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    桜色の贈りもの (7)
 その時。
 わたしのかたわらに突然、刀身が現れた。
 刀はスーと上から下に切り下げられる。
 何が斬られたのかも分からなかったけど、そこから、人が飛び込んできた。
 それは、細身の剣を携えた幼い少年。彼の剣が、迷い無く老人を突く。
 老人がわたしから一瞬にして離れた。
「あなた!」
 わたしは声を出すことも、動くことも出来るようになっていた。
「椋の彦!」
「はい」
「ちっ!」
 少年が答えるのと老人が舌打ちするのが同時だった。
 少年は剣を正眼に構えて、老人を牽制する。
 老人はやれやれという表情をして見せた。
「なんとまあ、今日はじゃまの多いことだて。おぬしの相手をしてやっても良いが……ちと、面倒じゃな」
 それからわたしの方に視線を向けて、
「お嬢さん。あらためて、貰いうけにくるでな」
 そういって、杖を大きく左右に振った。
 とたんに、花吹雪が舞う。
 その花が舞い落ちたとき、老人の姿はすでになかった。
 かわりに、人と車のざわめきと、空を飛ぶ幾羽ものカラスの姿が目に入った。


 わたしは、少年に礼をいうことも忘れ、倒れているトモのところに駆け寄っていた。
「トモ! 大丈夫!」
 お腹を押さえて倒れている彼。額に汗がにじんでいる。
「どこ? お腹?」
 わたしは、乱暴に彼の制服のボタンをはずす。上着をはだけ、シャツをまくり上げた。
 お腹全体がどす黒く痣になっていた。
「なんで、こんなに?」
 さわると熱をもっている。
「ぐう……」
 トモが苦しげにうめいた。
 わたしは焦った。自分の両手を出来るだけ広げて、彼の黒くなったお腹に当てる。
 そして、自分に言いきかせた。
 絶対、絶対、大丈夫。
 トモはわたしが助けるから。この傷は、わたしが治すから。
 だから、絶対、トモは大丈夫。
 わたしは、“癒し手”だから。
 どんな傷でも、大丈夫なんだから。
 わたしは手の位置を変えて、トモのお腹を撫でる。その手に意識を集中する。
 初めて、自分の手が熱くなっていくのを自覚した。
 前にトモが刺されたときは気が動転していて、自分のことなんか一つも覚えていない。
 でも、今は、ちゃんと自分で信じてやってるんだ。

 少しずつ、どす黒かったお腹が、青くなり、それから赤くなっていった。
 苦しがっていたトモの息が落ち着いてきた。
 わたしの手は、今度は急に冷たくなっていく。それと共に、頭の芯に疲労感が押し寄せてきた。
 それに耐えて、じっとお腹と自分の手を見つめていたわたしの目の前に、彼の手が現れて、わたしの手に重なった。
 ハッとして彼を見る。
 落ち着いた表情のトモの顔があった。
「メグ。もう平気。ありがとう」
 トモはそういうと上半身をおこし、自分のお腹を見る。まだ赤みは残ってるけど、もう大丈夫そうだ。
「よかったあ」
 思わず、彼を抱きしめていた。
「うわっと。え〜っと、メグ。メグ」
 トモが焦ったように言う。
「この子、誰?」
 あー! 思い出した。
 見ると私たちのそばに、椋の彦がちょっと顔を赤らめながら、立っていた。
 刀はもう腰にしまっている。
「ご、ごめん。忘れてたわ。助けてくれて、ありがとう」
 わたしは、彼に頭を下げる。なぜか、彼も同時に頭を下げた。
「姫御前の火急の時、遅れて申しわけありませぬ」
 そんな! わたしこそ! ……ああ、そうだ。
「トモ、この子がさっき言ってた精霊さん。椋の彦さん」
「そうか……ありがとう。君が来てくれなかったら、もうダメだったよ」
「お初にお目にかかります。王の薬師殿。黒金山の翁からよろしくと言伝を」
 椋の彦がきびきびと挨拶する。
「カラス達が君に知らせてくれたの?」
「はい。その通りです」
 なに? なに? わたしはトモに怪訝な顔を向けた。
「えっと、いつも、ほら、あの木の所に、カラス達がいるんだ」
 そういってトモは少し離れたところに立っている大きな木を指さした。その頂上近くに、数羽のカラスがとまっていた。
「彼ら、黒金山から来てるカラス達でさ」
「あ、そうか。わたしも知ってる。いつも挨拶してくれるわ」
「そう、だから、さっき変だなと思ったんだ。あの爺さんにあったとき、カラスの姿がどこにも見えなくなったから」
「……そうか。そうだったんだ」
 わたしは納得した。トモがあの時、変と言った理由を。
「それで、カラス達も、僕らが急に見えなくなって、なんか起こったと思ったんだよ。たぶん、この子のことも長老から聞いてるだろうからね」
 椋の彦がうなずいた。
 そういいながらトモは立ち上がった。でもすぐよろける。
 わたしは、彼を支えようと思って、立ち上がりかけた。
 でも、ダメ。思ったより、疲れちゃった。そのまま腰を下ろす。
「メグ?」
 逆にトモがわたしを見る。
「えっと、ごめんなさい。なんか、疲れちゃって……」
 トモがわたしの腕を取ってくれる。
 彼に引き上げられるように立ち上がった瞬間、急に血の気がひいて、目の前が真っ暗になった。
 それからどうしたのか、わたしには分からない。
 ただ、彼の腕に支えられたことだけは覚えている。
 
 
 
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