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     修学旅行〜初日・アクティブ&かしまし(3)
「はふー」
 縁側のイスに座って息を吐いた。
 布団が敷き詰められた部屋では、メグたちが集まってまだおしゃべりしている。
 あたしもさっきまで加わってたけど、ちょっと一息。抜け出してぼんやりみんなの姿を見ていた。
 メグの優しい笑顔が見える。
 その笑顔を見ながら思っていた。

 メグは……優しい。
 あたしは、その優しさに甘えている。
 あの日、メグはあたしの気持ちを知っても怒らなかった。
 それどころか、あたしが御薬師くんのことを好きでいてもいいと言ってくれた。
 そして、あたしが彼といることを許してくれている。
 それがメグにとってどんなに苦しいことか、あたしにも分かる。
 時々メグの見せる悲しそうな表情に、あたしは気づいている。
 さっきもメグと御薬師くんの話がでたとき、メグはあたしに気を使ってくれた。その時のメグの表情。それでも……
 あたしは、このふた月近く御薬師くんの傍にいた。
 それは、とても楽しくて、うれしくて、あたしにとっては夢のような時間。
 メグに悪いと思いながらも浮き立つ気持ちを抑えられない。時々はメグのことを忘れてしまうほどに。
 そして、もっと望んでしまう。彼のことを欲してしまう。
 自分が彼の恋人になって一緒に歩いている姿を想像してしまう。
 あたしって欲張りだ。そんなことできるわけないのに。
 だって御薬師くんの近くにいればいるほど、わかってしまう。彼にとってどれほどメグが特別な女の子なのか。
 彼のちょっとした視線、口調、仕草。他の人にはわからないかもしれないけれど、あたしには一目瞭然だ。
 だから、そんな彼のことを想うと切なくて胸が苦しくなってしまう。
 あたしは御薬師くんの特別には、なれない。
 それが分かっているから、彼の傍にいることは、楽しいけど、苦しい。
 でも、それでももう少し、この時間が続いてほしい。楽しくて切ない、この時間が。
 そうしたら、いつか、この苦しさがおさまるときがくるかもしれない。
 彼のことをもっと自然に想うことができるようになるかもしれない。
 ……なれる、かなあ?
 そんな日が来るのかなあ?
 そんなこと、できるのかなあ?


「はあ」
 思わずため息が漏れた。
「優奈さん、どうしたの?」
「ふへ?」
 物思いに沈んでいたらメグがいつの間にかあたしの傍らにいた。跪いてイスに座るあたしを見上げている。
「なんかあった? ため息ついてる?」
「あ、ううん。違うの。ちょっと、疲れただけ」
「そう。それならいいんだけど」
 そう言ってメグはみんなのところに戻ろうとする。
 あ、
「ちょっと待って」
 メグの腕を掴んだ。
「ん?」
「あの、さっきはごめん」
「なんのこと?」
「御薬師くんとあなたの話。気を使ってくれたでしょう?」
 メグが、ああという表情をする。
「何いってるの、優奈さん。そんなこと気にしないで」
 そう言って、メグは微笑んだ。
 あたしは胸がいっぱいになる。メグ、優しすぎるよ。だからね……
 その時、誰かがメグを呼んだ。


「メグー、3組の新井さん来てるわよ」
 部屋の入り口から女の子が顔を出す。
「明美ちゃん!」
 メグが振り返って名前を呼んだ。
 部屋を覗き込んでいた女の子の視線がメグを捉え、それから、あたしを見た。その表情がちょっと驚いたように見えた。
 あれ? なんだろう?
 少し気になった。
 メグが女の子を手招きしている。その子が部屋のみんなに手を振りながら近づいてきた。
「明美ちゃん、遅かったじゃない。もうすぐ、消灯時間になっちゃうよ」
 女の子はチラッとあたしを見てからメグの隣に座った。
「ごめん、メグ。ちょっと、悩んでたから」
「なんなの?」
「あー、うん。でも、その前に……」
 そう言って、女の子があたしに顔を向けた。
「初めまして。わたし、新井明美。あなたは?」
 少し不思議だったけど挨拶する。
「竹宮優奈。よろしくね」
 すると女の子はすかさず言った。
「えっと、ちょっと訊いてもいい?」
 なんだろう? メグも怪訝な顔で見ている。
「あなた、メグと御薬師くんの関係知ってる?」
「え?」
 心臓が小さく鳴った。
「あなた、前に御薬師くんと……」
「ちょっと、待って、明美ちゃん」
 メグが驚いたように遮った。
「それ、明美ちゃんの誤解だよ。ちゃんと理由があったんだから」
 ドキドキしながら、なんのことだろう? と考えた。
「ほんとう? でも、メグ、あの時びっくりしてたじゃない」
「ほんとうだって。あの時は知らなかっただけ」
 そう言って、メグがあたしの腕に自分の腕を絡めた。
 どういうこと? ふたりの会話がわからない。
 あたしは呆気にとられていた。
「優奈さんはね、大切な友達だよ。明美ちゃんと一緒。だから、なんでもないんだって」
 女の子がメグとあたしを交互に眺め、それから、ふっと表情をゆるめた。
「わかった。じゃあ、わたしの勝手な誤解だ。ごめん」
 そう言って、あたしに謝ってくれる。
「そんな?! よくわからないけど、あたしもメグを大切な友達って思ってる」
 メグがほっとした表情をした。
 なんだかよくわからなかったけど、それ以上口には出さなかった。
 
 
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