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    ラブレター (5)
 蔵に戻って、たたんでおいた服を身につけた。
 時間はギリギリだった。わたしの体は蔵に飛び込む少し前にもとに戻った。
 服を着た後も、動けなかった。
 後悔と情けなさと絶望感と。
 あんな思いをして忍び込んだのに、何も手がかりを見つけられなかった。
 トモに黙って忍び込んで、彼の秘密を見ようとした。
 そのトモがやっぱり、誰か他の人を好きになっていた。
 わたしは、自分が惨めで、世界中で一人になったような気がしていた。
 だから、涙が出るのを止められなかった。
 すすり泣いていたと思う。それでも、出来るだけ声を殺して。

 誰かが、蔵の戸を開けて入ってきた。
 わたしは、その音をぼんやりと聞いていた。
 誰に驚かれても、今の悲しい気持ちをすぐには抑えられない。
 足音が近づいてきて、その誰かが顔を出した。
 そのとき初めて、わたしは顔を押さえた。顔を見られたくなかった。
 それが……トモだったからだ。
 トモは、わたしを見つけるとさらに近づいてきて、わたしに声をかけた。
「メグ、なんで泣いてるの?」
 なんでって、なんでって……悲しいからよ。
 声にはならない。さらに彼が訊く。
「僕の部屋に居たでしょ?」
 知られていた!
 びっくりして、顔を上げた。トモの顔が思ったより近くにあった。
「あ、やっぱり。そうじゃないかと思ったんだ」
 トモがそう言って、笑う。
 なんで笑うのよ。わたしが隠れて、トモの部屋にいた事がわかったんでしょう。
 どうして、笑っていられるの? わたし、いけない事してたのに。
 どうして怒らないの? ねえ、トモ?
「なんか、探してた?」
 うわーん! 
 思わず、泣き声が大きくなった。
 トモが驚いてわたしを見てる。
 もう、我慢できなくなった。わたしは、一生懸命話そうと努力した。
「ご、ごめ、ごめんなさい……」
 涙が次から次へとこぼれ落ちる。
「わたし……トモの……トモのラブレター……見て」
 だから……悲しくなって……
「相手の人がどんな人か知りたくて……」
 だから、
「だから……忍び込んだの」
 トモが、じっとわたしの話を聞いてくれている。
 どんな風に思われてるんだろう? 
 やっぱり怒ってる? それとも、あきれてる?
 でも、でも、これだけは言わなくちゃ、今言わなくちゃ、二度と言えなくなる。
「トモ……聞いて。おねがい……」
 わたしは、涙で濡れる目を閉じた。
「トモが、誰を好きでもいい。……でも、わたしは……トモの事が……好きなの。大好きなの」
 まぶたにトモの事を思い浮かべる。
「小さい時からずっとあなたと一緒だった。いつ好きになったかわからないまま。でも、こんなにも、あなたの事が好き。それだけは、知っていて欲しいの」

 わたしは、薄く目を開けた。
 トモの表情を見ようとして……でも、涙で何も見えなかった。
 突然、わたしの体は抱きしめられた。
 トモの頬がわたしの頬に触れる。トモの胸が、わたしを抱きしめる。
 わたしは、その暖かさを感じながら、でも、ラブレターの彼女の事を思った。
「トモ……柊さんに、悪いよ。……トモの好きな人に」
 トモが、ガバッとわたしの肩を押さえ、真っすぐわたしを見つめた。
「メグ、それは、誤解だよ」
 そう言って、わたしに便せんをさしだした。例のトモのラブレター。
「でも、これに……」
「これは、とうさんのなんだ。とうさんが、かあさんに出したラブレター」
 えっ?!
 わたしは、しばらく理解できなかった。
 トモが書いたんじゃないの? そうなの?
 柊優子さんて……トモのおかあさん? おばさん? そうなの?
「そうだよ」
 でも、でも……トモの机の上においてあった。引き出しに入っていた。
「それは……ちょっと参考にしようかと思って……かあさんに借りてたんだけど」
 そ、そんなことって……
 それじゃあ、みんなわたしの勘違い? わたしの早とちり?
 わたしは、急に恥ずかしくなった。顔がいきなり火照ってくる。
 じゃあ、わたしのやった事は、無駄足だった? わたしの思いは……
 はっとして気づいた。さっき派手に告白したことを。
 うわ〜、恥ずかしくて、恥ずかしくて、恥ずかしい。
「メグ」
 トモがずっとわたしの肩を握っている。
「僕が、誰かを好きになったと思った? 君以外の誰かを。……もしそうなら、ごめん。そんなふうに思わせてしまって」
 トモの言葉がわたしの胸をドキドキさせる。
「メグ。僕は、君が……好きだ。誰よりも君の事を想ってる。だから、安心して」

 ああ。
 わたしは胸が一杯になった。
 あんなにも苦しくて、悲しかった胸が、今、暖かくてホッとしている。
 トモの腕が再びわたしの背中に回り、わたしたちは幾度めかのキスをした。
 わたしの心は、満ち足りていた。涙は止まらなかったけど。
 なんだか、キスする時は、いつも泣いてる気がする。
 
 
 
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