秋祭り (2)
わたしは、振り返って、ベンチを見た。
「あれ?」
そこに、さっきまでいなかった(気がつかなかった?)小さな女の子が、一人、ベンチに座っていた。
小学校の2,3年ぐらい。白いきれいな浴衣に赤い帯。
ベンチでつまらなそうに足を振っている。
もしかして迷子かな?
わたしは、その子の所に寄っていった。
「こんばんわ」
話しかけると、女の子はうつむいていた顔を上げた。
その顔のなんて印象的なこと。
大きな瞳と高い鼻。肌が透き通るように白かった。
わあ〜、かわいい子。でも、何となく寂しそうな表情。
「どうしたの? ひとり?」
わたしは、彼女の隣に腰掛けた。
「一緒に来た人は? はぐれちゃったのかな?」
わたしの一連の問いに初めて彼女が答えた。
「今日はひとりじゃ」
あれ? ちがったのか。
「じゃあ、疲れちゃったのかな? 大丈夫?」
「なぜ、そのようなことを訊く? わたしは、普通じゃ」
そうなのか。
でも、ちょっと、おもしろいしゃべり方ね。この子おばあちゃん子なのかな?
「そう、でも、なんだか寂しそうに見えたから……なんかイヤなことでもあった?」
女の子は、わたしの顔をまじまじとのぞき込んだ。
なんだか今にも泣き出しそう。
わたしは、無意識に女の子を抱き寄せていた。そして背中をさする。
女の子が口を開いた。
「そなた、恋人はおるか?」
はあ?
がばっと女の子を離し、今度はわたしがまじまじと見つめる。
「恋人?」
「そうじゃ」
「え、えっと、たぶん、いるけど……」
わあ、なんだかドキドキする。
「そのものは、そなたに尽くしてくれるか?」
えっと、なに?
この質問って、わたし、こたえた方がいいの?
「えっと、それはどうかわからないけど……優しくしてくれるわ」
言ってて、顔が火照ってきた。う〜、恥ずかしい。
そもそもなんでこんな質問? と思ったとき、少女がはっきりわかるほど、ため息をついた。
「よいな……」
あれ? もしかして、恋の悩みかな?
ボーイフレンドと、うまくいってないとか?
「もしかして、今日一緒に来るはずだった人が来ないの?」
少女は軽く頭を振って、
「いや、それだけではない。最近わたしを避けているようなのじゃ。やっぱり、ながくいるとダメなのかの」
ながくって、その年で……ひょっとして幼なじみかな?
それなら、わたしとトモと一緒ね。じゃあ、
「そんなこと無いよ。ながく一緒にいたって、大丈夫。そりゃあ、時にはそんな時期もあるかもしれないけど……そうね、相手を思う気持ちが本当なら、何とかなるわよ」
女の子がわたしを見つめる。
「気持ちか……そうよの。じゃが、それこそあぶない。……若い子相手に目移りしおって……」
若い子? この子、小学生よね。それ以上若くてどうするのよ?
わたしは、ちょっと頭が痛くなってきた。
「若い子って、あなた十分若いじゃない。それに、もし、その子が他の子に気を取られてるんなら、その子バカだわ。あなたは十分かわいいし、これから大きくなるにつれて、もっともっと美人になるに決まってるもの。お姉さんが保証する」
女の子が、初めて嬉しそうにはにかんだ。
「だから、今、その子があなたを見ていなくても、気にすることないわ。今に、その子が後悔することになるから。きっとよ」
少女の顔にようやく笑顔が広がる。それは、ほんとに素敵な笑顔だった。
トモがようやく帰ってきた。
焼きそばとたこ焼きとついでに焼きおにぎりを持ってきた。
トモは、わたしのかたわらに腰掛けている少女を見て、
「誰?」
と訊いた。
「そういえば、名前訊いてなかったわね」
「杏」
とだけ少女は答えた。
トモがしゃがんで女の子の目線に合わす。
「ひとり?」
うなずく少女。
「もう、お祭りまわった?」
彼女が首を振る。
トモはわたしの方を向いて、目で合図する。
わかってるわよ。あんたの考えてることは。お人好しなんだから。
でも、わたしもそれがいいと思う。
「じゃあ、一緒にまわろう。杏ちゃん」
トモが、少女に言う。
彼女はちょっとわたしの目を見て、それから、うなずいた。
「おっと、その前に、腹ごしらえだな。さあ、食べよ。杏ちゃんも」
私たちはトモの買ってきた夕飯をベンチに座って食べた。
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