透明少女 (4)
ちょうど小学校3年になった頃、トモがそれまでにないほどたくさんの粉を混ぜる実験をするという。
粉が15だったか16だったかだ。
わたしはそんなに混ぜて大丈夫なのかと思ったけど、いつものように彼につきあって助手をしていた。
なかなか見つからない木箱がいくつかあったけど何とか探し出し、コップに混ぜて最後に水を注いだとき、それまで一度もなかったことに、いきなり小さく爆発した。
コップから液が上向きに噴き出す。のぞき込んでいたわたしの顔にもろにかぶった。
わたしは小さな爆発にわっと口を開けて驚いていたんだろう、噴き出してきた液を飲んでしまった。
とたんに、頭の中にあらゆる音が響き、強烈な臭いが鼻を突いた。
驚いた顔で駆け寄ってくるトモの姿がまるでスローモーションのように見える。
わたしは、頭がぐるぐる回って、そのまま気を失ってしまった。
しばらくして気がついたとき、わたしの傍らでトモがべそをかいて、泣きながら座っていた。
「メグちゃん。メグちゃん。何処に行っちゃたの?帰ってきてよー、何処行ったの」
わたしは、なんだか変だと思いながら声をかける。
「トモ、わたしここだよ」
えっ!と吃驚しながら、トモがあちこちキョロキョロする。
「ここ」
もう一度言うと、トモがわたしの方を見た。でも、ちゃんと目を見ていない。曖昧な感じだ。
トモが恐る恐るわたしに顔を近づける。トモの顔がどんどん近づいてきて、わたしの頬にトモのくちびるがふれる。
わたしはびっくりして、
「きゃっ」
と声を出した。
トモも驚いて顔を上げる。それから、また恐る恐る今度は手を近づけてくる。
わたしは、その手をつかんだ。いや、つかんだつもりだった。
服の袖は上がっている。トモの腕の位置まで。でもつかんでるはずの自分の手が見えなかった。
わたしは手品でも見ているような気分で、実感がなかった。
へー不思議だなーて言う感じ。トモが口を開く。
「メグちゃん。幽霊になっちゃったの?」
えっ? そ、そうなのかな? 急に心配になってきた。
わたしって、死んじゃったんだろうか?
その時、急激に体が火照ってきた。瞬きする間に、トモをつかむ自分の手が見えた。
トモがまた、驚いた顔をして、今度はわたしの目をしっかり見た。
「あ、メグちゃんが戻ってきた。メグちゃん」
そういいながら、わたしに抱きついてくる。トモは、また、えんえん泣きながら、
「よかった」
と繰り返していた。
そんな不思議なことがあって、わたしはしばらくトモの家の蔵には寄りつかなかった。
トモも、粉混ぜ遊びは止めたようだった。
そのまましばらく何事も起こらず、相変わらず、私たちは放課後一緒に過ごしていた。
ただ、前にも増してトモがわたしに優しくなったような気がしていた。
夏の終わりに風邪を引いた。夏休みに遊びすぎた疲れがでたのだと思う。
医者に行って、薬をもらって飲んだ。そしたら、またいきなり頭の中がぐるぐるした。いろんな音が頭の中に響く感じ。
わたしは、今度は気絶しなかったけど、パジャマからでている手足が見る見る消えていくのを見た。
怖くなった。お母さんには言えない。心配かけちゃう。
泣きそうな気分で、わたしはトモに電話した。
トモは、すぐに飛んできた。
かって知ったるわたしの家で、わたしの部屋に入ってくると、まだ透明なわたしに向かってこういった。
「メグちゃん。僕が、僕が直すから、僕が絶対直すから」
それは、夏風邪のことだったのか、それとも、この変な体質のことなのか。
トモは、それからわたしの風邪が治るまで、なんやかんやと看病してくれた。
お母さんが、部屋に入ってきて、
「トモちゃん。もう遅いから帰りなさい」
と言ったときも、
「ううん。僕、メグちゃんを看病する」
と言い張った。
家同士が古くからの知り合いだったこともあり、お母さんも、トモの家の人もトモがわたしに付いていることを許した。
わたしは、薬を飲まずに風邪を治した。風邪が治った後で、お母さんはわたしをからかった。
「いいわねーメグ。トモくんが看病してくれて」
それから、年に一回ぐらいわたしが風邪を引くたびに、トモはわたしの看病で泊まり込んだ。
まったく、律儀というか、バカというか。
でも、ありがとう、トモ。
そんなこんなで、私たちは成長していった。
中学になると、さすがに男女が一晩中一緒の部屋にいるのはまずかろうと言うことで、トモがずっと看病してくれることはなくなった。
でも、とってもおいしい物を作ってくれるようになった。
トモの料理の腕は、すごい。何を作ってもおいしくできる。
わたしは時々、トモにリクエストを出すようになった。
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