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    秋祭り (6)
 ドゴン!
 ものすごい音がした。男の手が止まる。
 わたしはハッとして、首を振る。
 涙に歪む視界に、飛び出していくネコとゆらりと立ち上がるトモの姿が映った。
 その足元の床板が大きくめり込んでぬけている。
 トモの拳から木片がぱらぱらと落ちていた。

 今まで一度も見たことのない、トモの怒りの形相。視線だけで相手を貫きそうだ。
 そのトモの姿が、瞬間かき消えた。
 え? 消えた?
 と思ったとき、わたしにのしかかっていた男が吹っ飛ばされて、床を転がっていった。
 いつの間にかトモがそばにいる。
 そして、わたしの体を浴衣で被ってくれた。
「トモ〜」
 わたしは涙に濡れる顔を上げた。トモがその涙を手で拭ってくれる。
「ちょっと、待ってて。やっつけてくる」
「うん」
 やっつけろ。わたしが、許す。

 驚いた顔で立ち上がった男にあわせて、トモも立ち上がる。
 男が不思議そうにつぶやいた。
「おまえは、誰だ?」
「それは、さっきこっちが訊いた!」
 トモがそう叫ぶと、また姿がかき消えた。
 次の瞬間、男の前にトモはいた。
 男が腹を押さえ、それからのけぞって吹っ飛ばされた。
 ちょうどさっき、トモが倒れたときのように。
 わたしにはいつ殴ったのか?
 そもそもパンチだったのかキックだったのかさえわからなかった。
 トモの動きがまったく見えない。
 姿が消えるのだって、きっと猛烈なダッシュで動いてるんだ。
 たぶん、また新しい薬なのね。
 わたしはそう思い、少し余裕がでてきた。

 男が頭を振って立ち上がる。さっきまでの余裕は消えていた。
 トモがかき消えて、男の前で現れた。
 その腕が、男の腹に突き当たっている。
 男は体を折りながらも、その腕をつかんでいた。
 トモの動きを止めるつもりだ。
 トモが動くより早く、男がもう一方の腕もつかむ。
 二人の力比べのようになった。
 両腕を高くあげながら、二人の押し合いが始まる。
 初め互角に見えたその力比べは、じりじりとトモが押しだした。
 男の顔色が変わる。
 腕を伸ばしたまま、膝がくずおれだした。
 限界と見た男が不意に力を抜いてその勢いでトモを放り投げようと腕を引いた。
 トモは、その勢いを利用して、男の顔に膝をたたき込んだ。
 男が床にたたき付けられ、跳ね飛んだ。
 もし、人だったらやばい感じ。
 今度は、男も起きあがれない。
 気絶でもしたのか、ぴくりとも動かなくなった。

 わたしは、もういいかなと感じた。
 でも、トモはそうは思ってなさそうだった。
 倒れている男に向かって、今度はゆっくり歩いていく。
 その胸元の服をつかんで顔をおこすと、トモは拳を振り上げた。
 その時、わたしの耳元で、
「すまなかったの」
 という小さな声が聞こえた。振り返ったけれど誰もいない。
 もう一度トモを見たとき、今にも拳がふりおろされるところだった。

 振りおろされた拳は、でも、男の顔の手前で、小さな手に遮られて止まっていた。
 その腕にオレンジに光る腕飾り。
 幼い杏ちゃんが、トモの渾身の拳を片手で受け止めていた。
「あ、あれ? 杏ちゃん?」
 トモがとまどったように腕を引いた。彼女が男の前で頭を下げた。
「トモさん。メグさん。どうか、この人を許してください」
 え? じゃあ……
 「この人のしたことは、許されないことじゃとわかっています。じゃが、わたしは、この人の許嫁。そして、一族の中の守護者なのじゃ。この人の不始末は、わたしの咎。どうか、それ以上の責めはわたしに課してもらえないじゃろうか?」
 やっぱり、そうなのか。
 トモが困ったように言う。
「う〜んと、よくわかんないんだけど……。僕はまだ、その人を許せない。もし、僕に力がなかったら、今頃メグは……元のままじゃなかった」
 トモはチラッとわたしを見た。
「それは、許せない。もし、そうなっていたら、きみがなんと言おうとも彼を絶対に許さない」
 トモが、ふーと息を吐き出した。
「だから……二度と、こんな事してほしくない。誰に対しても……。もし、杏ちゃんがそれをさせることが出来るのなら、約束できるのなら、それ以上は僕はいい。でもメグには、ちゃんと謝ってほしい」
 そう言って、トモはわたしのところに来て、抱きかかえるように上半身をおこしてくれた。
 杏ちゃんは顔を上げて、
「わが言霊にかけて、誓おうぞ」
 と、硬い表情でいった。

 その時、ううんとうめきがあがって、男が意識を取り戻した。
 男は、目の前の女の子を見ると、驚愕した表情になり慌てて逃げようとした。
 その体を、杏ちゃんが片手でぴたっと止めた。
 
 
 
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