってきた。
「ねえ、トモ。寒いぞ」
「ごめん。カプセル帰りの分しかないや」
 そういうと、トモがわたしの右手を握って、自分の上着のポケットに入れた。
「こっちは?」
 わたしはもう一方の手を見せる。トモは、ちょっと考えてから、その手を引っ張った。
 引っ張られたわたしは……トモに抱きつく格好になった。
 顔が近い。お互いの吐く息が白く交差した。
「メグ、誕生日おめでとう。17歳だね」
「うん。ありがとう」
「やっと、追いついたな」
「トモ、4月だからなあ。わたしの方が若いもん」
 トモが苦笑する。
「えっと、それから、素敵なプレゼントありがとう」
「気に入ってくれた?」
「うん。とっても……」
 わたしは目を閉じた。もう一つプレゼントが欲しかったから。
 唇に温かな感触が触れ、心臓の高鳴りが聞こえた。
 わたしは、握っていた手を離し、トモの腕に潜り込ませていく。
 もっと、彼に近寄ろうとして。

 その時、トモの腕に何か巻かれている事に気づいた。
 わたしは、頭の中でしばらくなんだろうと考えていた。
 ハッとして、眼を開けた。唇を離し、トモの腕を見る。
 右腕の袖をまくろうとした。トモが左手で止める。
「ダメ! 診せて!」
 わたしはその手を振り払い袖をめくった。そこに包帯で巻かれた二の腕があった。
「どうしたの、これ?」
「あ、うん、怪我」
 わたしはトモの眼を見つめた。
「トモ! なんでなったの?」
 トモがあきらめたように言う。
「ちょっと、杏ちゃんの手伝いしてて……」
「どんな?」
「えーっと、仲裁というか……」
「誰の?」
「……杏ちゃんの一族の」
 はあ? マジ? 
 信じられない! あぶなすぎる!
「トモ、あんたねえ!」
 わたしが言いかけると、トモが降参したというように手を挙げた。
「分かってる。言いたいことは分かってる。ごめん。でも、大丈夫だと思ったんだ。杏ちゃんもついてたし……」
「それでも、実際」
「うん。でも、これは不注意なんだ。それに、ちゃんと解決したから。大丈夫だったから」
 ううん。トモは分かってない。
 わたしの気持ちを分かってない。
「トモ。ほんとは、あぶないことをして欲しくないんだけど……でも、どうしてもしなきゃいけないのなら、ちゃんと、わたしに言って。わたしに知らせて。わたしが、あなたを守れるように……。お願い。約束して。わたしに黙って行かないと。わたしの誕生日にその約束をちょうだい」
 トモがわたしの顔をじっと見つめている。わたしも見つめ返していた。
 ふーっと彼が息を吐いた。それから言った。
「わかった。約束する。メグに隠したりしない」
「約束よ。絶対」
「うん」
 それで、わたしは安心した。

 包帯の巻かれたトモの腕をさすりながら、もう一度クリスマスツリーを眺める。
 雪色のイルミネーションがぼんやりにじんでくる。
「クリスマスかあ」
「どうしたの?」
「わたし、クリスマスだけ別にやったこと無い。いつも誕生日と一緒だから……」
「そうか……」
 しばらくそうして眺めていると、不意にトモの手がわたしの頬にかかり、彼の方に振り向かせた。
「メグ、クリスマス、どっか行こう。それとも、一緒にケーキでも作ろう」
「え?」
 わたしはちょっとびっくりして、トモの顔を眺める。
「もう、予定あった?」
「ううん」
 ぶんぶんと首を振る。
「あのね、わたし……朝からお出かけして、午後にケーキ作りしたい!」
「わかった」
 トモが笑いながら、うなずいた。
「やたっ!」
 もう一度トモに抱きついた。
 やった。生まれて初めての、単独のクリスマス会だ。
 うれしい! なんだか、すごくうれしい。
 わたしは、彼の腕の中でわくわくしながら、クリスマスの日のことを考え始めていた。



 第八話 ハッピーバースデー&メリークリスマス
 おわり
 
 
 
 第八話 読んでいただいてありがとうございます。

 さて、次回は番外編です。
 実は八話の、メグちゃんの誕生日前に、トモはいったい何をやっていたのかというお話。
「トモくんメグちゃん」には珍しく、ちょっとハードな(?)お話の予定です。
 
 どうぞよろしく。
 
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