失われた宝玉 (6)
「王、亡かりし今、王の薬師も、もはや絶えたと思っておったが……」
……え?
なにそれ? 王の薬師?
それってトモのご先祖のこと?
「後ろに控えしは、そなたの奥方か?」
彼がわたしを見て(たぶん)言う。わたしはちょっと焦った。
「奥方なんて……違います。まだ、違います」
言った意味に気づいて顔が赤くなってくる。
「ほう、ほう。そなたの名は?」
「わたしは……天野恵です」
その時、彼が一声鳴いた。
たぶんカアーと鳴いたんだと思う。わたしには、ほおーと言ったように聞こえたけど。
でも、その声の大きさにちょっとびっくりした。
なに? なんで、驚かれてるの?
「これは! 王の薬師の奥方は、天の姫御前であったか。それは、良きことを聞いた。今日は、良き日じゃ!」
わたしの脳裏を疑問符が駆けめぐる。
あの〜、カラスさん。何をおっしゃてるんでしょうか?
王の薬師とか、天の姫御前とか、全く意味が分からないんですけど。
わたしに分かるように説明してよ。
いや、それ以前に奥方じゃないんですけど。
「ほう、ほう。良き日じゃ。良き日じゃ」
ちょっと、もしかして、耳が遠くなってる訳じゃないよね?
わたしは困った顔でトモを見た。
トモはかまわず、本題にはいる。
「お願いがあってきました。たぶん一月ぐらい前、あなた達の誰かが、ダムで緑に輝く玉を拾われたと思うのですが、それを、返してはもらえませんか?」
カラスたちが、何かささやく。ささやきが見る見る広がっていく。
長老ガラスのそばにいる一羽が口を開いた。
「その玉、たしかに我らが仲間が見つけた。しかし、拾ったものが持つのが我らの掟。それを譲れというは、手ぶらでは出来まい」
だって、それって、枝村さんの形見なのよ。
わたしはそう言おうと思ったけど、それより早くトモが口を開いた。
「ええ、わかります。だから、お礼をします」
そうなの? なんか持ってきた?
「もし、あなた達が怪我をしたり、病気になったら僕のところに来てください。そしたら、僕が治療します」
ええ?! トモ、出来るの?
「僕の出来る限りのことを……だから、返していただけますか?」
トモが頭を下げた。
わたしもあわてて頭を下げる。
「ほう、ほう。これは、返さずばなるまい。王の薬師と天の姫御前のねがいじゃ。我らに不足があろうはずがない」
長老カラスがそう言うと、ばさばさという音がして、一羽のカラスが広場の中央に降り立った。
口にくわえていた物を地面に落とす。
それはたしかに深い緑色をたたえた玉だった。
「ありがとうございます」
トモがもう一度頭を下げた。
「なんの。そなたらに出会えた今日は良き日よ。また、そなたの約束はいかにも厚恩。これより、我ら一族、そなた達困りし時、手を貸そうぞ」
そう言うと、広場に降りていたカラスたちは一斉に飛び立った。
空が、一瞬暗くなったような気がして、カラスたちは飛び去っていった。
後には、緑の宝玉が残っていた。
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