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    桜色の贈りもの (10)
 その時、爆発のような大きな音がとどろいた。
 目の前をきらきらと何かが散っていった。急に、冬の冷気がわたしを包んだ。
 わたしは体の自由がもどって膝をついた。
 わたしとおじいさんとの間に、少年が飛び込んでくる。
 その後で、わたしは暖かい腕に抱きかかえられた。
「メグ、怪我はない?」
 トモが、自分のジャンバーを脱いで、わたしにかけてくれる。私たちは一緒に立ち上がった。
 目の前で、椋の彦が刀を構え、その先におじいさんが不適な笑いを浮かべながら立っていた。
 右手にピンクの卵が握られている。
「トモ、取られちゃった!」
「うん」
 トモが冷静にうなずく。椋の彦がじりじりと前進しようとしていた。
「遅かったの、お主ら。もはや、我が手に入ったわ」
 おじいさんが得意げに言う。
「花喰い鬼め。その玉を返せ」
 椋の彦が言った。
「そうだよ、爺さん。それは、返した方がいいと思うよ」
 トモの声は、あくまで冷静だった。
 あれ? わたしはちょっと変に感じた。
「返すものか。この精は、千年桜じゃ。これほど、美味なものはない。わしの寿命も伸びるでな」
 そういうと、右手の卵を口元の持っていこうとする。
「やめなよ! 返してくれたら、なんにもしないから……」
 トモが、妙なことを言った。
「あっ! ダメ!」
 わたしの叫びに、お構いなしに、おじいさんが卵を飲み込んだ。
 椋の彦は動かない。
 トモは、何とも言えない、悲しそうな、つらそうな表情をしている。
「ちょっと、トモ、いいの?! 食べられちゃったよ」
 わたしは、トモの腕を引っ張った。
 その時、突然、大きなうめき声が聞こえた。
「うぐう! ……な、なにを」
 見ると、おじいさんがお腹を押さえて、ハアハア息を吐いてうずくまっていた。
「な、なにを入れた? これは、なんじゃ?」
 おじいさんが苦しそうに訊く。
「ごめん、じいさん。それは、桜の精じゃないんだ。入れ替えたんだ」
 トモが答える。
 え? そうなの?
 じゃあ、本物は?
「中に入っていたのは、薬なんだ。それも、ほんとはつかっちゃいけない薬……生き物の成長をすごく加速させる、そういうやつ」
 おじいさんの体が、急速に変化し始めた。
 ひざが見る見るうちに曲がり、皮膚に数え切れないほどのしわが寄っていく。
 体全体がどんどん小さくなっていく。
 おじいさんの目は白く濁り、もはや、見えているようには見えなかった。
 ただ、口元から、つぶやきが漏れていた。
「わしが……わしが……千年を生きてきた、わしが……こんな……こんな坊主に不覚をとるとは」

 やがて、おじいさんは倒れた。
 幼児のように小さくしぼんで、身動きしなくなった。
 さらにどんどんしぼんで、紙のように薄くなっていく。
 そして最後に、灰のように舞い上がって、風に散っていった。
 その、あまりの姿に、わたしは顔を背けた。トモの胸に、顔を沈める。
「トモ〜、死んじゃったの?」
「そうだね。止めようと思ったんだけど……」
 トモが沈んだ声で答える。
「でも、椋の彦やカラスの長老の話だと、今まで、さんざん大切な精霊を食べ尽くしてきたらしいから。彼らにとっては、これでよかったのかもしれない」
「そう……」
 わたしはトモの顔を見上げた。
「花の精は、助けることが出来たよ」
 トモが自分を納得させるように言った。そういえば……
「トモ、本当の花の精の卵はどこにあるの?」
 すると、トモがわたしの髪を手で触る。
「ここ」
 そこに、彼に渡されたピンクの髪飾りがあった。
「ああ」
 わたしも手で、髪飾りにふれる。
 真ん中につるっとした感触の石があった。
 
 
 
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