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    夏海パニック (3)
 午前中の海水は、まだ冷たくて、慣れるのに時間がかかる。
 そろそろと波に注意しながら進んでいって、腰ぐらいまでつかった。
 トモの姿は? っと。
 バッシャン!
「きゃあ!」
 いきなり背中に冷たい水がかかった。振り向くと、さらにしぶきが飛んでくる。
「トモ! 止めなさい!」
 トモが両手で海水をわたしにかけてくる。顔まで濡れた。
 くっそー、トモのやつめ。
 わたしも思いっきり水をかいて、彼にかける。二人の間に水しぶきが飛びかった。
 あ〜あ、なにやってんだろう。
 まあ、結果的に水の冷たさにはすぐ慣れた。
 それから、わたしたちは少し沖まで競争して泳いでいったり、戻ってきて浜辺で砂遊びしたりした。
 相変わらず、砂でお城を造っていたのはトモだけどね。

 お昼を海の家で食べて、浜辺のシートで寝そべって休んだ。トモは横で座っている。
「ねえ、トモ。楽しい?」
「ああ」
 ぶっきらぼうな返事。もうちょっと楽しそうに言えばいいのに。
「昼からどうしようか?」
「そうだな……。風が出て、波が大きくなってきたから……波乗りなんかいいかな」
 確かに、午前中から吹いていた風が、少し強くなってきて、波が大きくなっていた。
「トモ、サーフィンなんてできた?」
「いや。サーフィンじゃなくて、単なる波乗りでいいんじゃないかな」
 そういって、彼は海の家で、ボディーボードを借りてきてくれた。
 ちょうど身長の半分くらいの大きさ。ビート板より大きいかな。
 わたしたちは、それを持って海に向かった。
 やってみるとかなり楽しい。
 少し沖まで言って、波のくるのに合わせて、ボードにのる。
 うまくいくと、波に押されて、滑るように海面を走った。
 もちろんうまく波に乗れない時や、後ろから来た波に頭までかぶっちゃう事もあったけど。
 何度もトライして、かなりうまく波に乗れるようになった。

 さて、もう一回と思って二人で沖にいた。
 岸に向かってトモが揺れている。
 そのちょっと向こう、目の端に、小さな女の子が浮き輪に浮かんでいるのが目に入っていた。
 波で、わたしの体が上下した。トモの姿が一瞬波に隠れる。
 波が通り過ぎた後、違和感がした。
 あれ? なんか……。
 ハッとする。女の子が……浮き輪に女の子がいない!
「トモ! 女の子!」
 わたしは叫んだ。トモがすぐ気づいて、漂っている浮き輪に向かって泳いでいく。
 わたしも全力で泳ぐ。トモが潜った。少し遅れてわたしも潜る。
 目の前に緑色の世界。波で海藻が舞っている。
 トモが3メートルぐらい先にいる。その先にピンクの水着が見える。
 トモが追いついて、水着の子を抱きかかえる。そして、急いで海面に向かった。
 ぶはあ! この間30秒ぐらいだろうか?
「トモ、これ」
 女の子を抱えているトモに浮き輪を差し出す。
 彼はそれに掴まって、岸に向かって泳ぎだした。
 女の子は、目は開けていなかったけど、ちゃんと意識はあった。手で、しきりに顔を拭いている。
 よかった、大丈夫そうだ。
 その時、波打ち際で叫んでいる女の人がいる事に初めて気がついた。
 この子のお母さんかな?

 わたしたちは、女の子と彼女の浮き輪を抱え、浜にあがった。
 最初、平気な顔だった女の子も、お母さんを見ると、泣き出して抱きついた。
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
 女の子のお母さんにはしきりにお礼を言われた。ちょっと恥ずかしい。
 一度落ち着いた女の子が、何かに気づいて、もう一度べそをかいた。
「どうしたの?」
 わたしが訪ねる。
「あの、あのね……無くなっちゃった。」
「なにが?」
「……髪飾り」
 見ると、女の子の髪に一つだけ、きれいな緑の髪飾りがついていた。
「もう一方が無くなったのね?」
「うん」
 わたしは、すぐトモのほうを振り返った。彼が黙ってうなずく。
「大丈夫、このお兄さんが見つけてくれるから。心配しなくていいわよ」
「ほんと?」
「うん。約束する」
 
 
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