第十八話〜夏休み最初の日曜日。
人でごった返す川原の土手に立ったトモとメグと優奈。花火の宵に優奈はある決心を固めていた。
第十八話 花火の宵(1)
「うわー、すごい人だよ」
わたしは思わず声を上げた。
土手の上に登って見た川原には人がひしめき合っている。まるで満員電車の中か、コンサート会場みたいだ。
でも、ある意味コンサートと同じかもね。と思った。
わたしは傍らのふたりを見やる。ふたりっていうのはトモと優奈さんだ。
「ねえ、どうしよう?」
そう訊いた。
そろそろ夕闇が迫っている。ここは広い川原の土手の上。
なぜ、こんなに人がいっぱい集まっているかというと、今夜ここで大きな花火大会があるからだ。
わたしたちもそれを観に来た。
8月最初の日曜日。花火大会。夏休みのわたしたち。
そりゃ見に来るでしょう?
え? 受験生じゃなかったのって……えっと、きょ、今日は、いいの。いいんだから。
受験生にも息抜きは必要だし、それにね、この花火大会は優奈さんが誘ってくれたんだもん。
そう、あれは夏休みに入って、ほんの数日しか経ってない夜。
優奈さんから電話があった。
*
大変なことのあった修学旅行のあとで、それでも、わたしたちの日常は戻ってきていた。
7月の終わりは夏休みの始まり。いつもなら待ちに待っていた夏休みが始まっていた。
でも今年は、わたしたちは悲しき受験生。受験勉強もあるし夏期講習だってある。
あ〜あ、とため息を洩らしかけて、いけないいけないと思う。
だってあの時あのトンネルの暗闇の中で、ちゃんと目標が出来たんだもの。成りたいものが出来たんだもの。
だから頑張って勉強する。そう決めたんだ。
夏休みの予定表を見ながらそんなことを考えていたら携帯が鳴った。液晶の画面を確かめる。
「あ、優奈さんだ。もしもし……」
「メグ、元気?」
優奈さんの明るい声が聞こえる。
「元気って、一昨日まで学校で会ってたじゃない?」
「あはは。そうだね。あのさ、メグ」
「うん。なに?」
「今度の日曜、花火行かない?」
花火? 花火かあ。
いいなあ。綺麗だろうなあ。
「うん。行きたい! 行こう! 行こう!」
「メグ、勉強大丈夫? 講習とかない?」
うっ! 講習はないけど、勉強は……
「ああ……いい。大丈夫。ずっと受験勉強ばっかりなんて、してられないよ」
「よかった。それでね」
「うん」
「……御薬師くんも誘える?」
優奈さんがわたしの返事を訊くためにちょっと黙った。
わたしは一瞬考えて、それから答えた。
「大丈夫。トモも連れていくよ。絶対」
「メグ……ありがとう」
それからわたしたちは当日の待ち合わせのことや、ふたりで浴衣を着ていくことなどを決めて電話を切った。
そのあとで、わたしは予定表のカレンダーに大きく丸を付けると『花火』と書き入れた。
きれいな花火のイラスト付きで。
*
「これでよし」
ふうと一息はくと、携帯を閉じながら優奈は独り言を言った。
これで、いいよね。
長い夏休みが始まる前にちゃんとしなきゃ。
このまま夏を過ごすわけには行かないもの。
優奈はそう自分にいいきかす。
大丈夫。覚悟は出来ている。あとは、勇気だけ……。
胸の前で手を組んで彼女は静かに目を閉じた。
脳裏にほんの一週間前の出来事が浮かぶ。期末試験の最終日。
「彼に感謝しなくちゃ」
彼女はそう呟いた。
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