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あい・らぶ・まみぃ!
作:シロクロ



いつの間にか訪れてた変化


「…ぱーどん?」
コツをつかみ爺ちゃんに普通に抱きつけるようになった2月。俺と母さんは爺ちゃんに大事な話があると言われ、俺は思わず内容を聞き返した
「じゃから、社交会デビューじゃよ」
「……爺ちゃん」
「なんじゃ?」
「短い付き合いだったけど、俺爺ちゃんのこと忘れないよ」
にっこり笑顔で立ち上がると爺ちゃんは机に乗りあがり俺にしがみつく
「待て! 待たんか! 優希も一緒じゃ!」
「なお悪い! 母さんに悪い虫がついたらどうするのさ!」
「……皐月ちゃん」
母さんの呼びかけに俺は嫌な予感がしながら振り向くと、母さんはとてもいい笑顔をしていた
「…な、にかな?」
相変わらず美人だけど、だからこそ男は放っておかないよ
「お母さん、行きたいなぁ」
分かってたよ! 母さんがメルヘン脳の持ち主だってことくらいさ! 貧乏だったし尚更憧れてたんだよね社交会!
「駄目! だいたい僕は…絶対にドレスは着ない。だからって…戸籍を調べたらすぐに女なのは分かる。そんな自分から有名になるようなことできないよ!」
「大丈夫じゃよ」
爺ちゃんが机からソファに座り直して自信たっぷりに言う
「何がだよ!」
「お前の戸籍はとっくに男じゃからな。着るのはスーツじゃ。というか、屋敷の者にも男と説明しておるんじゃから当たり前じゃろう?」
「……え?」
マジ? じゃあこれからは堂々と男だって言えるのか?
「それにずっと家を出てないし、もうそろそろ外に目を向けたらどうじゃ?」
「う…」
実はここの生活のお陰で爺ちゃんと女にはなれたけど、でもずっと男には関わらなかったから前より余計に男が苦手になってしまったのだ
はたして今の俺に男に普通に接するのができるかどうか
「なに、たった数時間じゃ。練習じゃと思え。それにワシの孫を発表するんじゃぞ?」
「だから…?」
「盛大にするつもりじゃ。例えば…世界中のパティシエを呼んでみるとかな」
「行く!」
「そうか、やってくれるか」
「当たり前だろ? 爺ちゃんの頼みは断れねーよ。なぁ爺ちゃん、俺、あれが食いたい」
俺は美味いものには目がないが、特に甘いものは大好きだ。貧乏生活の反動か毎日お菓子を食べているが、太らない体質なのか体重に変化はない
爺ちゃんの隣に座って甘えるように俺はすりよる。爺ちゃんは優しい笑顔で俺の頭を撫でる
「なんじゃ? 何でも言ってみるがよい」
「ウェディングケーキ!」
昔街角のテレビで(俺の家にテレビはない!)見た結婚式の映像で写っていたあのケーキ。一度でいいからあの山のようなケーキを一人で食べてみたい!
「……皐月」
「駄目?」
「構わんが…ウェディングケーキは殆どハリボテじゃぞ」
「…ええ!?」
何だと!? お、俺の夢が……人の夢とかいて『儚い』…か。昔の人はうまいこと言ったもんだな
「まぁ、落ち込むな。皐月が望むなら等身大ケーキくらいいくらでも作らせる」
「爺ちゃん大好き!」
「あらあら…それではお父様、よろしくお願いしますね」
「うむ。ドレスは好きなものを頼むといい」
母さんが微笑んで出ていくと爺ちゃんはため息をつく
「爺ちゃん? どうかしたのか? もしかして…疲れてる? 爺ちゃん頑張ってるもんな。肩揉むぜ」
ソファの後ろにまわって爺ちゃんの肩を揉む
「ん、うむ…うまいな」
「まぁね。母さんのいっつもやってたから」
「そうか…」
「爺ちゃん、悩みがあるなら聞くぜ? 俺じゃ役にたてねーかも知れねーけど、でも…俺ができることならなんだってしてやりてーんだ。家族だろ? 水くせーよ」
「皐月…うぅ、ワシはお前のような孫を持って幸せじゃ」
涙声になる爺ちゃんに俺は顔が熱くなる。照れるぜ
「オーバーだな。で? ため息なんてついてどうしたんだよ?」
「…優希じゃよ。優希は…いまだにワシに敬語を使うのじゃ」
「…ってんなことで悩んでたのかよ?」
「そんなことって…ワシは真面目にだな」
「だって母さん、爺ちゃんのことは本当に尊敬してるし家族だと思ってるって言ってたぜ。むしろ優しくされて申し訳ないってた。だから母さんに直接言えば、喜んでくれるぜ」
「な…まことか?」
「嘘言ってどうすんだ」
「そうか…ふふ…」
嬉しそうな爺ちゃんの笑い声にちょっとムッとして、肩揉みに力をこめる
「…俺だって、爺ちゃんのこと尊敬してるんだからな」
「皐月…ふ、ふはは…ワシは幸せじゃな」
「……社交会、楽しみだな」
騒がれるのは好きじゃないけど、でも…世間一般的に俺が爺ちゃんの孫だって、そう言うという事実は嬉しい
いくら紙の上で家族と言ったって分からないから、人にはっきり言ってくれるのは凄く嬉しい



初めは、どうなることかと思った。いくら理由があろうと、ワシが皐月を10年以上放っておいたことは事実じゃ
もし、ワシがさっさと皐月を探しだしていれば皐月は襲われずに、愛らしい少女に育っていたはずじゃ
もし、ワシが勇人の生きているうちに見つけて優希を認めておれば、優希は苦労なんてしなかったはずじゃ
本当は、勇人がいなくなってもすぐには探さなかった
手紙が来た時なんて、見た目は兎も角12歳に手を出したと知りワシは手紙を破った
勇人がいなくなり、10年たち、ワシの女房が死んだ。急に寂しくなった
しばらくは仕事に熱中して誤魔化したが12年目になり、いてもたってもいられなかった。女房が最期まで勇人を気にしていたのを理由にして、ワシは勇人を探し始めたのじゃ
優秀は調査員に頼んだので1年で、ワシは勇人が死んだことを知った。そして娘がいたことも知ったが、突然母子で姿を消したと知った
そして次の年、ワシは見つけたという報告を受けてすぐにその街に行った。だが途中で、ガードの高木(たかぎ)とはぐれてしまった
仕方なく交差点で携帯電話を使い高木を呼び待っていると声をかけられた
振り向いた時、信じられなかった。目の前に、勇人がいた
少年(いや調べたのでは少女のはずだ)が振り向いてからワシは我に返り、じっと少女?を見る
「…なにか用か?」
「いえ、先ほどから動かれていないようなので。何かお困りでしたら、私で良ければお手伝いいたしますよ?」
少女は女の子にしてはハスキーな声でそう言う。勇人は女にしても違和感のない声で、それよりは低いがそれでも女と言えばやはり女の声だ
「…ふむ、ならうまい飯屋を教えてくれ」
「は…あ、でも私、あまり外食はしないんです。お役にたてずすみません。あ、私のお昼の残りならありますよ」
礼だと言って奢りながら話をしようと思っていたので、とても意外な意見だったが
しかしよく考えると勇人が死に、12歳で妊娠したのだからまだ調べていないから確かではないが、早くから働いていたのだろう
学歴社会の今、女一人で年頃の子供を育てるなんて余裕があるとは思えない。滝口優希の親は以前の街で死んだのは確認済みだ
「いや、お箸は触れてません。諸事情があり食べなかったんです。そこに公園がありますけど、どうしますか?」
公園に行くと自販機から買ってワシに茶を渡してきた。気がきくいい子じゃな
食べてみると、不味くはないがワシの肥えている舌では美味いとは思えなかった
いくら忙しいとは言え少なくとも親が子にこんな料理しかつくらんとは…! と密かに憤っていると、少女は恥ずかしそうに「私が作ったんですけど…お口にあいましたか?」と言った
ならば話は変わってくる。孫娘がワシにくれた初めての料理だ。何だか急に味が美味くなってきた
おかしいな。ワシは勇人の時もそうかわいがってはいなかったが……ワシも年かのぉ
美味いと言いながら弁当箱を返すと少女は実に嬉しそうに、勇人に似た顔を柔らかく崩す
うむぅ…可愛い
もっと話をしたかったがバイトだと言って慌てて帰ろうとしたので名前だけ尋ねた
「滝口…皐月…か」
ワシは高木に住所を調べさせて家に行った。とてもボロかった
あまりに酷かった。何て母親だと思った。いくら金がなくともこれはないだろう
ワシから逃げて引越したのも気に食わないのでさっさと皐月を引き取ろうとしたが、皐月は予想以上に警戒し、さらに母親と離れたくないと泣いた
ショックを受けた。泣かすつもりなんてなかった。ただ喜んで欲しかったのじゃ

次の日には二人について調査させて、そして引越しの理由も男としている理由も分かった
淡々と文字で事実が述べられているだけなのに、昨夜の皐月の涙とだぶって胸が痛かった
とにかく謝るしかなかった。優希がどれだけ頑張っていたのか分かった。中学にもろくに行かず、どれだけ苦労したのかはワシにも分からない
それでも皐月は真っ直ぐに育っている。ワシは自分が情けなくなった
だが二人はワシを許し、皐月はワシを愛したいとまで言ってワシの手を握ってくれた
恐怖の混じった、だけどそれでも笑ってくれたことが嬉しくて、ワシは久しぶりに笑った

そして今、皐月はワシに抱きついて「大好き」と言ってくれる
可愛くて可愛くて、孫は目にいれても痛くないという気持ちが痛いほど分かった
とてもいい子だ
甘いものが好きだと言うのでプレゼントをするとお金はないからと言いながら、色々とワシにお返しをしてくれる
本当に可愛くて、他の人間に自慢したくなった
マザコンの皐月は反対したが、優希は皐月をならすチャンスととったのか了承した
優希はほんわかした雰囲気に反して、皐月に関してはとてつもない深い愛情があるのが分かる
高校に行っていないことが信じられないほど礼儀作法もしっかりしていたし、賢い
一度本気で大学にいくよう薦めたが、皐月が独り立ちしてから定時制高校に行くつもりだったと言い、申し訳なさそうに謝ったが結局首を縦にはふらなかった

知らなかった。母親とは、こんなにも強いのか


最初は可哀想で可愛い皐月が懐いているし、皐月が孫になるから丁度いいと思った
だが、今となっては本当に娘のように思う。勇人には跡継ぎにと厳しくした反動か、年齢故かは分からんが、二人が愛しくてたまらんのじゃ

だから皐月は勿論、優希も共にみなの前で言いたい。ワシの大切な、娘と孫だと















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