社交会でびゅー
「娘の優希に、孫の皐月でございます」
凄い。としか言いようがない。爺ちゃんの家での生活で、ずいぶん慣れたと思ったけどこれはまたタイプの違う感じだ
どこぞの一流ホテルを貸し切り、あちこちに等身大ケーキや美味しそうな料理がならんでいる
う〜…美味そう
「ご紹介いただきました、崎山皐月です。至らぬことだらけの若輩ですが、皆様どうかよろしくお願いします」
内心早く食わせろと思いつつ、長年培った猫被りでにっこり笑ってお辞儀をする
ざわざわざわ。爺ちゃんの発表にホテルが揺れるほど騒がしくなる。まぁいきなりだし、息子はとっくに死んでるんだし普通はただの養子だと思うよな
それがいきなりなんだから、そりゃあ驚く。だって爺ちゃんの願塊会社の跡継ぎは6年前に優秀な養子をもらってすでに決まってるんだから、今更もらう理由が分からないんだろう
てか、普通実の孫が16で初めて発表されないしな
にしても俺くらいやもっと小さな子供も結構いるんだな
「皐月ちゃん、お腹減ったでしょ? 食べてきたら?」
爺ちゃんは偉いさんに囲まれているし、話は一応終わったから母さんがそう言った
「ありがと。母さんの分もとってくるよ。何がいい?」
「じゃあ…お寿司を」
「了解」
母さんは母さんで貧乏の反動か名前からして高級な雰囲気がするものが好きだ
「〜♪」
脂ののったトロ。美味そ…おっと涎が…
皿とフォークをとって適当に寿司を二人分のせる
「あの…」
「え…どうかしましたか?」
話しかけてきたのは同じくらいの年の男たちだが、場所が場所だから面倒だし猫は被る
「崎山様…すみません、小五郎様のお孫さん…なんですか?」
爺ちゃんは別に隠すことでもないから、堂々と言ってよいと言われたので頷く
「はい。父は崎山勇人ですから間違いありません」
「勇人様…! でも、行方知れずと聞きましたが…?」
「はい。父は昔、家を黙ってでたんです。そして母と出会い私が産まれた。そして、私が祖父と出会った。簡単でしょう?」
「しかし…肝心の勇人様は? 何故優希様が養子に?」
「父は死にました。藉をいれる前、まだ私がお腹にいたころです。ですから祖父が母を改めて養子にしたんです。元々父が生きていれば母は結婚して祖父の子になるのですから、おかしくはありませんよね?」
「ああ、お気のどくに」
うるせぇよ。うすら笑いしやがって、気の毒なんて思ってねぇくせに。つか、金持ちって子供も相手を様付けかよ
ま、慣れたけどな
つかマジ男としといて良かった。正直、話をするだけで精一杯だ。触れたら、笑顔キープできねぇ自信があるぜ
何とか男共を振り払い、料理選びに戻るが何やら視線を感じる。四方八方からだ
ったく、見せ物じゃねーっての。まぁ聞耳たててたみてぇだし聞いてこないのはいいけどな
飲み物も頼み、持ちきれないのでボーイに母さんに持っていくよう頼む
さて…料理運ぶか。……先にちょっとチョコレートをつまみ食い
「っ」
美味い〜!
思わずうめきそうなほど美味い! ちょー美味い!
はふう〜、にやにやしてしまうのが止められない
「…!」
って見られてるの忘れてた!
顔を赤くしてるのを自覚して慌てて回りを見回すと、大人も子供も視線をそらした
ぐはっ! かなり見られてた!
恥ずかしい…
大人しく母さんのところへ持って行くと、けしからんことに数人の男に囲まれていた
これだから男ってやつは嫌なんだ!
「母さん、持ってきたよ」
「ありがとう、皐月ちゃん」
「ああ、皐月君だね。勇人様のこと残念だけど、こんな美しい奥様に子供までいたとはね」
「ふふ、嫌ですわ。お世辞なんて言わないでくださいな」
「いやいや、本心ですよ。それにしても皐月君は本当に勇人様にそっくりですね」
「はい。私も日に日にそう感じております」
「しかし、皐月君の教育上父親がいたほうがいいのでは?」
「再婚のご予定は?」
「嫌ですわ。私のようなおばさんにそんな予定なんて…」
「母さん。そんな卑下しないの。ていうか、その発言はだいぶ危ないと思うよ」
まだ20代でしょあなた。回りのご婦人方から睨まれてますよ
ま…そういうとこ可愛いんだけどね
「みなさん、お気遣いは有難いのですが私の父は崎山勇人だけです。また、母の愛する夫も崎山勇人だけなのです。再婚の予定は未来永劫ありません。あしからず」
母さんの手を引いて男たちから離れる
「あらあら、皐月ちゃんたら恥ずかしいわ」
「とにかく、お願いだからふらふらしないでよ母さん」
「してませんー。お母さんじっとしてましたぁ」
「何その口調? 子供じゃないんだからやめなさい」
「はぁい」
なんなんだ今日の母さんのテンションは。……もしかして
「母さん、酔ってる?」
「酔ってません〜」
酔ってます!
この人、顔色ひとつ変えないくせにカクテル一杯で酔うんだから
よくあの男たちの会話でボロださなかったもんだよ。酔ってる、なんて知られたらなにされるか分からない
「とにかく、ここに座ってなさい。料理は僕がとってくるから、何を言われてもここを動かないでよ。はい、お寿司」
言いながら俺は母さんを会場の壁際の椅子のひとつに座らせ、お皿を渡す
「ありがとぉ皐月ちゃん」
「どう致しまして。…母さん、再婚なんて、しないよね?」
さっきは俺の願望で言ったが、本当は勇人を思っていても寂しいと思ったりして再婚がしたかったりするかもしれない
「やぁね、しないわよ。だって私は、皐月ちゃんのママでぇ、勇人さんの奥様だもの〜」
「うん」
なら、いい。母さんを取られるのは嫌だけど、勇人だけは許す。勇人は俺の父さんだし、それに死んでるから
つまり、この世界では俺が一番母さんを愛して愛されてるということだ
「ママのことはいーから、皐月ちゃんはお友達を作ってきなさぁい。ね?」
「…分かった。ただし席を離れる時は必ず僕か爺ちゃんに言ってよね」
「もう。分かってるわよぉ。ママを子供扱いしなぁいの」
そう言って母さんは俺の額をこずく。行動は普段からそう変わりはないが、やはり言動がゆるくなってる
…まぁ、だからって問題なんてそうそう起こらないか。ケーキ食おーっと
「ふんふ〜ん」
タワーの前に行き、ボーイに頼んで皿にとってもらう
「っ〜」
「! どうかしましたか?」
顔をふせた俺にボーイが慌てて話かけてくるが、心配はいらん
「美味しいですっ」
あまりの美味さに悶えただけだ。さすが爺ちゃん…愛してるぜ!
「そ、そうですか」
「はいっ」
女なら食べるよう薦めるが、相手は男なので俺は別のタワーをまわりとりあえずケーキを全種類皿にのせたが、何かしら誰かが話かけてきてうざいので、こっそりテラスに出た
冬だし誰もいないだろ。と思ったらいるし
「……はぁ」
俺より多少身長はあるが成人してないだろう女が、手すりに持たれ物憂げにため息をついていた。肩だして寒そうだな
とりあえず音をたてないように白い木製の(夏の昼間なら海も見えるしさぞ気分のよさそうな)机に置き、スーツの俺はまだ寒さは平気なので上着を脱いで肩にかけてやる
「…え…? あ、崎山皐月…様、でしたわね」
「はい。考えごとをしていらしたなら邪魔をしてすみません。ですが今夜は冷えます。どうぞ着ていらしてください」
「あ…ありがとうございます」
「いえ」
とりあえず椅子に座りケーキを食う。女は山積みのケーキに目を丸くしたが俺の知ったことか
「♪」
美味い。チョコのほのかな苦味に濃厚な香り、クリームの甘さと柔らかいスポンジが絶妙に組みわさって……ああもう! うまく言えねぇ。俺には文才はないらしい。知ってたけど
だがとにかくうまい
どうせ女は海を見てるんだから誰にもはばかることなく俺は顔をふやけさせる
「ずいぶん幸せそうですわね」
「っ…あ、見ておられたのですか? お恥ずかしい…。勿論幸せですよ。こんなに美味しいケーキを食べて、幸せじゃないなんて有り得ません」
「そう…私にも一口いただけるかしら?」
「良いですよ」
本当は嫌だけど、にっこり笑って俺はフォークに一欠片指して女にフォークごと渡す。女は何だか知らんが俺の顔をちらちら見ながら受け取り、ゆっくりとした動作で食べた
「どうです?」
「…美味しい、ですわ」
「でしょう」
「ですが…それだけですわ」
「え?」
「美味しいと言うことと、幸せは違いますもの」
女は伏し目がちな瞳で寂しそうな表情を見せた。意味が分からないが、とりあえず金持ちは美味い食べ物が当たり前だからそんなバカな意見がでるのだろう
「そうですね。美味しい食べ物さえあれば幸せになれるわけじゃありません。ですが、美味しい食べ物がなければ幸せにはなれませんよ」
「……そんなことはありませんわ。たとえ不味い食べ物しかなくても大切な人といるなら幸せな人もいるはずですわ」
「あなた…バカですか?」
つかバカだな
「なっ!?」
「大切な人と笑ってとる食事なら、美味しくないわけないじゃないですか」
「……」
「私はあなたに何があって、そんな顔をさせるのか何て知りませんし、知りたいとも思いません。ですけど今は無理してでも笑いませんか? せっかく美味しいものがあるんですから、美味しく食べましょうよ」
嫌な話も考えごとも後回しだ。楽しめる時は楽しめばいい。後先をいちいち考えてたら、疲れるだろ?
「…そうですわね。じゃあ、私の分もケーキとフォークと飲み物をお願いできるかしら」
「かしこまりました、お嬢様」
俺はおどけて立ち上がる。俺は男だから、女のために動くものだ
せっかく美人なんだから、始めから笑ってろよ。断然、似合ってるぜ
猫をかぶってるから口には出さねぇけど、俺は笑って伝えてみた。勿論、伝わってないだろうけどな
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