桜色の贈りもの (5)
家の門をでる前から、そこにトモが待っていることは分かっていた。
今日は大丈夫。心構えは出来ている。
「おはよう!」
ことさら大きな声で挨拶した。
振り返ったトモの顔。ちょっと照れたような笑顔。いつもの、見慣れた表情。
でも、それが、今日は違ったように見える。なんだかまぶしく感じる。
16年間一緒に成長してきて、でも、こんなに新鮮に感じるときも、まだあるのね。
「おはよう。今日は、元気?」
トモが尋ねる。わたしは、てへっと舌を出した。
「あ〜、うん。もう元気。昨日は御免なさい」
やっぱり、わかってたのね。そりゃそうか。
「なんか、あった?」
えっと、あったというか、無かったというか……
「あ、ううん。ちょっと、夢がね……」
わたしは、曖昧に誤魔化そうとした。
「あー!」
トモが突然素っ頓狂な声を上げた。
わたしは驚いて、彼を見る。
なんだろう? トモの顔が赤い。
「ゆ、夢ね……。はは……」
なんだか急にトモの歩く速度が速くなった。
「ちょっと、なに?」
わたしは、慌てて追いかける。
駆け出す手前のスピードで、突然トモの背中にぶつかった。
「わあっと」
痛ったあ。なんで突然立ち止まるのよ。
「トモ! なにやって……」
トモの背中越しに顔をのぞき込もうとして、道の先に、奇妙なおじいさんがいることに気がついた。
時代劇から抜け出してきたような、着物姿。
そうね、御武家さんというよりは、商人のご隠居さんっていう感じかしら。
杖を持っているけど、さほど腰は曲がっていなかった。
そのおじいさんが道の真ん中で、一人、私たちの方を見ている。
トモがわたしにささやく。
「メグ。なんか変」
え? なにが?
わたしが考えを巡らす前に、おじいさんが口を開いた。
「これは、これは、お嬢さん。おはようございます」
わたし? わたしに用なの?
「そう、それ、あなた。わたしは、お預けものを、受け取りに来たものでございます」
「ああ、そうなんだ」
すぐに、ピンときた。でも、トモは、
「預かりもの?」
と、わたしに説明を求めた。
「あ、えっとね。トモに話しそびれてたんだけど、おととい、わたし、精霊さんにあったの」
「精霊?」
「うん。七北山の精霊だって」
「へえ、そうなんだ」
トモがおもしろそうに言う。
「それでね、預かりものしたの。傷ついた桜の精なんだって」
「ふう〜ん」
「その精霊さんね、黒金山のからすさんの知り合いなのよ」
「……ああ、そうか! わかった」
トモがちょっと大きな声を出した。驚いた……のかな?
「それでね、三日後に受け取りに来るっていってたの……あれ? 今日、まだ二日目よね?」
わたしは、あの時の事を思い出そうとした。確か、あの子は三日後っていったと思う。
「ふ〜ん」
トモが何か考えながらつぶやく。
私たちの会話を無表情で聞いていたおじいさんが口を開いた。
「お嬢さん。ご不審にはおよびません。既に、若木の用意が出来ましたので、引き取りに来ました次第で」
「そうなんだ。わかったわ」
わたしは、ポケットに手を入れて、預かりものを取り出そうとした。
その時、トモがさりげなくわたしの腕を押さえた。
え? なに?
見つめるわたしに彼が目配せする。それから、えらく明るい声を出した。
「あー、おじいさん。あなたも、精霊ですかあ?」
初めてトモに気がついたように、彼をじろりと見た。なんだか、ちょっと感じ悪い。
「お嬢さんの彼氏かね? まあ、そうだなあ。わしは、精霊というか、花咲爺みたいなもんじゃ」
彼はそういうと、薄く笑った。
花咲爺さん? あ、確かに、そんな感じ。
わたしの納得に、けれど、トモは得心していないようだった。
「そうなんですか。それで、山の精霊に頼まれたんですよね?」
おじいさんがうなずいた。
「じゃあ、なんで、僕たちをこんなところに連れ込んだんですか?」
おじいさんの瞳がギロリと光ったような気がした。
わたしはトモの言った言葉の意味が理解できていなかった。
こんなとこってどういうこと? いつもの通学路じゃない。
見慣れた景色。いつもの道。
あれ? そういえば……私たち以外……
「誰もいない?」
「うん」
トモがうなずいた。目の前のおじいさんの口調が明らかに変わる。
「よく気がついたね。お若いの。なんでと訊いたかね? そりゃ、わしが慎重だからじゃよ。じゃまがはいらんようにな」
「なに? どういうこと?」
わたしの頭は混乱する。
「つまり、精霊に頼まれたわけじゃないって事だよ。無理矢理持っていこうって事」
えー! そうなの? じゃあ、この人って、誰?
トモのその答えに、おじいさんは平然と言葉をつなぐ。
「無理にとは、おもっとらんかったがな。事実、おまえさんがいなければ、お嬢さんは機嫌良く渡してくださったじゃろうに。その方がお互いのためだったと思うがの」
「あー、そうか。それは思いつかなかったな。その方が良かったかも」
トモのそれは、全然、良かったなんて思ってない口調だ。
「でも、ちょっと、気付いちゃったもんで……」
「まあ、良かろう。さあ、無駄話はこの辺にして、預かりものをわたしてくれんかね、お嬢さん。今からでも遅くないよ」
「渡したら、どうするつもり?」
「まあ、なんだね。わしが有効に使ってあげるよ」
「それって、どういう……」ことだろう?
桜の精霊を使う? なんに? どうやって?
それよりなにより、精霊さんはどうなるんだろう?
わたしは逡巡してトモを見る。
表情が厳しい。
おじいさんがにやりと笑った。
「たとえば、こんな風にじゃよ」
以下のランキングに参加しています。
長編小説検索Wandering Networkオンライン小説ランキング恋愛ファンタジー小説サーチNEWVEL
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。