鈴の音(4)
「かあたん」
その声に驚いて振り返った。
そこに……幼い男の子が肩で息をしながら立っていた。
「かあたん、起っきした?」
まだ2歳か3歳初めぐらいのその子は、思ったよりしっかりと駆け寄ってくる。
わたしは、瞬間、呆気にとられ、そして、一瞬にして理解した。
この子は……わたしの子供だ。
そう確信する。
「……修くん」
見た瞬間わたしの脳裏に名前まで浮かんだ。
なぜだろう? この世界では、そんなふうになってるんだろうか?
腕を広げて迎え入れる。男の子はその中に飛び込んできた。
抱きしめた体が熱いくらいに感じる。
たぶん走ってきたんだ、この子。
わたしは、もう一度、男の子の顔を見つめた。
その顔は誰かに似ていた。そう、誰かに。
途端に心臓がドキドキしだした。
「かあたん。こっち来て」
男の子がわたしの腕をとって引っ張った。
「ど、どうしたの?」
「あーたんが、あぶない事してる」
あーたん?
それが誰だかわからなかったけれど、男の子の今にも泣き出しそうな真剣な表情がことの重大さを伝えていた。
「どこ?」
「お庭」
わたしは駆け出す男の子を追いかけて廊下を急いだ。
着いたのは最初に目を覚ました座敷だった。そこから庭が見渡せる。
先に部屋に入った修が縁側を越えて庭に飛び降りていく。わたしの目はその先を追って……
そこに大きな柊の木があった。枝をいっぱいに張って天に伸びている。
小さい頃、トモにその木の上に登ってと頼んだあの木だ。
その青々と茂った枝の中に赤い靴が見えた。
あれ?
小さな赤い靴がもこもこと動き、誰かが木を登っていく。
その時、葉っぱの影からひょいと顔が覗いた。
おさげ髪の幼い女の子が目を輝かしている。
ああ。
その瞬間、またわかってしまった。
「亜希ちゃん!」
わたしはその子の名を呼んでいた。
女の子は声に驚いてわたしを見ると、でも、舌をぺろっと出して笑顔で手を振った。
「かあた〜ん」
そう、この子も……わたしの子供なんだ。修の兄妹。双子の妹。
わたしは突然のことに驚いていた。
急に大人になって……二人の子供がいて……これっていったい、どうなってるんだろう?!
でも、驚いているはずなのに、なぜだかそれをすんなり受け入れている自分がいた。
これが当然のような気がしていた。
木の下にたどり着いた修が亜希を見上げて声をかける。
「あーたん。あぶないよ。おりて」
その光景を見ながら、なんだか笑いそうになってしまった。
亜希はおてんばなんだな。修は慎重なのかな?
あは。ふたりとも誰に似たんだろう?
そう思ったら、もう一度心臓がドキドキしてきた。それを紛らわすように子供達に声をかける。
「亜希ちゃん、それ以上登っちゃだめだよ。下りられなくなるよ。修くんも登りたい? わたしが見ててあげようか?」
そう言うと亜希が胸を張った。
「だいじょぶ。とうたん、いるもん」
え?
亜希の声で心臓が跳ねる。
とうさんって、えっと、あの……
そうと信じていても、どこか不安が胸をよぎる。
わたしはほんとに彼と一緒になったのかな? ど、どこに、いるの?
庭をキョロキョロと見回しても、その姿が見つけられない。
「どこにいるんだろう?」
つぶやきが漏れた。その声を聞きつけたのか、修が言った。
「おそら」
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