告白されたこと
「あ、あのっ」
七海と知り合ってから何度目のの社交会だろうか。初めこそ子供が多かったがそれは爺ちゃんが子供も連れてくるようにと手回しをしたかららしく、二度目に行った時には子供の数は半分以下だった
だが元々リハビリをかねているので俺は大人しく知らない他人の誕生日とかにも出席して、ようやく昔の感覚が戻ってきて、おっさんとも話すだけなら普通に話せるようになった
そしてまた誰かの誕生日の集まりの日に、女の子が話しかけてきた。確か…主賓の娘さんだったか。名字は高田…
「はい、何でしょう」
「おおお話があるのですが!」
「私にですか? 分かりました。七海さん、失礼します」
今日は久しぶりに(こいつの父親の誕生日以来だから一ヶ月ぶりか)七海が来ていたのでおっさん相手ではなく楽しんでいたが、まぁ女が相手なら誰でもいい
俺がそう言うと女の子は七海に初めて気付いたのか慌ててお辞儀をした
「あ、七海様!? …す、すみません…」
ん? 知り合いか?
「良いんですよ。じゃあ皐月君、また後で」
「はい。さて、すみませんがお名前を教えていただけませんか」
「あ…はい、あの…普通に話していただけませんか?」
「普通ですよ」
「…あの、私の家は一応豊かな部類に入るのですが、小学校と中学校は公立に行って世間に慣れるのが慣習なんです…」
「はぁ」
突然何だ?
「あの…出身はT中学、なんですけど…」
「…え?」
お、俺の母校じゃん! 俺は辺りを見回してから女の子の耳に寄って小声で言う
「俺のこと、知ってる?」
「…はい」
少女は頬を染めながら口元を両手で押さえて頷く
「少し、別室で話をしませんか?」
「はい」
俺は気分が悪いと言って広間から出てボーイに別室に案内してもらい、ドアを閉めた
「はぁ…焦った。つかマジ同中? 名前は?」
「高田 佐枝子です…覚えていらっしゃいませんか?」
「ああ! 覚えてる覚えてる。2年時に委員長だったろ? てか雰囲気変わったなぁ」
誰にでもさん付けで丁寧な話し方をするぽっちゃりした愛嬌のある可愛い女の子だった
「覚えていてくださったんですね。ですがそんなに私変わりましたか?」
だが丁寧な話し方はともかく、すっきり痩せて美人になった
「ああ、綺麗になった。さっき誰かわからなかったから」
高田はぼっと顔を赤くする
「! そんな…あの、崎山小五郎様のご子息だったのですね」
「ああ、まぁ最近分かったんだけどな。ほら、俺んち母子家庭だっただろ? 父親が家出した崎山勇人だったってわけ」
「な、なるほどぉ」
真っ赤な高田をベッドに座らせて、俺は一人分間隔をあけて片足をベッドにあげて斜めに座る
「高田」
「は、はい!」
「佐枝子って呼んでいいか? 前はそんなでもなかったけど、これから友達になろうぜ」
「は…はいっ! ふ、ふつつかですが…」
「気負うなよバカ。俺のことは好きに呼んでくれ」
「はい…皐月さん…?」
「おう。つか、敬語使いまくってっと肩がこるぜ」
実は家じゃ使わないからそれほどでもないんだがな。何か知らんが緊張してるみたいだし、慣らしてやるか
俺は肩をまわして言いながら考える。さてどうするか
自分から話しかけてきてくれたんだから、俺を嫌いだったとかじゃなくて友達になってくれんだよな?
気は強くはなかったけど男が苦手とかじゃなかったと思うが…何でそんなに構えてんだ?
「佐枝子」
「は、はい!」
「…何か固くねぇ? リラックスしろよ。同い年で同中なんだから。肩もんでやろうか?」
「い、いえいえ! あ、私がしましょうか?」
言いながら伸びてきた佐枝子の手を、俺は反射的に掴んだ
「え…あの…」
ああ、やっぱりだ。女にはあれだけ慣れたはずなのに、相手から触れられそうになると拒絶してしまう
「あ〜…その、何だ。そういうのは良いんだ。話をしようぜ」
「…皐月、さん」
「んあ?」
「……ずっと、好きでした」
「…は?」
何か言ったか? ……え? あれ? マジで、告白されてる?
「いつ…から?」
「前から、格好いいなぁとは思ってたんですけど…2年生になって委員長になって……みんなが私の話聞いてくれない時に…かばってくれて…」
「あー、あったなぁ」
皐月・中学2年の秋
「あ…あの、静かにしてくださーい!」
その声に俺は目を覚ました。起きてみると教室は嫌に騒がしく、よく眠れたなと自分で感心した
「うっせーよブス!」
「委員長が決めればいーと思いまーす!」
「ただし変なもんだったら脱げよー」
「バーカ、高田なんてブスの見てどうすんだよ」
寝起き一番、俺は普段なら寝ぼけてるがすぐに目が冴えて、立ち上がっていた
「てめぇら頭ウジ沸いてんじゃねぇのか!?」
「はぁ…? どうしたんだよ滝口ぃ。夢でチョコでも食いそこなったか?」
「……」
俺は教壇に立って黒板を叩いた
「ふっざけんな! 言っていいことと悪いことがあるだろ! 高田を何だと思ってんだ!」
「はぁ…? 何ムキんなってんだよ。たかがブスの高田じゃん」
「たかが高田たかが〜」
「黙れ!! 女に向かって何言ってんだよ! だいたい高田はブスじゃねぇよ! 可愛いだろ!」
「はあっ? お前目ぇ腐ってんじゃねぇ?」
一斉に起こる男子からのブーイングに俺は眉をつりあげる。女子からの冷たい視線にも気づいてないらしい
「黙れ! それはお前らだ!」
「…ふざけんなよ? お前なに偉そうにしてんだよ」
「…俺はな、お前みたいに女をバカにするやつが許せねぇんだ。だいたい何もしないやつに文句言う資格なんてねぇ!! 高田!」
「は、はい!」
「お前も言ってやれ!」
隣の高田はみんなに見られて頬を染めながら
「え…えっと、滝口さん、かばってくださってありがとうございます。それと…ホームルーム、続けましょうよ。今度の文化祭の内容決めないと…」
俺にお辞儀をしてからそう言った。俺は一瞬耳を疑った
「…はは! 高田!」
けどすぐに笑った。高田、お前すげぇよ。さっき、泣きそうなくらい傷ついてたのに、そんなに簡単に許して、笑えるんだから
「! は、はい?」
「お前、サイコー! お前ら、次に高田をバカにしたら…俺がその喧嘩買うからな」
「な! っ……わあったよ」
さっきは勢いで睨んできた男だったが、基本的に俺は女の敵には喧嘩を売りまくって特に1年の時に派手にやったから、体格はそうでもなくても強いとみんなに認識されてる
ちなみに今の男も以前にシメたことがある。懲りねぇやつだが、俺がマジだと知るとびびったようでそう慌てて頷いた
「高田、邪魔して悪かったな。続き頼む」
「はい! ありがとうございます!」
高田はにっこり笑った。うん、全然ブスなんかじゃねーよ
だが高田とはそれきりだった。挨拶くらいはしたが、特に親しくはしていなかった
そして、告白された今、俺は困っている。そりゃあ我ながらモテたし告白されたことも両手で足りないくらいならあるが、さすがに何年も思ってくれてたなんて初めてだ
手を握ったまま硬直すること数分、俺はそっと佐枝子の手を離す
「俺は…お前には言ってない秘密があるんだ。それを知ったら、絶対にその気持ちはなくなる。だからやめとけ」
「……好きな人は…いるんですか?」
「いない」
母さんが違うなら、やっぱりいないな
「じゃあ…」
「好きじゃないやつとは付き合えない。俺は、お前を友達と思ってる」
だいたいお前からしたら俺は異性だが体は女なんだし、騙してるようなもんなんだからこのまま付き合うなんてできるわけがない
「…じゃあ、諦めます」
良かった。これで気まずくなったら嫌だし
「だから…キスしてください」
「…まぁ、いいけど」
俺は赤い顔で目を閉じてる佐枝子にちょっと頬にキスをする
「…どうだ?」
「駄目、です。ちゃんと口にしてください」
「…え…それっていいのか?」
「はい…お願いします。私に、皐月さんのお情けをください。はしたない女と…思わないでくださいね。こんなことを言うのは初めてなんです。して欲しいのも、あなただけです」
プルプル震えながら目を閉じている佐枝子に、どきっとした
長いまつげに色付いた頬、目を閉じてる佐枝子を見てやはり美人だと再確認。ふっくらピンクの唇がいやに目につき、ソフトクリームより柔らかそうだ
ゆっくり、佐枝子の肩に手を置いた
大丈夫。いざばれて佐枝子がショックを受けたとしても女同士ならファーストキスにはカウントしないらしいし
「行くぞ…」
「はい…」
俺の声は震えていたかも知れないが、佐枝子は全身震えていた
それが妙に可愛くて、俺は少し笑んでから目を閉じながらゆっくりゆっくり、唇をピンクにくっつけた
柔らかくて、頭の中がふわふわした。何秒か何分かたってから(多分数秒だけだ)俺は顔を離して目を開けた。佐枝子とばっちり目があった
「お前…耳まで赤いぞ」
「…皐月さん、こそ」
「……」
そりゃそうだ。俺だってファーストキスだったんだぞ
ああ、そうか。キスに抵抗がないのはアノ時、『先生』は俺に猿轡をして唇にキスをしなかったからだ。だから女とは言え、唇で触れることに抵抗がないのか
まぁそれはともかく、スゲー恥ずかしい。なんか佐枝子の甘い匂いでくらくらするし
「あの…皐月さん、ごめんなさい。私、嘘つきです」
「は…?」
実は佐枝子じゃないとか? 実は好きじゃないとかか?
「私…ますます皐月さんを好きになっちゃいました…。ごめんなさい。諦め…きれません」
「…でも」
本当のことを知ったら、俺が汚れてることを知ったら、きっと嫌になる。俺は…傷つきたくない。拒絶されたくない
だから、だから受け入れられないんだ
「いいんです。私が勝手に皐月さんを好きなだけですから。皐月さんは普通にしててください。ただ…知っておいて欲しかったんです。本当に、誰より好きだから」
「…佐枝子……」
「ご迷惑、ですか?」
不安そうな瞳に俺は思わず視線をそらせる
「いや…そんなことはないけど…。全部知って、傷つくのはお前だぞ」
「はい。大丈夫です。恋する乙女は、無敵ですから」
両手を胸の前で握って未だ赤い顔で笑う佐枝子に、俺は少しざわつく胸のうちを隠したくて大げさにため息をついた
「…はいはい。好きにしろよ」
「はい!」
その笑顔は可愛くて、まぁいっかと俺はつられたように笑った
自分の全てを知って受け入れてくれる人間が転がってるとは思わない。佐枝子はいいやつだが、だからって期待しちゃいけない
だって『先生』は凄く優しくてみんなからの信頼だってあった
母さんと爺ちゃんの、家族以外は、簡単に信用できない
本当は、俺自身信じたいと思ってるんだ
でも俺はどうしようもないバカでビビリだから、本当を知られるのは恐いんだ
○
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