帰ってきました
「なぁ」
「…何よ」
「何かさぁ、このあいだからお前機嫌悪い?」
「別に。普通にあんたと話して、普通に遊んでんじゃん」
「そうなんだけどさぁ」
何だか、微妙に俺に対して距離があるような…? 気にはなってたがただの気まぐれだろと放置したら、今日の最終日まできてしまった。
「じゃあ、何で今聞くわけ? ヒロ、自覚してるけど昨日今日の話じゃないわよ」
「ん? それはあれだ。今、二人きりじゃん」
あ、反応した。今明らかに眉がぴくってした。
「……」
「弘美、ヒーロ?」
さて、ひねくれた弘美は二人きりをどう受けたんだ?
二人きり―人目を気にせず俺に八つ当たりできる。
二人きり―人目を気にせず俺に素直になれる。
後者ならいいが…こいつの場合明らかに前者だろ。
「なぁ、何で機嫌悪い? そんなに俺が黙ってたのが嫌だったのか?」
でも男として生活してるってずっと言ってたし、バラしたのは結局名前とカツラだけだし。
「別に、そんなんじゃないわよ」
「じゃあ何だよ」
「…ねぇ」
「?」
「帰ったら、さ」
「うん」
え、何で話変わるんだ?と思ったがツッコんで機嫌悪くなると嫌だから相槌をうつ。
「また、遊んでやっても…いいわよ?」
…あー、何だ? つまり、いますぐ態度は戻らないが別に俺に文句があるわけじゃない、と?
なんか個人的に嫌なことでもあったのかな? よく考えたら機嫌悪い=俺のせいっておかしいしな。
「そう、か。じゃあ、メールするな」
「うん…あんた、荷物はもう用意したわけ? 一時間もしたらでるのよ?」
「ん? お前も何もしてないじゃん」
「は? 何でヒロがんな面倒なことやらなきゃならないのよ。服は棄てるから、後はこの鞄だけよ」
「も…もったいないお化けが出るぞお前」
ありえないだろ。金があるからって物は大事にしろよ。
「は? え? 何? お化け? あんた何馬鹿なこと言ってるわけ?」
めちゃめちゃいぶかしげな弘美。あれ? もったいないお化けってマイナーだったのか? てっきり普通に知られてることかと…。
うう…何だが弘美のこの視線は知ってる俺がいけないみたいな気になるぜ。
「や。え、と…荷物片付けてくらぁ」
とりあえず逃げた。
○
「ん〜っ、疲れた〜」
「あふぅ…」
車から出て俺は大きく伸びをする。俺に続いて車から出たさっきまで寝てた小枝子は欠伸をする。
「おい小枝子、大丈夫か?」
「〜……」
「って寝るな寝るな!」
倒れそうになる小枝子を慌てて支える。
「はっ…す、すみません皐月さん」
「ったく。迎え呼んで来てもらえよ」
「あら、それならこの車使っていいわよ」
降りてきた七海が提案する。
小枝子降りた意味ねーと思ったがいい案だ。弘美と七海はここで(白雪学園の前にいる。二人はまだ実家に帰らないらしい)いいし心配なのは小枝子だけだ。
ていうか立ちながら寝るやつを初めて見た。意外性のあるやつだ。
「そうか、ならそうしろ。小枝子、ほら中に戻れ」
「…〜」
…だから、寝るの早いって。授業中は真面目で寝てんのを見たことないのに、立って寝るとか無駄な特技すぎ。
ふらふらしながら半分くらい寝てるからもう車の座席に転がしてやる。
「ふぅ、んじゃ運転手さん、頼みます」
「は、はぁ。では七海お嬢様、この方はどこにお連れすれば?」
「住所は確か…」
戸惑いながら尋ねる運転手のおじさんに、視線をやや斜めにあげた七海は何を見るでもなく聞き覚えのある住所を口にする。
え、てか何で覚えてんの? ストーカー?
「何よその目は」
「いや…何で知ってんすか?」
「初めにあなたたちのプロフィールは見たもの。当たり前でしょ? ちなみにあなたの実家は…」
七海は聞いたこともない地名を出してきたが、まぁおそらくそういう設定なんだろ。
車を見送って、さて帰ろうとすると七海に荷物を運べと言われた。
運転手にやらせるつもりが小枝子を送ったかららしいが…何故俺が…。
「ま、いーですけど。弘美、貸せよ」
七海のを受け取り、ついでに弘美の分のも担ぐ。と言っても弘美のは鞄一つだし、七海のは車輪付きだし転がすので問題ない。
「ちょっ、どろぼー!」
「人聞きの悪いことを言うな! …ついでだから荷物運ぶんだよ。中に入っても鳴らないだろうな?」
「あんたが学生証持ってないのは分かってるわよ。ヒロには反応しないようになってるし、ヒロと一瞬に入れば大丈夫よ」
七海が先にカードで車以外の通用門を開けて入り(一人入るとすぐに閉じる。どんだけ厳重なんだよ)ヒロと並ぶように身を寄せて入ると確かに鳴らなかった。
「へぇ…どうなってんだ?」
学生証がないと門は開かないし無理に通れば警報が作動するらしい(さすがに無理に門をくぐったことはないぞ。乗り越えようとしたことはあるが)。
「別に。ただヒロのは特別だから、カード通さなくても近寄るだけで開くの」
「へぇ」
学園長、孫に甘いなぁ。そりゃ、厳しいならこんな性格に育たないだろうけどな。
つーかまぁ、いつまでも小さい子扱いで甘やかしたくなる気持ちは分かるけどな。
○
「七海様、ここに置いておきますよ」
荷物をベッドわきに置く。弘美の部屋にはすでに寄ってきたので後は帰るだけだ。
「ご苦労様、じゃあ皐月、また会いましょう」
「はい。絶対ですよ」
「はいはい。社交辞令よ」
「駄目じゃん。ったく…んじゃ、お世話になりました」
「え!?」
「?」
何かめちゃめちゃ驚かれた。
「な、え?」
「え、とか言われても…普通でしょ、別荘で一週間もただ飯食べたんですから」
「あ、ああ…何だ。一瞬、淑女会をやめるつもりかと思ったわ」
「んなわけないじゃないすか」
七海はほうけたような顔で息をゆっくり吐き、くすりと笑う。
「分からないわ。何しろあなた、最初は絶対に入らないって言ってたじゃないの」
「む…ま、まぁほら、案外、居心地いいですから」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ」
にっこりと、優しさがにじみでるような笑みを浮かべる七海に、今度は俺が驚いた。
え…ちょっ、…はぁぁ。
こいつなぁ…『崎山皐月』に対するのと俺とじゃ態度変えまくるくせに、たまにこっちの俺にも優しいんだよな。
調子くるうなぁ。てか、区別つけるの大変だからやめてくれよ。男の俺が離れりゃいいんだが…七海、男の俺のこと友達と普通に思ってるし。
「はは、まぁ、七海様頑張ってますもんね」
「そんなことないわよ。私はできる範囲でやってるだけよ」
「そすか」
それは十分に凄いんだが…ま、深く追求するのはやめとくか。
俺はテキトーに挨拶して七海の部屋を出た。
「う…」
暑い。
別に暑さに弱いつもりはないがクーラーのきいた部屋(タイマーですでに起動してた)から出た時は温度差にうめいてしまう。
ぱたぱたと手で顔をあおぎながら自分の鞄を肩に担ぎなおし、俺は階段を降りる。
はぁ…楽しかったけど、疲れたなぁ。
ぴぴぴ―
携帯電話が振動して俺は反射で携帯電話を開く。紗理奈からメールだ。
『件名:やほ〜
本文:久しぶりぃ、元気?なんちて(^u^)。一週間、あたしがいなくなってからどう?(?д?) 小枝子と弘美とは仲良くできたかな〜?』
一応、気にしててくれたのか。紗理奈は弘美にバレた日に帰ってるし、小枝子と微妙な雰囲気のままだったしな。
かちかちとまだちょっと慣れない手つきで返信する。
『件名:RE やほ〜
本文:大丈夫。何か弘美は機嫌悪いけど小枝子とは仲直りしたよ。心配してくれてありがとな』
送信、と。
ぴぴぴ―
うおっ。早っ!
間髪いれずに携帯電話が振動する。メールを開くと…ん? 弘美からじゃん。
『件名:無題
本文:今度の日曜、付き合いなさい』
………。
……いや、いいけどさ。うん、もう、命令かよとかツッコむのもやめよう。
ぴぴぴー
今度は紗理奈だろう。でも読む前に弘美にオッケーと返信しておく。
あ、ついでだし部屋行って日曜の予定決めよ。その旨もいれてメールを送信。そしてメールを見る。やっぱり紗理奈だった。
『件名:RE やほ〜
本文:それは良かったヽ(´∇`)ノ。心配は無用だったみたいだネ(○▽<)ゞ。あたししばらくは会えないけどメールはちょいちょいしようね。
追伸 夏祭りは行きたいな〜=^ェ^=』
全面的に肯定する内容でメールを送り返すと、携帯電話の画面を見てると歩くのが遅くなるものだが弘美のドアの前まできてた。
「入るぞ」
「ん…何よ。てかあんたまだいたのね」
弘美は部屋着なのかTシャツに短パンに着替えていた。
「何って日曜、何時にどこで何すんのかな〜って」
「ん、あんたさ、男できなさいよ」
「は?」
「だから、男のあんたを改めて見たいの文句ある?」
「まぁ…文句はないぞ。それよりなにすんだよ」
「目的がなきゃ遊ばないわけ?」
「…いや、いいけど」
何なんだ? 遊ぶのに異存はないが、普段文句言うのはお前らだろうが。
「あんたがヒロを楽しませなさい。いいわね。時間も待ち合わせ場所もあんたが決めて」
………。
「いいけど…それじゃ俺がやりたいことするコースになるけど、文句言うなよ?」
「分かってるわよ。あんたの程度に合わせるから有りがたく思いなさい」
ぴぴぴ―
「分かったよ。精々、姫さまが楽しめるよう頑張りますー」
返事をしながら携帯電話を取り出す。
『件名:RE やほ〜
本文:うんうん、祭りのことは任せてよ。んじゃ、今日は疲れてるだろうしゆっくり休みなよ。あでゅ〜(o・v・o)』
思わずくすりと笑う。祭りか…楽しみかも。
「祭りぃ?」
「…あの、普通に人のメール覗かないでくれません?」
「うるさい。で、なに? あんた祭り好きなわけ?」
「そりゃ日本人ならやっぱ、祭りは好きだろ」
「……そうなんだ」
「? 弘美、外人だったのか?」
黒髪だし目も黒だ。
「一応クォーター。おじいちゃんがね」
「父? 母?」
「は?」
「いやだから、父親の父親か母親の父親なのかってことなんだが」
「…あんたには関係ないでしょ。」
え、機嫌悪くなったな。ま、いいか。こいつのコロコロかわる機嫌をいちいち考えてたら疲れる。
「はいはい。んじゃ俺帰るわ。また、日曜な」
○
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