再会と思い出
金持ちになってから8ヶ月近くたったころ、自分が稼いだお金じゃないことは百も承知だし、爺ちゃんと出会ったばかりは遠慮してたけど、今では小遣いこそないけどだからこそ使いたい放題だ
社交会に行って、久しぶりに同年代と話をすることを思い出した俺は、広い庭や家をごろごろしてた半年間とうってかわって街に繰り出している
そして今日は、一度やって見たかったことをやろうと思う
ずっと昔に、やりたくて仕方なくて、心残りだったんだと思う
「ありがとうございましたー」
明るい声に送られて、俺は笑顔で店を出た。手に持っているのは段ボール箱
そう、やりたかったのはいわゆる『大人買い』だ
昔はキーホルダーの入ったやつだったけど、女の子向けで可愛いとは思うが、男生活の長い俺にはもう欲しいとは思わない
だから、次に好きだった麦チョコを箱買いした
ふっふっふ〜。何だか気分がいいぞ。台車(ホームセンターで買った)に乗せて俺はゴロゴロいわせながら、一袋開けてつまみながら、テキトーに歩く
こうやってのんびり街を歩くのは…久しぶり? いや…爺ちゃんと会う前はバイトで忙しかったし、小学生とかの時は働いてないが遊ぶのに忙しかった
だから、こういう目的のない散歩は初体験になるのか?
「―ぁ――」
「――じ――」
「―か―――さ―っ!」
何やら雑踏の向こうに喧嘩するような声が聞こえた。方向転換をして進んでみると、女一人に男が二人だった
ふーん…?
俺は歩みをゆっくりにして、様子を伺う。女が嫌がっていたりしたら助けるつもりだ。ケチな正義感なんかじゃない
ただ、男が女を玩具みたいに扱うのが殺してやりたいほど気にくわねぇだけだ
「―から、離しなさいって言ってるでしょう! あなたの耳は節穴ですの!?」
「そう言うなよ。あんたみたいな綺麗な女始めて見たぜ」
「それはそれは不幸な人生だったようですわね」
……女は見た覚えがあった。俺は学校の勉強はできないが、記憶力はいいし鍛えてたおかげで五感、ついでに身体能力は我ながら抜群だ
で、だ。その抜群の五感と記憶力は夜だろうとはっきり覚えてる。あのため息をついてた金持ちの美人の顔をな
俺は台車を逆向きにして箱を足ではさんで乗り地面を蹴った
「危険ですので美人は獣の半径5メートルには近寄らないでくださーい!!」
「は? だっ!!?」
俺の愛車(台車)は男に突っ込んだが男はよろけただけだった
ちっ。死ねばいいのに
俺は睨んでくる男を無視して女に笑いかける。そういえば名前を聞いていなかったな。一度きりだと思ってたし
「こんにちは、お嬢様。ガードも連れずに不用心ですね」
「え……皐月、様…?」
ポカンと間抜け面で俺を見る女は、間抜け面なのに気品がある気がしてちょいムカつく
「はい。そんなに驚いてどうしましたか?」
「え…ええ…その、大人しいイメージでしたので」
「第一印象で人のことはわかりませんからね。あ、麦チョコ食べます?」
「おいこらガキ! 何してくれてんだよ!」
「ふざけんな!」
男たちはナイフを取り出しちらつかせた。はっ…クソ野郎。得物をちらつかせれば誰もがびびると思ってるのか
俺は、お前らみたいなクソ野郎を倒すために体を鍛えたんだぜ
俺は男が恐い。だが、それは過去を思い出しちまうからだ。お前ら個人が恐いわけじゃない
「さっさとどけ、ガキ」
「ガキじゃありません、よっ」
俺は手前の男からナイフを奪う。男は空の手を俺につきつけたまま、笑っている
気付かないほどバカか
「形勢逆転、ですね」
「は、どこから…?」
「あなたのですよ。私の動き、ちゃんと見えてました?」
悔しいが女の体ではそこらのチンピラならともかく、鍛えられたやつには純粋な力では勝てない
だから俺は早さに、技術にこだわった。体力をつけたし力もつけた。そのうえで技術を求めた
誰にも気づかれないように相手の武器を奪い、相手より上手く武器を使えばいい
それなら、勝てる。どんなに強い人間だって、素手対武器なら、武器が勝つ
勿論武器と言っても隣の爺さんに教わったのだから、銃なんてものはない。だけどカッターや針、包丁などの武器になりやすいものら、武器か?と言うようなとにかくあらゆる日用品で戦う方法を身に付けた
その爺さんは元軍人だと言っていたが、嘘臭い。つか軍人はボールペンで戦わないだろ
まぁ爺さんが誰だろうと気にならないから、特に聞かなかった。普通に出会って、普通じゃない特訓を受け、普通に別れた
そして俺は、普通じゃない技術を手にいれたんだ
「これ、なんでしょう?」
そして、ほうけてる間にもう一人の男からもナイフをとってみた。一度目の瞬きで移動して奪い次の瞬きが終わる前に戻れば、男から俺は一瞬消えたと思えばナイフが二つになった状態だ
「な…おま…どうやったんだよ! 手品だろ!?」
ナイフをたたんで二人の上着ポケットにいれてやる
「さて、ナイフの行方は?」
「…は?」
俺は自分のポケットを強調してから促す。男は青い顔で自分のポケットを見て、逃げた
「うわ…早いなぁ」
つっても俺に比べたら亀みたいなもんだけどな
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「…ええ。ありがとう」
「で? ガードは?」
夏は暑苦しい黒服のボディガードが見えないのでそういうと女は気まずそうにうつ向く
「……いない、わ」
「はい? ちょっ、ガードもつけないなんて不用心にもほどがありませんか?」
「そんなことありませんわ。ほんの少し、買い物をするだけですもの」
「はぁ…あなたはご自分の容姿を理解しておられないようだ」
「え…?」
「あなたほどの美人なら目立つし声をかけられるのは当然として、誘拐犯にだって見つかりやすいってことです」
「な…」
「で? 買い物は終わったんですか?」
「…ええ」
「じゃあ家まで送ります。一応聞きますけど、いつも一人なわけじゃありませんよね?」
「それはありませんわ。今日は…その、父の誕生日が近いので。だから内緒で出てきたんです。買い物も終わりました。送っていただけるならば嬉しいですわ。ですけど…」
女ははにかんでにっこり笑う
「もう少しだけ、私とお話しませんこと? お礼をする機会くらい与えてくださいな」
俺はにっこり笑った
○
「それで皐月様は―」
女はお嬢様の楽園と言われたり言われなかったりする中高と揃った全寮制の私立『白雪学園』に通っているらしい
ガードをつけていないのは手配をすると親にばれてしまうかららしい
「待ってください」
洒落た高級なカフェテラスの一角で俺は一旦ストップをかけた
「え?」
「様は止めていただけませんか、敬語も。 私じゃ、あなたの友人にはなれまかせんか?」
俺は化けの皮はがしたらちょいヤバいから敬語つかうけどな
「…うん。じゃあ皐月君、ね」
嬉しそうな笑顔を崩すごとく俺は問いかける。つか後になるほど言いづらいしな
「はい、であなたの名前は?」
「って知らなかったの?」
女がとても驚いて言うので少しばかり『崎山皐月』の皮を被り照れてやる
「恥ずかしながら」
「呆れた…じゃああなたは、名前も知らない一度会っただけの相手を助けたと言うの?」
「バカですか? ご婦人、子供、ご老人がお困りになっていられるなら、他人だろうと助けるのは当たり前です」
「……」
余計に驚いたのか女は俺を凝視してくる
「どうかいたしましたか?」
「いえ…正論ではあるけれど、はっきり言う人を見たのは私、初めてだから」
「そうですか…それは、世の中が腐ってるんです。本当は人が嫌がることをしないとか、困ってる人を助ける、なんてのは当たり前のことなんですけどね」
当たり前なんだ。なのに、できないやつが多すぎる。みんながこう考えてたら、先生みたいな人はできないのに
俺みたいな想いをする人はいなくていいのに
「……」
ぽかんと間抜け面で見られた。てか美人て得だなぁ
「なんでしょう?」
「…何でもないわ。私は榊原 七海。榊原病院の一人娘よ」
「へぇ、思ったより有名な方だったんですね」
というより、安心できる有名な病院は? と聞かれた日本人は9割が榊原病院の名前をあげるだろう。費用は一般的なのに施設も医療技術レベルも高水準の大病院だ
めちゃめちゃでかくて通常で三千人は楽に収容できるらしい
「む、思ったよりってのは何かしら」
「別に?」
「なぁんか納得行かないわね」
「まぁまぁ。あ、たい焼きとたこ焼き売ってる屋台がありますよ。食べません?」
道向こうに止まっている移動式屋台を指さして言う
「……ここが何処かあなた分かってるのかしら?」
「喫茶店ですね」
「………まぁあなたが食べたいと言うなら構わないわ」
「分かりました。たい焼きの餡子で構いませんよね」
七海は何やらぶちぶち言いながら俺に早く行け、としっしっと手をはらう。失礼なやつだが、気にしない
懐かしいな。昔、まだ『あたし』だった時に、親友とよく近所のたい焼き屋で一つ買って、半分ずつ食べたっけ
名前は…忘れた。いや、聞いたら思い出すと思う。ただ俺は相手を『みっちゃん』と呼び、その子は俺を『さっちゃん』と呼んでいた。そんな遠い、俺が幼かったころの話
みっちゃんは俺のこと覚えくれてるかな。俺は回りに事件を内緒で引越したが、みっちゃんは知っている。何故ならみっちゃんは先生が遊んでから道端に捨てた俺を発見して助けてくれたからだ
その後も引きこもってる俺のところにみっちゃんだけが何度も来てくれたらしい。俺はよく覚えてない。震えてたら時間がたってたからだ
引越しのお別れは、みっちゃんとだけやった
あ〜…勿論助かったんだが、トラウマになってなきゃいいな。俺、あの時結構壮絶な格好で捨てられたから
「お待たせしました。七海さん、熱いですから気をつけてくださいね」
「! …え、ええ」
「? 何です?」
赤い顔で俺のこと見て…惚れたか? なんてな。んなわけないか
「まだまだ寒いんですから、風邪には気をつけてくださいね」
「ええ、そうするわ。心配してくれてありがとう」
「はい。冷めないうちにどうぞ」「……」
向かって椅子に座り、頭からかじる。む、餡子少なめだな。まぁカリカリの生地が美味いからいいか。どうせ一個百円だし
………はぁ、去年の今頃はまだ百円をコツコツ貯めてたのに…適応能力が高いのはいいけど、ちょっと複雑な気分だ
「? どうかしましたか?」
七海は困惑して俺とたい焼きを順に見ている
「…ナイフやフォークはありませんの?」
「……まるかじりするのがたい焼きの伝統です」
七海は戸惑いながら俺の食い方をちら見して見よう見まねで上品にかじる
「…思ったより、美味しいですわね」
失礼なやつ。そりゃお前が普段食ってるもんに比べたら何もかも安物だけどよ
…でも、まぁ、嬉しそうに食ってるしいいか。やっぱ、美味いもんは美味く食わねぇとな
○
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