桜色の贈りもの (11)エピローグ
わたしも手で、髪飾りにふれる。
真ん中につるっとした感触の石があった。
「わあ!」
トモが突然大きな声を出した。
頭の上から、ピンクの光が降ってきた。
驚いて髪飾りから離した手の中に、ピンクに輝く、小さな小さな女の子がいた。
手の中で、わたしに笑いかけている。
「ああ、あなたが……桜の精」
わたしの手の中から光が四方八方に広がっている。その光に気がついて、椋の彦が近づいてきた。
「やあ、これは、千年桜の精。見事復活なされた」
トモもわたしの手をのぞき込んだ。
「そなた、礼をいいます。わたくしに、活力を注いでくれて」
小さな女の子が、優雅に礼をした。
「そんな! わたしは、特別なことはなにも……でも、よかった。元気になられたんですね」
「そなたの息吹は、誠に気持ちのいいものであった。今宵は夢のお礼も出来ぬゆえ、別のものを贈りましょう」
……え?
夢のお礼?
その言葉に引っかかった。
「夢のお礼って?」
「そなたの望む夢を贈ったまで、いや、そなた達かな」
わたしは、ギョッとした。トモの顔を見る。彼も驚いていた。
わたしは悟った。
あの夢。トモに抱かれる夢。
二人とも見てたんだ。同じ夢を……。
うわー! し、信じられない! 息が止まりそう。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、恥ずかしい!
わたしは俯いた。
トモの顔なんかまともに見られないよお。
手の中で、桜の精が不思議そうにわたしを見てる。
「メグ……」
トモがわたしを呼ぶ。でも、そっちなんか見れないよ。
そうしていたら、トモの指がわたしの顎を優しくつかんだ。
わたしは、おずおずと顔を上げた。
トモが、真っ赤な顔で恥ずかしそうにわたしを見ている。わたしもたぶん同じだ。
二人の視線が交差した。お互い、決して視線をはずすことが出来なくなった。
トモの目元が微笑んだ。その笑顔が胸にしみこむ。
わたしは、ドキドキして、ドキドキして、そして、―――思いっきり笑顔になった。
あなたのことが好き。
いつも、あなたと一緒にいたい。
いつか、あなたと一緒になりたい。
トモを見つめる眼のはしで、光が緩やかに移動するのが映った。
花の精が、手の中から飛び上がっていく。
空中を軽やかに飛ぶ。光が再び、あたりを照らした。
その光で、さっきまで枝だけだった街路樹に次々と花が咲いていった。
きれいなきれいな、桜の花だ。一面の桜の花。季節はずれの満開になった。
街灯の光の下で、まるで春のような光景。
わたしは、トモと手をつなぎ、驚きながらその光景を見ていた。
「また、春になったら会いましょう」
そういうと、桜の精は、椋の彦の肩に乗って去っていった。
椋の彦は、何度も私たちにお礼をしながら遠ざかっていった。
「きれいね」
「うん」
残された私たちは、しばらく満開の夜桜を眺めていた。
わたしはトモのジャンバーを彼と半分ずつ着て、体ごと彼に抱かれていた。
「ちょっと、寒くなってきたね」
「うん。もう帰ろうか」
どちらともなくそういってから、わたしは自分が裸足だったことに気づく。
「トモ。あの……抱っこして」
「え?」
「抱っこ」
「あの〜メグ。おんぶじゃダメ? たぶんうちまで保たない……」
「ダメ。最初は、抱っこ」
なんだか、わがままを言いたい気分だ。子供のようなわがままを。
トモがわたしを抱き上げてくれた。お姫様抱っこ。
わたしの顔がトモの肩にかかる。
わたしは、トモの頬に手を副えた。そうして顔を近づける。
満開の夜桜の下でのキス。しかも彼に抱っこされながらの。
わたしは、桜の精霊の贈りものを、今度こそ、心ゆくまで楽しんでいた。
季節はずれの桜は、三日ほど咲いて散っていった。
町ではニュースになって、にわかに花見をする人も現れた。
地球温暖化で狂い咲きですかねえ、というような会話が、あちこちで聞かれた。
二人で欠席した翌日、二人とも登校すると、友達の明美ちゃんと優ちゃんが、わたしに訊いてきた。
「メグ、昨日御薬師くんとどこ行ったの?」
え?
「どこも行ってない」
「嘘をつき。私らの目はごまかせないわよ」
「ほんとだって。ほんとだ」
「じゃあ、なんで休んだのよ」
「ちょっと、気分悪くなって……」
「じゃあ、御薬師くんは?」
「えっと、トモは……えっと……」
「あやしい〜!」
ダメだ。失敗した。
すぐに知らないって言えばよかった。
トモ、ごめん。なんか一部誤解した人がいるから、気にしないで。
そう思いつつ、でも、心の中では、もう全然気にしていなかった。
今、このとき、わたしは十分満たされていたから。
第七話 桜色の贈りもの
おわり
第七話、どうだったでしょうか?
さて、次回は冬のお話になります。
もう、完全に季節が逆になってますね。冬に夏のお話から始めてしまったので、まあ、仕方ないのですが、すみません。
コメントをまったく貰っていないので、このシリーズ読んでいただいているのかどうか、よくわからないのですが、とりあえずまだ続けていく予定です。
どうぞ、よろしく。
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