透明少女 (3)
どうしてわたしが、夜の道を裸で露出まがいの事(見えないけど)をしなくちゃいけなくなったかは、直接的には今日の昼休みに、トモがネコ探しを頼まれたからなんだけど……。
それだけじゃ、どうしてわたしが透明になるのか説明できないから、もう少し昔のことから話すね。
わたしの名前は、天野恵。みんなにはメグって呼ばれてる。
高2の16歳。花も恥じらう乙女なのだ。
これでも、陸上部短距離のエースで、結構速いんだよ。
身長165センチ。スリーサイズは、上から…………おしえてあげない。
で、さっきまで倉庫で一緒にいたのが、御薬師友之。
同級生。というか、幼なじみで、腐れ縁。
“みやくし”なんて、珍しい名字。小さい頃は、“おくすり”だと思ってた。
うちの家と、彼の家は、住宅街からはかなり離れた山の麓にとなり合って立っている。
お屋敷があって、古い家柄だそうだけど、家も相当古い。
小さな頃は、近くに他の友達がいなかったから、二人で一日中遊んでいた。
まだ、男とか女とか気にしない頃だったから、二人でずいぶん無茶なことをやった。
トモは、どっちかって言うとおとなしくて、こちらが言ったことを断れない性格だった。
それは今でもあんまり変わってないかな。
小さい頃、わたしの家の庭にある大きな木の上に、とってもきれいな薄緑色の昆虫が止まっていたことがある。
わたしがきらきら光るその虫がほしくて、取ってきてって頼んだとき、トモははるか木の上まで登ってくれた。
でも、虫は逃げちゃったけどね。
降りるとき、足をのせた枝が折れて、トモは2階ぐらいの高さから転がり落ちた。
わたしはびっくりしてかけよったけど、かすり傷ぐらいで済んで、ほんとよかった。
それから、屋根の上に登って、落ちたツバメの子を返してあげてと頼んだときも、何年ぶりかで降った大雪をかき集めて、屋根に届くぐらいのかまくらを作ってほしいと言ったときも、トモは、いやがらずわたしの言うことをきいてくれた。
でも、いつも転げ落ちるのには驚いた。
なんて、鈍くさい。怪我しないのが不思議なぐらいだ。
人の頼みを断れないのは今も同じだ。
今回の件もそうなんだけど、それを話すにはもう少し説明がいる。
トモは別に勇気がないから断れない訳じゃない。勇気はヘンにある。弱いけど。
小学校で喧嘩なんかしたときは、たいてい泣かされていた。
でも、女の子がいじめられてたり、一人が大勢と喧嘩したりしてると、なぜかしゃしゃり出ていた。
たいがい泣かされるんだけど、それでもあきらめない。
最後は相手がいやになって終わることが多かった。
だからなのか、ある意味、みんなには好かれていたかな。
わたしはちょっと複雑だったけど……。
でも、学校が終わって、家に帰ると近くにいるのは二人だけだったから、やっぱり二人で遊んでいた。
トモがわたしの無理難題をきいてくれるかわりに、わたしだってトモのしたいことを手伝った。
でも、それが問題だったんだけど。
トモの家に古い大きな蔵がある。
その場所は、小さいときから私たちの秘密基地のようになっていた。
中には、食器やら調度品やら、布団なんかに混ざって、なんだかよく分からない物がいっぱいあった。
たくさんの書物や巻物に、よくわからない粉が何種類も入った木箱。粉をひくすり鉢や、棒。
ある時、トモが粉の入ったいくつもの木箱に振ってある記号が、巻物の文章の中にでてくることを発見した。
もちろん、巻物なんか読めない。今だって読めないと思う。
なんだか流れるような、くっついた昔の文字で書いてあった。
でも、ちょっとした絵が書き添えられていた。
二つの粉を混ぜて、水でも加えているような図。
私たちはおもしろ半分に、記号の木箱を捜して、ちょっとだけ中の粉をコップにとって、水道水を加えた。
その時、コップから漂ってきた香り。
とっても甘く、心地良い、まるで、まどろむ前のような気分にさせられた。
それから、トモは、その粉混ぜ遊びに夢中になった。
巻物に新しい記号の組み合わせを見つけては試していった。
わたしはトモの助手よろしく、彼が言う木箱の中身を取りコップに混ぜていった。
実験は成功するときも、失敗するときもあった。
いろんな気持ち良い香りがするときもあれば、全然無臭の時もあり、酷い臭いになるときもあった。
今から考えると、あれは別に香りがどうこうではなかったのだけど。
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