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あい・らぶ・まみぃ!
作:シロクロ



騙したいんじゃないけど偽るしかないんだ


爺ちゃんから話を聞いてからニ週間たった。どうせなら春休みが終わると同時にきたかったが、普段の行動の些細な癖から男と同じな俺は、事情を話すことになった数人の使用人から女の動きを教わっていて遅れた
使用人の存在にはもう慣れた。俺の場合は掃除洗濯炊事などはしてもらうが、それだけだし
ま、所詮付け焼き刃だけどな
「……」
そして今、目の前には大きな黒い柵の門。タイルのサイドには緑溢れる道の向こうには、白く大きく立派な建物がある。建物は十字架や鐘があったりするキリスト教系の、由緒正しきお嬢様学園だ
爺ちゃんの家も凄かったが、個人宅と学園はやはり規模が違う
ちなみに俺は田舎の地主の娘「滝口皐月」で、今までは家の跡継ぎとして生きてきたが弟が生まれたので、淑女となるべくここにきた。と言う設定だ
「どちらさまでしょうか?」
全寮制なので普段は門は閉まっているのでインターホンを押すと、老婆の声が聞こえた
「あ、あの…本日よりこの学園にお世話になります。滝口皐月と申します」
気の弱い読書好きで運動オンチな設定にした。これなら目立たないだろう。カツラも被り眼鏡もかけた
今の俺の見た目は長い黒髪が腰まであり前髪が目を隠し、隙間から瓶底みたいな黒縁の眼鏡をがのぞき、そばかす(化粧でつけた)のある、規律を守ってスカートはそのまま膝丈で靴下は紺のハイソックスという、典型的スタイルだ
俺が変装すると決めて一晩中考えた完璧な変装だ。これなら目立たずに溶け込めるはずだ
ちなみに学園長は爺ちゃんと知り合いだったらしく、俺が崎山皐月で今までのことも知っている。だからこそ快く試験もなしに「リハビリ」だと思えばいいと受け入れてくれた
優しさが身に染みるぜ
「ああ、皐月さんですか。お待ちしておりました。私が学園長の白鷺 妙子(しらさぎ たえこ)です。直接会うのは始めてですが緊張はしないでくださいね。今教師の一人を迎えに行かせますから待っていてください。念のためですが知っているのは私だけですよ」
「はい。ありがとうございます学園長」
まぁ正直、学園長が受け入れなければこの話は流れたかも知れないかと思えば多少は恨むがな
しばらく待つと俺より数センチ背の高い頭のゆるそうな女がやってきた
「はぁい、私はぁ、柴木 柚子(しばき ゆずこ)よ〜。今日から、滝口皐月さんの担任でぇす。あなたはぁ…誰?」
女は見た目通りの機嫌が悪い時に聞けばよけいにいらいらする話し方で、頭の悪い発言をした
「滝口皐月です。よろしくお願いします柴木先生」
「ちっちっち〜。柚子せんせーって呼んでねえ。それじゃあ案内するわー、付いてきてぇ」
そう言って柴木、もとい柚子先生は反転して校舎に向かい歩きつつも、首を回して後ろの俺を見ている
「ってきゃあ!」
先生は見事に足元の石につまづいてこけた。うん、何なんだこの面白い生物は
前に回って手をひいて助け起こすと先生は照れ隠しに笑う
「先生、大丈夫ですか?」
主にその頭の中。つかこんなのが教師でこの学園大丈夫なのか?
「うんぅ。ありがとぉ」
俺の心中なぞ知らない先生はにっこり笑ってそう言った。子供みたいな先生だな



「はじめまして学園長、この度は私をう―」
「はいそこまで。挨拶は結構よ。話はあなたのお爺様より聞いてます。彼とは昔馴染みでしてね。とにかく学園生活を楽しんでください。言われた通り手配は済ませてあるわ」
白髪をだんごにした気品ある、俺の前の大きな机に着き、シスターのような服を着ている老婆こそ学園長だ
「あ、ありがとうございます」
手配って…編入のことだよな? 一々言うことか? ……まぁいいか
しかしここに来るまで、廊下とかで他の生徒にあう度に注目されたんだが…何故だ?
 完璧な変装だからバレてないはず…
歩き方も普段がに股で一歩一歩を大きく歩くのを気をつけたりしたんだが…
「皐月さん? 私の話を聞いてましたか?」
「え、はい! 勿論です」
やべ、聞いてなかった。まぁどうせ学園生活を送る基本事項とかだろ。後で学生証見りゃ済む
「そうですか。では皐月さん、健闘を祈りますよ」
「? ありがとうございます」
「では柚子先生、彼女を案内連れて行ってください」
「はぁい」



「白雪はぁ、持ち上がりだからみぃんな仲良しなのー。だから皐月さんも、すぐに仲良しになれるわよぉ」
別に仲良しになる気はない。気が緩んでバレたら困るし
「そうですかぁ。ありがとぉございます〜」
ヤベ、うつった
柚子先生は特に気づかなかったようで、俺に待つように言うと先に教室に入っていった
教室はざわついていたが先生が何かを話すと静かになり、先生が「どーぞ〜」と言うので意をけっしてドアを開けた
見渡す限り女だった。注目を浴びているという点では緊張はするが、男がいないし好奇の視線だけなので気が楽だった
「はじめまして、滝口皐月です。田舎から出てきたばかりで右も左もわかりませんが、よろしくお願いします。趣味は音楽鑑賞と料理です。特技は縫い物と編物と刺繍です」
とりあえず爺ちゃんと母さんと相談して、できる中から女らしいものをとりあげておいたプロフィールだ。一応家事全般はできるので手先の器用さとあいまって縫い物編物刺繍は我ながらなかなかの腕前だと思う
つかマジ俺の手先の器用は神がかってるからな。トランプでタワーだってつくれるぜ
ま、小学生から中学3年まで俺の師匠だった自称元軍人爺の特訓で元から器用なのが今の状態に上がったんだけどな
拍手に迎えられて一礼をすると何やら一味違う視線に気付き、視線の元を追った
「それじゃあ一番後ろに席は用意してあるからそこにどーぞぉ」
息が、止まった
「皐月さぁん? 席についてくださ〜い?」
「あ…はい」
ゆっくりと、笑みが崩れないように、平常心を装って、空いている席に向かう。俺をじっと見つめる視線は、そらすこと何て考えることすらできない
どうしてそんな当たり前のことに気づかなかったのか。バカにもほどがある
「佐枝子さんはぁ、皐月さんの面倒を見てあげてね〜」
「はい。勿論です。よろしくお願いします、皐月さん」
隣の席の住人である高田佐枝子は、にっこり、笑っていた
「…はい。よろしく、お願いします」
だけど佐枝子の綺麗な瞳は、決して笑ってはいなかった
ブルルッ
曖昧な笑みを何とか返しながら席につくと、俺のポケットが小さく振動した
メールだ
《皐月さん?》
差出人は、佐枝子
俺ははっとして隣を見た。佐枝子は俺と視線を合わせるとギュッと眉を寄せて黙って下を見た。出席をとっている柚子先生に見つからないように机の影で、俺と同じように携帯電話をいじる
また、手の中で振動がした
《休み時間に、ちょっとよろしいでしょうか》
やられた! 半信半疑だったのに…俺が崎山皐月の携帯電話のまま対応して、佐枝子を見たから、決定的な証拠を捧げてしまった
俺は、ゆっくり頷いた
お嬢様の大半はここに通う。そして佐枝子はお嬢様で、七海とだって知り合いだったのに…何で俺は気づかなかったんだ



昼休み、俺は佐枝子と二人きりで屋上にきていた。他に屋上で昼食をとってる生徒もいるが、広いので声は聞こえない
「その…佐枝子さん…」
「皐月さんは…あの、皐月さんですよね?」
あの、を強調し携帯電話を握りながら不安気な目が俺をとらえていた。今更とぼけようとした自分が恥ずかしくて、頭をかく
「…そうだよ。これで分かっただろ? 俺の秘密ってやつがさ」
「……知りませんでした。皐月さんが…女装趣味だったなんて…でも、それでも私は皐つ―」
「ストップ! ごめん、言葉が足りなかったと言うか何もかもが足りなかったな。俺は…正真正銘の女だよ。ただ色々あって男として生きてきたんだ。戸籍は爺ちゃんのおかげで男だけど、体は女のままだよ」
「え…そん、な…」
「ごめんな。騙すつもりじゃなかったし、佐枝子の想いは本当に嬉しかった。でも、男にもなれない、女でもいられない俺は誰とも付き合っちゃ駄目なんだ。本当にごめん。傷つけたよな? 都合がよくて悪いけど…俺が爺ちゃんの孫だとか、黙ってて欲しいんだ」
「……分かり、ました。誰にも、言いません」
「ありがとう」
「いえ……私…私は…」
「俺を嫌っても憎んでも構わない。キスまでして本当に悪いと思ってる。気持悪いよな? ごめんな。…断れたのに…俺がしたいからって、ごめん」
「……あの、私、混乱…してて、ちょっと…考える時間をください」
感情の読めない、青ざめたような表情で佐枝子はそう言った
「ごめん。ありがとう」
嫌悪してくれて当たり前なのに、まだ俺と友人でいることを考えてくれるのか?
本当に、お前ってサイコーだよ。俺が根っから男で、何のトラウマもなければ惚れてたねマジに
「……マジ、ごめんな」
謝って許される問題じゃないけど、謝らずにはいられなかった
俺はうつ向いて返事もできない佐枝子を置いて、先に屋上からでた。一人にしてやりたいなんて建前で、佐枝子から逃げたかった















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