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    夏海パニック (5)
 頭から海に突っ込んだ。
 目の前に泡が浮く。体が回転して、息が苦しい。
 上、上はどっちだろう?
 わたしはパニック手前で、海面を探した。
 光が射す方を見つけたと思ったとき、誰かの腕がわたしの胸にまわり、海面に向けて急速に引き上げてくれる。
 ブファー! 顔を海面に出して思いっきり息を吸った。
「メグ! 大丈夫か!」
 横を向くとトモの顔がすぐ近くにあった。
「あひー……大丈夫じゃないよー」
 もう、怖かったあ。それより……
「トモ、腕、胸!」
 彼の腕がわたしの背中からまわって、手のひらが胸に当たっている。
「あ、ごめん」
「うわあ」
 彼が腕を放すと沈みこんだ。
 わたしはあわてて彼の肩に掴まった。それから、改めて周りを見る。
「ここ、何処?」
「さあ?」
 トモが応える。

 わたしは状況が全然よくなっていないことに気がついた。
 いったい何キロ流されてきたんだろう?
 20メートルぐらい先に岸は見える。でも、断崖絶壁。左右を見てもずーとそんな崖がつながっている。
 ボートは? 何処に行ったのか、すがたかたちもない。
「とりあえず、岸に見える岩まで泳ぐよ」
「わかった」
 わたしは泳ぐために、ばた足しようとした。
 とたんに右足首に激痛が走った。
「痛い!……トモ、どうしよう? 右足動かせない」
 投げ出されるときに、ボートにぶつかったのかな。どうしよう、これじゃ泳ぐこともできない。
「僕に掴まって」
 トモの肩に両腕をかけた。彼がゆっくり泳いでいってくれる。

 岸近くの岩場について、どうにかはい上がった。
 わたしの右足は、赤く腫れていた。さわると痛い。
 風を受けて、波が荒い。岩場の上まで波が上がってくる。
「トモ〜。どうしよう」
 どっち行ったらいいんだろう? この岩場何処まで続いてるのかな?
 それ以上に崖づたいに泳いでいくことを考えたら、絶望的な気分になってきた。
 足も動かないのに……。
 トモが、海を眺め、後ろを向いて崖を見上げた。そして……
「ここ、登ろう」
「えっ!」
 目の前の崖は……高さ大体うちの4階建ての校舎ぐらい。
 それって、どの位かな? 10メートルぐらい? ほぼ垂直に見える。
 無理だよ、こんなの。登れっこない!
 少なくともわたしには無理だ。足が痛くなくても無理。
「トモ、無理だよ。わたし登れない」
「僕が背負って登る」
 え? それ、むちゃ。だいたい一人でも登るの難しそうなのに……
「わたし軽くないよ。五十むにゃ、むにゃ、キログラム」
「大丈夫だって」
「えー、でも、トモ、よく高いところから落ちてたじゃない」
「登るときに落ちたことは一回もない!」
 そ、そうだっけ? そんな気もするけど、でも……
「大丈夫。絶対登り切るから……。それに他に方法がない」
「じゃあ、トモだけ行って、あとで人を呼んで助けにきて」
「それも考えたんだけど、だめそうなんだ。……さっきから、見てるんだけど……たぶん海面が上がってきてる」
 そういえば、岩場の面積が明らかに小さくなってる。
「それに波も高い。だから置いていけないよ」
 う〜ん。そうだけど……あ、そうだ!
「あの力が強くなる薬持ってきてるの?」
 わたしは期待して聞いた。
「いいや。持ってきてない」
「でも、他にもいくつかあったわよ。このポーチの中に」
 わたしはポケットの中に入っていて、落とさなかったポーチを取り出した。
 中に、水色とピンクのカプセル。
「一つは、疲労回復のだけど、今は使えない」
「なんで?」
「それ、飲むとすぐ眠くなるんだ。もう一つも……今は関係ないや」
「そう」
 わたしは、かなりガッカリした。
 
 
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