第十五話〜ゴールデンウィーク最終日。
楽しくお出かけしたトモとメグが巻き込まれたのは……ひょっとして誘拐事件?
第十五話 五月の空(1)
5月の青空にはさわやかな風が吹いて初夏のキラキラする光が満ちていた。
その中を、わたしたちは天高く飛んでいた。
眼下に小さく街並みが広がっている。
ゴールデンウィークの街には、いつもより多くの自動車と所々で風を受けてたなびく鯉のぼりの姿が見えた。
子供の日だもんね。みんな家族でお出かけしてるのかな?
「メグ、どっち?」
あ、ごめん。それどころじゃなかった。
「そのまま、まっすぐ。今、交差点直進した」
何をしてるかというと、今、わたしはトモと一緒に空を飛んでいる。
といっても、飛行機とか気球とかじゃなくて、例の杏ちゃんからの贈り物の白い宝玉を使って。
これって、ゴールデンウィークのレクレーション……ではなかった(そうならよかったんだけど)。
そもそも、ふたりだけで飛んでるんじゃない。
トモの、わたしと繋いでない方の手には……少年がいた。
小学校6年生ぐらいだろうか? 意志の強そうな目をした少年だ。
現にわたしたちは、どうしてもと押し切られて彼を連れて飛んでいる。
あんまりこんな不思議、見せちゃいけないと思うんだけど。
でも、今は、緊急事態。
それが、この子の家族を誘拐した犯人の追跡ならば、仕方ないよね。
そう、私たちはこの子に頼まれたんだ。誘拐犯を追いかけてほしいと。
だから、今、こうして空を飛んでいる。五月の空を。
ただ……この子、大丈夫かな? 怖くないかな? こんなありえない経験。
そう思って少年を見ると、動じた様子も見せずトモに体を預けていた。
うん。大丈夫そうね。
そうそう、ついでにもう一ついうと、今、わたしって透明だ。
ミニのワンピースだけがヒラヒラ飛んでるの見つかったら、どう思われるだろう?
風に流された洗濯物? それとも、やっぱり幽霊?
夏には少し早いんだけど。
「トモ、左に向かって」
わたしはトモのクスリで鋭くなった感覚で犯人の乗った車を追っていた。
よくある黒い国産車。交通量の多い道をひた走っている。
でも、見失わない。逃げられると思ってるのかな?
もっとも、わたしたちが追ってるなんて知らないだろうけど。しかも空から。
あ、道をそれた。そっちは……。
「トモ、今、車曲がった。わかる?」
「え? どっち?」
「ほら、あの黒いの。山の方に向かってる」
眼下にミニカーのようにみえる車が峠へと続く一本道を登りだしていた。
「えっと、よく分かんないよ」
そうか、この高さからだと普通は見えないか。みんなに見つからないように思いっきり高く飛んでるもんね。
「山に向かうから、もう少し降りてもいいんじゃない?」
「そうだね」
トモは緩やかに高度を下げた。
新緑の翠の山が近づいて、くねくねした山道を車が木々の間に見え隠れしながら走っていくのがはっきりわかった。
トモがわたしの方を向いて見つけたと合図する。
「どうしよう、トモ? どうにかして足止めする?」
「う〜ん、そうだね。それより、追っていって隠れ家を突き止めた方がいいかな?」
でも、あんまり長く追い続けるわけにもいかないんじゃないかしら?
さすがにこの浮遊感をずっとってわけには……それに、その子のこともあるし。
わたしは少年を再び見た。
さっきと変わったところはなさそうだった。まだ、大丈夫そうね。
「メグ、あそこ」
トモの声で地上を振り返る。
犯人の車が山の中の湖に向かっていた。その畔の小さなログハウスの前で停まった。
「やった。あそこね」
「よし、じゃあ、警察に連絡しよう」
わたしはポケットから携帯を取り出そうとした。その時、少年が慌てたように言った。
「だめ。警察に知らせないで」
「え?」
わたしたちは同時に少年を見た。
「人質が心配かい? でも、ここは警察に任せた方がいいよ」
トモがそういうと、少年は頭を振って訴えた。
「だめなんだ。警察じゃだめなんだ。僕がいくから……僕が取り返すから」
「君の気持ちは分かるけど、無理だよ。君はまだ子供なんだし……」
「でも、時間がないよ。すぐ行かなきゃ。だめなんだよ」
少年は駄々をこねるようにじたばたして、空中だというのにトモの腕から逃げようとする。
トモは少年を抱え込んだ。
少し驚いてその様子を見ていたわたしの視界の端を、何かが高速で横切った。
あれ? 何?
去っていった方向に首を動かすと何かがきらっと光った。
その光はわたしたちのさらに上空を大きく回るようにして向きを変えていく。
わたしは集中して光を追った。
あれは……鳥?
タカのような、だけど不自然に光っている。
もしかして、人形?
考えている間に、ものすごい速さでぐんぐん近づいてきた。
あっ、と思った。
「トモ、危ない!」
叫んだときには衝撃がきた。
「ぐう!」
トモがどこかにぶつかられて仰け反った。
同時に、わたしたちの体がゆっくり下がりだす。
「トモ!」
とっさに抱き寄せたトモは……気を失っていた。
え? え?
うそ!? うわあ!
「起きて、トモ! しっかりして!」
わたしたちの体は重力に引かれて加速度的に速さを増していく。
わたしはトモの体を掻き抱きながら耳元で叫んだ。
「ねえ、目を開けて! お願い、トモ!」
トモの腕の先で少年が同じように落ちていくのが見えた。
ああ、やっぱり連れてこなければよかった。わたしたちのせいで、この子を……
いや、だめ。そんなの
「だめだよ。トモ、お願い起きて! みんな、死んじゃうよ!」
視界の中に急速に湖畔の地面が近づいてきた。
車から若い男が降りてこちらを見ているのがはっきり見える。
でも、何も考えられない。
わたしは無意識にトモの体を強く抱きしめた。
胸にちりちりとした感覚がする。
脳裏にはいくつもの出来事が浮かんでいく。
これって、走馬燈のようにっていう、あれ?
まずいよ。それって、死ぬとき見るやつじゃない!
そう思いながら、脳裏に浮かぶ光景はつぎからつぎへと湧き出てきて止まらなかった。
それは、楽しかった今日の出来事だ。
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