桜色の贈りもの (8)
気がつくと、自分のベッドで寝ていた。ちゃんとパジャマを着ている。
枕元には例のピンクの卵がおかれていた。部屋には夕日が長くのびていた。
あれ? わたし、どうしてたんだろう?
ちょっと記憶が曖昧だった。
ベッドの上で上半身をおこす。どこにも痛いところはなかった。
部屋のドアが、コン、コン、とノックされた。
わたしは、反射的にハイと答える。ドアが開いて普段着姿のトモが入ってきた。
「あっ」
思い出した。
朝、学校に行く途中で、事件があったんだ。
変なおじいさんが現れて、卵を取られそうになって……トモが、傷ついて
あっ!
「ト、トモ!」
「メグ。起きたんだね。気分はどう?」
彼はそういいながらわたしのベッドの端に腰掛けて、右手をわたしのおでこに当てた。
あっ! ちょっ!
「うん。大丈夫だね」
わたしが焦っている間に、トモはそういうと手を引っ込めた。
「メグが突然気を失ったときは、焦ったよ」
彼がわたしを見つめながら言う。
「よかった」
「ト、トモは、大丈夫なの?」
「うん。たぶん」
「診せて!」
わたしは言いながらトモのセーターに手をかけた。
「え、いや、メグ。大丈夫だって……やめ……」
「ダメ! 診せなさい」
わたしは強引にトモの服をまくり上げて、お腹を出させた。
おなかには、かすかに赤い模様が広がっていた。
だけど、もう、ほとんど見分けがつかなくなっていた。
でも、わたしは、その部分を手のひらで撫でた。
「もう、大丈夫だって。痛みも消えた。それに、メグの家で休ませてもらったから……」
わたしはトモの言葉を聞きながら、別のことを考えていた。
「今日は二人とも学校欠席になちゃったよ。まあ、いいか。……メグ? 聞いてる?」
なおもトモのお腹をさすりながら、わたしは話し出した。
「……よかった。本当だったんだ。よかった。……ねえ、トモ、知ってる?」
彼がうん? という顔をする。
「わたし……わたし、怪我とか病気を治す力があるの」
「うん。知ってるよ」
トモが当然というように答える。
わたしは、驚いて、彼の顔をまじまじと見つめた。
「……なんで? いつから?」
「ずっと昔から知ってたよ」
え? そうなの?
わたしが知ったのは、ついこないだなのに。
「だって、昔、僕が木の枝を踏み外して落ちたときも、屋根の上から転げ落ちたときも、すっごく痛かったんだけど、メグにさわられてると痛くなくなったもん」
「え? あの時、トモ、怪我してたの?」
「そりゃあね。2階の高さから落ちたら怪我するって。今から考えたら骨折してたんじゃないかな」
「わたし全然気がつかなかった。だって、トモ、ケロッとしてた」
「だから、メグが治してくれたんだって」
そうか、そうだったんだ。
わたしはやっとおかあさんの言っていたことを理解した。
「トモ、この前、わたし、おかあさんから聞いたの。わたしは、“癒し手”なんだって」
「癒し手?」
「うん。わたしみたいな力のある人のこと」
「そうなんだ」
「わたしの家にね、たびたび現れるんだって。というか、小さいときは、ほぼみんな能力があるんだって。でも、大きくなるにつれて失われて……。それでね、思春期を過ぎてからもう一度現れたら、もう一生無くならない。そういう人が“癒し手”って言われるの」
「前から知ってたけど、そうか、すごいや、メグ。精霊だって、治せるんだよね」
「うん。そうみたい」
「椋の彦に聞いたよ」
「そう……。あ、でも、トモ。この力、わたし自身には効かないらしいの」
その時トモは、わたしの眼を見つめ真剣な表情で言った。
「メグには、僕がいるから」
え?
「メグが病気になったら、僕が治す」
そういって、トモはわたしの手を包むように握った。
わたしは、夢見心地がした。なんだか、ふわふわする。貧血かしら?
それからトモは、わたしが寝ている間のことを話してくれた。
精霊の椋の彦に事情を訊いたこと。黒金山のカラスの長老にもいろいろ尋ねたこと。
そして、あのおじいさんが花咲爺さんなんかではなく、傷ついた精霊(特に花の精)を喰ってしまう妖霊であることを教えてくれた。
「椋の彦は?」
「まだ、近くにいるよ」
「どうしよう、トモ。この桜の精、もう、椋の彦に返した方がいいかな?」
わたしは、ピンクの卵を手に取った。
「彼が言うには、精霊がそこから出てくるまでメグが持ってたほうがいいってさ」
「でも、あのおじいさん、また取りに来るっていったわ」
「うん。わかってる。だから、ちゃんと準備はしといた。……それに、椋の彦が見張ってる」
「そうなの」
トモは頷きながら、ポケットから何か取り出した。
「これ、つけといて」
彼の手の中に、髪飾りがのっている。
精霊の卵と同じ形の、でも、ずっと小さいピンクの宝石がついている。
「お守りなんだ。椋の彦が用意してくれた」
わたしはそれを受け取って、横髪を少しかき上げて髪に止めた。
「うん。OK。そしたら、下に降りてきなよ。ご飯だから」
あれ? ご飯って……
「トモもうちで食べる?」
「当然。作ったの僕だもん」
はにゃ?
「おかあさんは?」
「あ、休ませてもらったり、いろいろあったから、僕が作らせてもらったんだ」
「ほんとに?」
「グラタンメインだから食べにおいで」
「わかった。すぐ行く」
トモは先に部屋を出ていった。
わたしは着替えるためにベッドからでる。
さすがにお腹が減っていることに気がついた。
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