バカ可愛い
「っはーーぁ、疲れた〜!」
バタリとパラソル下のレジャーシートに(パラソルは複数ありシートの上はほとんど影だ)倒れた紗理奈はそう叫ぶ。十分元気に見えるんだが……。
俺より遅れてゴールした小枝子はかなりぐったりして紗理奈と同じく倒れてる。
今日は七海の宣言通り全力で遊んだ。
まずは準備運動をしてから水のかけあい。
ビーチバレー。
ビーチフラッグ。
あと息止め競争を地味にやった。
そして今、競泳が終わったところだ。
てゆーか、紗理奈まじで早いな。
「はぁあ…でも、思いきり体を動かすと気持良いわ」
七海も疲れたらしく小枝子と同じくらい消耗して倒れてるが笑顔だ。
つか七海、昨日は紗理奈捕まえてたのに、今日はそんなに早くないな。
昨日から練習してる俺よりはちょい早いが、紗理奈はダントツだ(小枝子は逆にダントツビリで、弘美は審判。つか弘美は今日も今日とて浮き輪つきだ)。
「七海様、昨日よりスピード遅くないですか?」
「あ、あれ、は…はぁ、さ…りな、はぁ…」
「……息乱しすぎ」
ちなみに俺は競争には負けてるが息はそう乱してない。
コツは掴んだし、こまめに呼吸すれば基本的に肺活量はある。息止め競争では二番だったし(弘美が浮き輪の空気を吸ってて一番だった。普通、反則負けだろ)。
「あれは紗理奈が〜、っていいたいんじゃない? 会長はなんか変に神経質なんだよ」
「どう変なんだ?」
「自分がこだわってるものに関しては実力以上の力がでるんだよ。前、ゴミのポイ捨てした生徒がいたんだけど会長が恐い顔でくるから逃げたんだ」
「どんな顔か気になるな」
「普段見てるよ」
ん? 確かに普段から怒られてるが、怒ってても美人のままだぞ?
俺が首を傾げると紗理奈が苦笑して付け足す。
「笑顔の会長しか知らない生徒には恐いんだよ。会長は猫かぶりはするけど真面目で怒る時は無差別だから、会長への視線は憧れ半分恐怖半分なんだよ」
「へ〜…でも、怒ってても美人だよな」
本人に聞かれるとまた何を言われるか分からないので紗理奈にだけ聞こえるように言うと「まぁね」と紗理奈も同意する。
うん、俺の感覚が変なんじゃないよな。
「でも、怒られるのは嫌でしょ。まぁ普通は逃げないしポイ捨ての生徒もいないんだけど。その子は高校から陸上の推薦で入ってきたんだ。あたしが言うのもあれだけど、体育会系はちょっとガサツな部分あるし。まぁ…普段はいい人なんだよ」
「ふぅん」
知り合いなのか。ん? 陸上の推薦?
「で、逃げたその子を追いかけた会長はその子を見事捕まえたんだよ」
「陸上の推薦もらってるやつを?」
「短距離選手で、スピードダッシュなら誰にも負けないのが自信だったんだけど、廊下一本という長くない距離で追い付かれた」
「……」
「ちなみに会長、普段は50メートル9秒だよ」
「……七海、変」
「へ、変っ、じゃないわよ!!」
「はぅう…七、七海様、み、耳元で、しゃけばないで、くら、さいぃ」
俺と紗理奈から見て隣あって倒れてる七海と小枝子では、七海のが奥なので小枝子がモロに七海の口撃をくらったらしい。
聞いてたのか。つかあいつ声でかいよなー。終業式ん時にも台に上がってたけどマイク無しでも講堂中に聞こえるって。
でも息はそんな長くないし……何故? なんかこう、周波数的問題か?
想像してみる。
七海が話すのに合わせて七海を中心に広がる電波。
それを受信する生徒。
「七海様!七海様!七海様!七海様!」
恐っ! 洗脳かよ…。
いや、まぁ実際にあんな合いの手はないし式は静かに進むんだけど。
なんで俺の中の七海像はこんなイメージなんだろ?
二面性があるからか? 3人セットで悪魔ーズだし違うよな。
にしても、マジで他の生徒はこいつらを優等生と思ってんのか? 先生は仕方ないとしても、クラスメートとか分からんもんか?
紗理奈なんか俺に消しゴム投げたそ。
「ん? なに?」
「いや、紗理奈って俺ら以外には猫かぶってるよな」
「ん? あたしは基本先生とか大人にだけだよ。」
「え? でも廊下とか教室でも丁寧な言葉だったりするじゃん」
前に覚えてろ。的なことを言われたし、食堂でも猫かぶってるし。
「ん〜…なんて言うかなぁ。まぁ、猫かぶってるっちゃかぶってるけど、真面目な優等生ってのは先生とか真面目な人用。それなりに話すようになれば知り合いしかいない場所では本性だすよ」
「ああー…つまり、友達以外にはかぶってるのか」
「そう。会長とヒロは猫かぶり続けて友達つくろうとしないけどね」
そうだよな。こいつは丁寧葉でも親しげにクラスメートと普通に話してるし挨拶してるけど、弘美なんかは挨拶してても壁ある感じするよな。
「んあ? 何見てんのよ皐月様のくせに。あ、ヒロにみとれてたの?」
俺の視線に気付いた弘美が俺の元にやってくる。
…まぁ、知らない方がいいことってあるよな。
これはこれで慣れれば可愛げがあるけど、普通いきなり毒舌がきたらヒくよな。特にお嬢様なら。
「いや、ああ、そうそう、みとれてたみとれてた」
「ん」
山の天気のようなやつなので機嫌はすぐになおるが、わざわざ不機嫌にすることもないからイエスと言えば弘美は俺に手のひらをむける。
「……なんだよ?」
手のひらには何も乗ってない。
「みとれてたんでしょ? 代金をいただきます」
「…お前はどっかの女神をもした芸術品かよ」
モデルでも見ただけで金は要求しないぞ。
「はっ、ヒロ自身が女神だっつーの。この造形美が理解できないわけ?」
ぞうけいび?
「…そのツルペタボディが?」
「皐月様と変わんないでしょうが!」
ぷんすか怒る弘美。
マジで言ってんのかこいつ? そりゃ可愛いか不細工なら性格の分を差し引いても可愛い、と言うくらいに顔は整ってるが……女神とか、そういうのはむしろ………
「? 何よ?」
七海、だよなぁ。
長い金髪も綺麗だし、胸でかくてスタイルいいし……たぶん、これは俺の好みなんだろうが、マジで美人だよな。
改めて見ると、やっぱ見惚れる。
可愛いか綺麗かどっちが好みかとか、元気系か大人しい系かどっちが好みかとかあるだろうが、こいつの見た目は、かなり好みだな。
「なによ?」
「いや、やっぱ女神といや金髪だろ、と思ってな」
「はん。偏見じゃない。貧困な発想〜」
「うるさいなぁ」
ぐぅぅ…。
誰かのお腹がなる。そういやそろそろ昼だな。
何となく5人で黙ってると紗理奈があーと声をあげる。
「…皐月、お腹減ったの? しょーがないなぁ」
「へ?」
ちょ、待て。俺じゃないぞ。
別に腹をならすくらいどうってことはないが、ちょっと恥ずかしいじゃないか。
「皐月様はほんっと、しょうがないやつね」
「そ、そうねぇ。優雅じゃないわよ皐月」
「えっと、そんな皐月さんも可愛いと思いますよ」
「や、だから違―」
「ほら、作ってもらったお弁当食べようか」
紗理奈はそう言いながら鞄から大きなバスケットを取り出す。
「…分かったよ。あー腹へったー!」
やけくそ気味に俺は言う。
くそ、誰かは知らんがいらん恥をかかせやがって。
バスケットの中身はおにぎりとかの定番が詰まっていた。
ふーん? なんか普通だな。金持ちなんだからビーチまで給仕がくるとか……漫画の読みすぎだな。
「いただきまーす」
○
昼ごはんを食べ終わって片付けをしていると、小枝子が近づいてきた。
「あの、皐月さん」
「何?」
小枝子が俺の手を引こうとするから先に腕を掴む。
「何?」
「あの、ごめんなさい」
「?」
は? 何の話だ? 昨日のはもう終わったし…。と言うか謝るなら俺に触れようとしないで欲しいなぁ言わないけど。
「さっき…お腹がなったの私です。ごめんなさい」
「あ…ああ、そうなんだ」
まあ確かにちょっとむっとしたが、お腹膨れたからもうどーでもいいし。
「いいよ。恥ずかしかったんだな。怒ってないよ。ゴミ捨てに行くからまた後でな」
「はい、ありがとうございます」
小枝子はほっとしたように笑うとシートに戻って行った。
ふぅん…。バカだな。言わなきゃわかんないってのに。
でもそんなバカさは、なんか可愛い。
「何にやにやしてんのよこのスケベ」
「…弘美」
てか、いつの間に俺の背後をとるほどに…成長したな、ひろ………そんなボケいらねぇよ。
何か最近、頭の中が妙にボケになってんな。
「で? 何かようか? 見て分かると思うが俺はこれから道路の端までゴミを捨てに行くんだ」
端と言うのはちょっと離れたゴミ捨て場だ。私有地には変わりないが、建物とかのゴミも最終的にはここにまとめて捨てて業者に回収させるらしい。
「ヒロも行く。ほら、早く」
「あ、ああ」
それは良いけど、ゴミ捨て手伝うわけじゃないんだな。一つくらい持たないか?
「で、何なんだよ?」
結局持とうか、なんて殊勝な言葉は出ることなく無言でゴミ捨て場にきて捨てた。
俺がゴミを範囲内にまとめて置き終わっても動かない弘美に声をかけると、弘美はじっと俺を見る。
「……悪かったわね」
「…は?」
「だから、お腹なったのヒロなの! あんたのせいにして悪かったって言ってんの! バカ!」
それだけ言うと弘美は逃げるようにビーチに戻って行った。
…は? ちょ、マジ?
「皐月ー、いつまでゴミを捨てているつもり?」
俺が驚いてると七海が声をあげながら近寄ってきた。
「何よ。もう終わってるじゃないの」
「あ、ああ、手伝いにきてくれたのか? ありが―」
「違うわよ。どうして私が雑用をしなきゃならないのかしら。相変わらず常識がないわね」
「……そうだな」
悪気0だもんな、こいつ。真面目に言ってるんだよな。いい加減に分かる。
弘美が人を見下すのは悪意全開だが、こいつの暴言は素だ。素で俺様なんだ。
「そうじゃなくて…少し、話があるの」
「愛の告白なら間に合ってるぞ」
「違うわよ」
「雑用も遠慮したい」
「あなた何様のつもりなのよ。謹んで受けなさい。って、今はそうじゃないわ」
「何だよ」
「さっきはありがとう」
「?」
「私のお腹がなったのをかばってくれたのでしょう? その心意気は評価するわ」
「……ああ、まぁ、ほら、七海のキャラじゃないし?」
「そうよ。少しはしゃぎすぎたみたい。これから気をつけるわ。じゃあ私は戻るけど、あなたは?」
「ん、行く。つか競争しましょう」
「え」
「よーいどん!」
「ちょ、ずるいわ!」
七海を引き離して砂浜を踏みしめながら、俺は何とか爆笑するのだけは我慢する。
どいつもこいつも、正直すぎる。律義と言うか、バカだ。
バカは好きだ。でも、3人は可愛すぎだ。いちいちタイプが違うのも笑える。
七海が礼を言ってるのに笑いだしたら不審だからつい走ったけど、笑いがもれるのまでは我慢できない。
「く、くく」
「皐月、何笑ってんのー」
「あはははは」
「うわ、皐月壊れた!」
「はは、違う、違う。ちょっと、あは、おかしいだけだ」
俺は紗理奈に不審そうに見られながらも笑いが収まるまで待つ。
「あははは…はぁ、あー、笑った笑った」
「何がおかしいの?」
「ん、何でもな―」
「ないわけないでしょう! あなたはどれだけ失礼なのよ!」
七海に何故か怒鳴られた。
振り向くと怒り顔。
「競争と言いながら自分が先についたら笑いだすなんて、なに? あなたそんなに自分の足の早さを自慢したいのかしら?」
うわ…忘れてた。七海から離れるために競争って言ったんだった。
目的を達成したら忘れてた。
「ごめんなさい。でもそうじゃないですって。」
「じゃあ何よ」
「だってあんまりに可愛いから、おかしくて」
小枝子は恥ずかしいのに、弘美はプライドが高いのに、七海は勘違いをして、それぞれ自己申告をしたんだぞ?
そんなバカさ加減を見れば誰だってなんか可愛いと思うし、おかしいだろ。
「は、はぁ?」
分かってないようだが怒りはどこかへ行ったらしく七海は首を傾げる。
「何の話?」
「何でもない。紗理奈、向こうの小島まで競争しようぜ」
「え、さっきボロ負けだったのに?」
「これだけ距離があれば体力の問題もあるだろ。七海様もします?」
「遠慮するわ。というか、あなたたちみたいな体力バカにはついていけないわ」
「失礼だな。まぁいいや。行くぞ紗理―」
「よーいどん!」
紗理奈は海に向かってもうダッシュ。慌てて俺も海に走る。
「おま、卑怯だぞ!」
○
|