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    透明少女 (5)
 ところで中学になってから、トモはたびたび友達からラブレターを代理で渡す役を頼まれていた。
 これには、理由があった。まず、人の頼みを断れないこと。それから、実はトモの作る香りを、手紙に含ませると、カップル誕生の成功率が上がると思われていたことだ。
 トモがいつから粉混ぜ研究を再開したのか知らなかったけど、今度は慎重に、書いてあることを読みとる努力をしたそうだ。いくつかのパターンがあり、図と照らし合わせると、読めなくても、かなり正確にわかってきたらしい。
 それで調合した粉の中で、本当に人の恋心に火をつけやすくするものもあるらしい。
「たぶんね」
 とトモはいった。わたしは、ホントかなあ?と首をひねっていたけど。

 中学最後の頃、トモが、わたしに、一つのカプセルをくれた。
「これ、飲んでみて」
 わたしはちょっと彼を見つめた。彼はうつむきながら、
「これ、メグのあれが直ると思うんだ」
「ホント?」
「確証はないけど、あの時作った薬の解毒剤のはずなんだ」
 わたしはちょっと逡巡した。
 ほんとにこれ大丈夫なのかな?
 でも、トモが真剣な顔でいるのは、本気なんだ。
 わたしは、思い切ってそのカプセルを飲んだ。
 体に……特に変わった感覚はなかった。
 トモは、もう一つ別なカプセルを出した。
 そのカプセルを割って手の平に載せる。粉がこぼれて、香りが立つ。
 あ、この香り、あの時のに似てると思ったとき、また頭の中で音が鳴り響き、わたしの体は、透明になった。トモが、がっくりとうなだれるのが見える。
「トモ……」
「ごめん、メグ。うまくいかなかった。あの時作った薬、ちゃんと作ると感覚が鋭くなるけど、透明になったりしないんだ。でも、あの時は量も適当だったし、入れたものがちゃんと合ってたのかも今となってはわからない……。でも、絶対元通りにするから、待ってて」
 それが、トモの約束になった。

 高校になって、トモにはますます手紙の依頼が増えた。
 男の子からも、女の子からも頼まれているようだった。
 もう代理で渡すようなことはせず、匂いをしみ込ませた手紙を依頼人に返すだけにしていた。
 そうそう、中学の時からわたし宛の手紙は断ってたっていう噂を聞いたことがある。
 そのくせ、わたしにはそんな手紙一度もくれないってのは、どういうことよ、トモ。
 面と向かっては言わないけど、わたしだって欲しいじゃない。

 そのうち、トモはなんだか探し物の依頼もするようになった。
 多分はじめは、依頼人に返した手紙が行方不明になって、それを探し出したことから始まったんだと思う。
 例の感覚が敏感になる薬を使えば、香りの付いた手紙を探すことなんて容易い。
 トモは、依頼人の団地のゴミ捨て場から、その手紙を見つけ出した。
 それから噂を聞きつけて、クラスの子やその友達、さらにその友達なんかが、無くなった財布を見つけてほしいだとか、どこへ行ったかわからない鞄を探してくれとか、大切な写真の在処とかそういうのを頼んできた。
 トモはそれを断りもせず、律儀に探してあげていた。どうしても自分で見つからないときは、私に頭を下げた。
 トモは自分では、半径200メートルぐらいの範囲しかわからないと言った。
 私はためしてみたけれど、匂いならば、風下なら10キロ以上先でもわかった。物音なら、2キロぐらい先で人の足音がわかった。
 薬を飲まなくても、においを嗅いだだけで感覚が鋭くなった。体も透明になっちゃうけど。
 だから、たいてい私の部屋でトモと一緒にそういう調べ事はした。
 そういう頼み事の度に、私はトモに、おいしい料理を要求した。
「これは、私の報酬だからね」と。
 最近になって、彼は力仕事も頼まれているらしい。これは、わたしの出番はないからいいけど、トモで大丈夫なんだろうか?
 そういう訳で、わたしの長い昔話は終わり。
 今日の事に戻ろう。
 
 
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