ハッピーバースデー&メリークリスマス(2)
夜。
約束通りトモの家に行く。
おばさんが、お誕生日おめでとうと言ってくれる。
「ありがとうございます。あの、トモは?」
「部屋にいるわ。あなたが来たら、通してって言ってたから、どうぞ」
「あ、はい」
「あ、メグちゃん。お客さんが来てるけど、そのまま入っていいわよ」
「お客さん?」
わたしは、どういうことだろう? と思った。
誰か他に来てるの? トモと二人じゃない?
わたしが入ってもいい?
誰だろう?
そんな疑問が、頭に浮かぶ。
トモの部屋の前まで来ると、閉まっている扉の向こうから、トモが誰かと話している声が聞こえる。
その声が、楽しそうだ。
わたしは、ちょっと躊躇して軽くノックしてから、扉を開けた。
部屋の中で、トモはイスに座ってこちらを向いていた。
その横のベッドの上に、小さな女の子が……和服姿の女の子が足を振りながら座っていた。
「久しぶりじゃな。メグ」
「杏ちゃん……」
女の子がベッドから飛び降りて、わたしのところへ駆けてくる。
わたしは膝をついて彼女が抱きつくのを支えた。
「誕生日だそうじゃの。めでたきことじゃ」
「ありがとう。杏ちゃん。でも、どうして、ここに?」
「トモとの約束でな」
わたしがトモを見ると、にこにこして手を振っている。
「ねえ、何?」
わたしはトモに訊いた。
「う〜ん、ちょっとね。僕が杏ちゃんにお願いしたというか、杏ちゃんの手伝いをしたというか……」
「どういうこと?」
「まあ、それは、いいから」
杏ちゃんが、わたしの手を取った。
「それじゃあ、メグ。また会おうぞ」
「え? もう帰っちゃうの?」
「そうじゃ。あとは、二人仲良うな」
そういうと、杏ちゃんはもう一度わたしに抱きついて、それから、部屋を出ていこうとした。
わたしは慌てて言った。
「杏ちゃんも、仲良くね」
彼女が肩越しに手を振った。
トモと二人になって、わたしはちょっと緊張してきた。
何でだろう? おかしいな。
わたし、なんか期待してる?
「えっと、メグ」
「はい」
「クリスマスツリー見に行こうか?」
「はい?」
「中央広場」
「ああ……」あの、ツリー。
そうか、それもいいかも。
「行く?」
「うん」
そういうと、トモは嬉しそうに笑って、それから部屋の窓を開けた。
「何してるの?」
「ほら、星がきれいだ」
窓から見える空には、オリオンの三ツ星がきらめいていた。
「はい、まず、これ飲んで」
トモがピンク色のカプセルをわたしにくれる。
「これは?」
「体が暖かくなるやつ。寒くないように」
そうか。それはいいけど、コート着たらそんなに寒くないよ。
でも、トモが飲んだのに続いてわたしもカプセルを飲んだ。
しばらくして、体の芯がぽかぽかしてきた。
「よし。もういいかな」
トモはそういって、それからわたしの手を取った。
トモの手のひらに、白い涙形の石がのっていた。
わたしが杏ちゃんからもらったのと色は違うけど似ている。
ああ、これは杏ちゃんのね。
「これ、杏ちゃんの……」
「うん。もらった」
「へ?」
わたしの驚きをよそに、彼が反対の手でわたしの手をつかんで、石を持つ手に重ねようとする。
「メグ、いい。ちゃんと握ってて。放しちゃダメだよ」
そういって石をはさんで二人で手をつないだ瞬間、手の間から白い光が漏れ出てきた。
その光がベールのように全身を包む。薄い衣に包まれたように感じた。
「え? ちょっと、なに?」
ふっと、足が床を離れるのを感じた。いつの間にか体が宙に浮いている。
わたしは、驚いて、床を見て、天井を見て、トモを見た。
彼が優しく笑った。
「行こう」
初めはゆっくりと、それから徐々にスピードを上げて、私たちは宙を移動した。
トモが開け放った窓から、外へと飛び出す。
2階の窓の下にはトモの家の庭。
体のすぐそばを高い木が通りすぎていった。
わあ。わたし、飛んでる。空を飛んでる。
鳥みたいに飛んでるんだ。
頬をすぎる風を感じた。
たぶん冷たい冬の風だけど、今は体がぽかぽかしていて、ちっとも寒くなかった。
全身を包む光は、今や見えるか見えないかの微光に変わっていた。
つないだ手の先にトモが一緒にいる。
彼が指で上を指した。
うえ? 空?
そう思ったとたん、わたしの視線が回転した。
「きゃっ」
ちょっと目をつぶって、それから開ける。
目の前に……360度の星空が飛び込んできた。
きれーい!
見渡す限りの星空。
しかも、地上で見るよりずっと多くて、ずっときれい!
シリウスやオリオンの三ツ星だけじゃなくて、無数の星が輝いていた。
わたしはしばらく、声も出せず、ただ、星空を眺めていた。
そのうち、自分は宇宙にいて、星々の中を漂っている気がしてきた。
星々に抱かれた宇宙遊泳。
つないだ手の先に、トモの温かさを感じながら、
わたしは、ずっと、きらめく宇宙を眺めていた。
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