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    透明少女 (6)
 ここ一週間ぐらい、街に変な噂が立っていた。
 ネコがいなくなったというのだ。
 ノラネコだけじゃなくて、飼い猫もいつの間にか行方不明になって、その証拠に電信柱のあちこちに「迷いネコ」とか「ネコ捜してください」のビラが増えたような気がしていた。
 その噂が本当だったようで、今日の昼休み、隣のクラスの女の子がトモの所にやってきていた。
 家で飼っていたネコが3日前から行方不明らしい。
 そのネコを見つけてほしいと、彼女はネコの寝床に使っていた毛布の一部を切り取ってトモに渡していた。
 わたしは、聞くとはなしにその話を聞いていた。

 トモは放課後になると、すぐ依頼人の家から出発して、だんだん範囲を広げながらネコを捜したらしい。かなり広範囲(半径5キロぐらい)は捜したけれど、見つからなかったようだ。
 わたしが、クラブを終えて家に帰ってくると、門のところでわたしの帰りを待っていた。
「なあに? 見つからなかったの?」
「うん」
 彼はちょっとうなだれてる。バカ、そんなことで落ち込むな。
「探したんだけど、わかんない。この辺にネコ一匹もいないんだ」
「へー、それは不思議ね。噂は本当なんだ」
 私たちは、並んで家に入った。
「手伝ってあげるけど、今度は、何作ってもらおうかなあ?」
「何でも、メグの好きなもので良いよ」
「当然!」
 トモが頭をかいた。

 わたしの部屋で、例の薬の匂いをかぐ。とたんに感覚が鋭くなっていって、手足が透明になる。
 持ってきてもらったネコの寝床の匂いをと思って、窓を開けようとしたときに、異様な感覚に襲われた。
 それは、すごく多くのネコが集まっている感じ。聴覚と嗅覚が示している。
 でも、遠い。5〜6キロは離れてるんじゃないかな?しかも方角は、山の方だ。
 わたしはトモに言った。
「ネコがたくさん集まってるとこがある。たくさん居すぎて、頼まれたネコが居るのかどうかまではわからないけど、町中のネコが居るんじゃないかな?」
「えー、そうなんだ。何でだろう? ネコの集会かな?」
 ネコの集会って、トモ。
「そんなの見たことある?」
「……いや。ないけど」
「とにかく、そこじゃないかな?」
「うん、わかった。探しに行こう」
 トモがわたしの腕をつかむ。
「えー、わたしも行くの?」
「だって、正確な方向わからないし……」
「わたし透明だよ。このまま外でれないよ。それに、この状態じゃなきゃ探れないし……」
 トモはちょっと考えていたが、
「じゃあ、自転車二人乗りで行こう。そうすれば、なんかちょっと服を羽織ってるように見えるだけだと思うから」
 えー、そうかなあ? 嘘っぽい。
 でも、トモが頼むもんだから、わたしも断れなかった。


 私たちは自転車に二人乗りして外へでた。
 もう薄暗くなりかけていたから、それほど目立たないと思うけど、ちょっとドキドキものだ。
 運転するトモの後ろで指示を出す。前方まっすぐ。次の角右。そこを入って。
 道はだんだん山にはいっていく。
 山道を登りだしてからはもう一本道だった。わたしの指示もいらない。
 その前に薬の効き目も切れたけどね。匂いをかいで効いているのは10分ぐらいかな。
 ハアハア言いながら、トモが山道をこいでいく。
 30分ぐらいすると割と大きめの建物が見えてきた。倉庫みたいだ。
 こんな山の中に倉庫って、何だろう? 切り出した木材でも入れとくのかな?
 私たちは倉庫の壁に自転車を立てかけて、扉にまわった。鍵はかかっていなかった。
「この中?」
 トモが聞く。
「たぶん」
 そうだと思う。ここら辺だった。
 私たちは扉を左右に開いた。中は常夜灯がともっているだけで、薄暗かった。
 ヒト一人通れるぐらいまで開けて中に入った。
 とたんにきらりと光る幾百もの眼がこちらを見た。
 わたしは、ぞくっとして、背筋に寒気が走る。
「わあー、すごい。ねこさんいっぱいだあ!」
 トモの間の抜けた声。
 あんたねえ、よく平気でいられるわね。……あ、そういえば、トモ、ネコ好きだったっけ?
 眼が暗さになれてきた。ネコたちの姿がはっきりわかる。
 そこに……いったい何匹のネコが居るんだろう。
 100? 200? わからない。でも、そんな感じ。
 ネコたちは、思い思いに座を占めていて、寝ころがって居るものも、座っているものも、じゃれているものもいた。
 リボンのような首輪をつけた家ネコもいるし、ちょっと薄汚れた野良とわかるのもいる。要するに、町中のネコが居るみたいだ。
「何で……こんな……」

 私たちがしばらくの間呆けていると、突然外でトラックがバックするときの警報音が聞こえた。
 私たちは、とっさに扉を閉めて、近くにある窓に顔をつけた。
 中型のちょっとした引っ越しに使うようなトラックがバックしてくる。
 荷室は開いていて、そこに何人かの男が乗っていた。
 それが、どう見ても引っ越し屋さんには見えない。いかつい体つき、厳しい風貌、鋭い目。
 絶対普通じゃない。
 わたしは傍らのトモを見た。
「どうしよう?」
 トモはわたしの手を取って、倉庫の角、なんだかわからない資材の積み上げられている裏に隠れた。
 
 
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