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    ラブレター (4)
 トモの家の大きな蔵。
 かつて、わたしとトモの秘密基地だった蔵。
 そこで、わたしたちは初めて、薬を調合し、わたしが今の体になったその場所。
 その場所で、今、わたしはカプセルを飲み、服を脱いで裸になった。
 透明な裸に。

 トモの部屋まで音を立てないように歩く。誰にも会わないまま部屋に入り、扉を閉めた。
 感覚が鋭くなっている今のわたしには、このあいだの手紙、トモのラブレターを見つける事は、雑作もないことだった。
 それは、トモの机の引き出しに在った。
 きれいに折り畳まれたそれを、わたしは、おそるおそるひろげて、もう一度確かめる。
 宛名は、『柊優子』
 差出人は、『御薬師』
 間違いない。
 ……ああ、やっぱり。
 ひょっとしたら、見間違えていたかもという、わたしの淡い期待は外れた。
 震える手で、便せんをまとめ、もとのように返す。
 それから、わたしは、柊さんの手がかりが、どこかにないかと探した。
 雲をつかむような探索。
 いくら感覚が鋭くなっていても、何を探していいのやら、わたしにはわからなかった。
 だから、トモの引き出しのノートやら、本棚の本の間を、注意深く見ていった。
 集中力を視力に集めて、それこそ、ぱらぱらとめくったノートの一字一句記憶することができるぐらいに。
 
 どのくらいその作業に没頭していただろう? 
 わたしは、それでも、何の手がかりも見つけることができていなかった。
 その時、昨日と同じように、ドアノブをまわす音が耳に飛び込んできた。
 ハッとした。持っていた本を急いで、本棚に押し込む。
 それから、できるだけ扉から離れた。
 ドアを開けて入ってきたのは、帰ってきたトモだった。
 部屋に入って扉を閉め、鞄をベッドに投げ出すと、トモはちょっと本棚のほうに目を向けた。
 わたしの押し込んだ本が、少しはみ出している。
 心臓が、ドクンと鳴った。
 お願い、気づかないで――
 わたしは、息を止めていた。
 トモは、それには気づかずに、そのまま自分の机のいすに腰掛けた。

 ほっとした……あと、気づいた。大変な事に。
 トモは、部屋の扉を閉めていた。
 わたしが抜け出すには、トモに気づかれずにその扉を開けないといけない。
 ……無理だ。
 この距離で、音が聞こえないようにドアノブをまわし、扉を開けて出て行くなんて、出来っこない。
 胸が苦しくなってきた。
 どうしよう? でられない……
 その時、もう一つ重大なことに気づく。サーと血の気が引いて来た。
 トモの机の上の置き時計。
 この部屋に入った時の時刻は確かめた。もう20分近く経っている。
 だから、もうすぐ薬が切れる。
 薬が切れれば、わたしの体はもとに戻り……トモに見つかってしまう。彼の部屋で、裸のままで。
 わたしは絶望的な気分になった。
 トモは、なんて言うだろう。驚くだろうか? 何をやっていたのかきくだろうか?
 理由を知ったら、どう思うだろう? 嗤うだろうか? それとも、軽蔑する?
 わたしは、どうするだろう?


 いつの間にか、壁際で座り込んでいた。
 トモは、いすに腰掛け机で何か書いている。
 わたしは、怖くてそれを見る事も出来ないで、じっとトモの後ろ姿を見ていた。
 彼の肩越しに見える時計の針が、もうすぐタイムリミットに近づく。
 わたしは、覚悟した。
 トモに軽蔑され、嫌われるのならば、とにかく自分の言いたい事だけは伝えよう。
 自分の気持ちだけは言おう。たとえ、トモが誰を好きだとしても。
 立ち上がって、トモの机の横まで歩く。
 そのとき、
「ああー!」
 トモがいきなり大きな声を上げて立ち上がり、部屋を出て行った。
 ―――扉をあけて。
 わたしは、一瞬あっけにとられた。
 それから、走り出すようにトモの部屋を後にした。
 
 
 
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