夏海パニック (6)
わたしは崖を見上げた。
ここをトモがわたしを背負って登る? どう考えても無理そう。
「トモ〜」
わたしは情けない声を出した。
トモはわたしの顔を見つめ、いつになく真剣な口調でいう。
「メグ。絶対登り切るから、信じて」
その表情。今まで見たことないよ。
トモってこんな顔もするのね。
あー、わかった。信じよう。わたしの命預けるから。
「わかった。そのかわり、嘘ついたら承知しないから」
わたしは無茶なことを言う。
トモは真剣な顔でうなずいて、わたしにパーカーを脱ぐように言った。
わたしはトモの背中にまわり、トモが服を二人の腰に回して堅く結んだ。
それから、腕を彼の肩から首に回す。
足を持ってもらうわけにはいかないから、わたしが彼にぶら下がるようにしなくちゃいけない。
こんな時だっていうのに、水着で彼に密着していると、ちょっと変な気分になってくる。
落ち着いて、落ち着いて、わたし。
トモが崖に足をかけた。
「いくよ」
「うん」
彼が垂直な崖を登り始める。
わたしの足が宙に浮く。
つながっている腰が少し痛い。
最初、割と順調に登っているようだった。
人の背丈の2倍ぐらいまできたと思う。
そこで、トモが少し休んだ。というよりも、ルートを探しているよう。
右腕を精一杯伸ばして、崖の窪みに手をかけようとする。
もう少し。もう少し。
「メグ。ちょっと揺れるよ」
「分かった」
わたしはしっかり彼にしがみつく。
トモがちょっとジャンプするように伸び上がる。手が、届いた。
「ふう〜」
彼が息を吐いた。
それから、少しずつ登っていく。
半分をすぎて、残りもう少し。
わたしは、もう下を見れなくなっていた。
今見るのは、怖すぎる。
トモが肩で息をしている。彼のハアハアという声が耳に届く。
わたしは、もう彼の背中しか見ていなかった。
トモ、がんばって。
わたしは腕が痛くなってきた。
そろそろわたしは限界かも。
それから……
どの位時間がたったのだろう?
急に空が明るくなったような感じがした。
それと共に一気に体が浮き上がって、それから横向きに倒れた。
硬い岩の地面が体に当たる。トモが苦しそうに息をするのが背中越しに聞こえた。
あ〜、助かったんだ。
わたしは彼の背中を見つめながら、ぼんやりと思った。
よかったあ。
トモがハアハア言いながら体を起こす。腰でつながってるから、つられてわたしも座った。
「ちょ、ちょっと待ってね。今、はずすから……」
トモが服の結び目をほどこうとして手をかける。その手が、土で汚れて、かじかんだように丸まって、しびれたように震えていた。
わたしは思わずその手を自分の両手で包んで、それから、強く抱きしめた。
「ありがとう。トモ。ありがとう」
なんだか涙が出そうだった。
服の結び目は、堅くてトモの指ではほどけそうになかったから、わたしがほどいた。
結構時間がかかったけどね。
服は、袖の付け根が少し破れかかっていた。
「あ〜あ。こないだ買ったとこだったのに」
残念。でも、命には代えられないか。
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