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あい・らぶ・まみぃ!
作:シロクロ



仲直り=元通り、ではない


「ごめんなさいっ!」

私は挨拶より先にそう言って頭を下げた。
顔をあげるのが、恐い。

私の脳裏をよぎるのは、あの傷ついたような皐月さんの顔だ。

そんなに傷つくなんて思わなかった、と言って、言い訳なのはわかってる。

「ごめんなさい」

私は顔をあげずに皐月さんの足元に視線を落としたまま繰り返す。

「…小枝子は、俺にどうして欲しいの?」
「え…それは」
「許してってんなら、もう許してるよ」
「え?」

そんなに、あっさり?

私は思わず顔をあげる。皐月さんは、何かとても辛そうな顔をしていた。

「ただもう俺の前に顔を出さないでくれ」

「え…」



何?

「そんな…今許してくれるって」
「許すけど、小枝子をまた好きになるかと言えば別。もう追求しないし特に何かしら謝罪して欲しいんじゃない。でも、嫌いだ」
「っ…」

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

そんな目で見ないでください。私はただあなたが好きなんです。
謝ります。
何だってします。
あなたのためなら世界を敵にしたって構わないから、あなただけは私を嫌わないでください。

「嫌…っです! 好きです! 好きなんです!」
「だから? 俺には関係ないだろ? 俺はお前が大嫌いなんだ。顔も見たくない。失せろ」
「ぁ……っ」

優しい言葉。
暖かいぬくもり。
何より素敵な笑顔。

それらすべては私にも与えられていたのに、私が、自分で壊したんだ。

「っつう…うああぁ」

涙が出る。
紗理奈さんは昨日「涙を流せば許すって」と言ったのを真に受けたんじゃない。
むしろ逆。

あの優しい人をこんな風にしたのは私なんだ。
もう戻らない。
何もかもが手遅れだ。
泣こうがわめこうが、私はすでに罪を犯した。

皐月さんを、傷つけたんだ。

何も見たくない。
何も聞きたくない。
皐月さんを傷つけたのは私のくせに、私がすべて悪いくせに、それでも私はずるいから泣く。
泣いて、自分の中に引きこもり、自分だけ傷つかないようにする。
私は―

「うあっ…あああん、っあぐ…うっうう…うああ」

止まらない。
子供みたいに泣いて、ますます皐月さんに嫌われてしまうのに、止まらない。

「すぅ…きぃっ…ひあっ、うぅ…さつ、皐月さんがっ…す好きな、ん、んですぅ!」

嫌わないで

離れないで

どうか私を

「見っ、捨ぅてないでぇっ…く、くだ…っ、ああぁうっ…! み、見捨てないでくださいぃぃい!!」

なんで私はこうもみっともないんだろう。
だけど、好きなんだ。
他のどんな誰よりも、私にはあなたが必要なんです。


「な、泣くなよっ」
「っく…?」

涙でぐしゃぐしゃの視界。何かが私の顔を乱暴にこすりつけられ、視界が少しクリアになる。

「泣くなよバカ! 俺が、俺が悪いんじゃないだろ」

涙をぬぐってくれたのは皐月さんだった。
その、嫌いな相手にまでしてくれる優しさがまた余計に悲しみを誘う。

「だ、て…ごめ…なさっ…でも」
「ああもう!」

皐月さんはまた私の目尻をぬぐいながら怒ったような困ったような顔で私に言う。

「分かった分かった! もう言わないから、嘘だから!」
「…へ?」

間抜けな声が私の口からもれる。

皐月さんは、今なんて言った?

「大嫌い…はまぁ、好きじゃないけど大は嘘だ。二度と顔も見たくないってのは、言い過ぎたよ。ごめん。」
「…そん…なに、を」
「だから、許す。いきなり元通りとか無理だけど、けどなるべく普段通りを心がけるから…だから、泣くなよ」
「皐月…さん」

どうして?
どうしてまだ私に優しくしてくれるんですか?

そんな私の疑問が顔に出てたのか皐月さんは苦笑して私の頭を撫でる。

「だってしょうがないだろ? 小枝子が、泣くんだもん」


紗理奈さん、あなたの助言は当たってたようです。

私は、あんまりに嬉しいからまた泣いてしまった。










本当は、そんなこと言う気はなかった。
先生が今さら現れたって警察ざたにする気がないように、小枝子にだって何かしらして欲しいとは思わなかった。
ただ本当に、たったあれだけと人は笑うかもだけど、本当に小枝子が嫌いになったんだ。

だから、素直にそう言った。

気持悪いだけで、顔を見るだけでいらいらする。
許す許さないじゃなくて、生理的に無理。

でも、何故だかはわからないけど、泣き出す小枝子は前のように可愛く見えた。

「な、泣くなよっ」

俺を好きだと泣く小枝子。
小さい子供のように、はばかることなく泣く小枝子。


なんだ。
小枝子は小枝子で、やっぱり凄く弱くて、怖がることはない。
嫌悪することもない。
だってこんなに小枝子は弱いから。
だから、俺が守らなきゃならない。
傷つけてはならない。


だって、先生と同じにだけはなりたくないから。

「小枝子が、泣くんだもん」


それに、小枝子の優しいとこも可愛いとこも覚えてる。
だから、特別。

今は嫌いだけど、それでも好きに戻りたいと思うから。










「おっはよう! いや〜、仲良きことは美しきかなってね」
「お、紗理奈。見てたのか」

声をかけろよ、趣味が悪いぞ。

「にゃは、良かったね小枝子、仲直りできて」
「はいっ」
「いや、そんな喜ばれると心苦しいんだが」

いくら何でもいきなり元通りに振る舞う自信はない。距離を置いて普通に友達からお願いします。
とは、雰囲気から言い出せないんだよまた何故か。

「むむっ、水をさすねぇ皐月ぃ」
「皐月さん…やっぱり、そんなすぐには、無理、ですよね」
「うん」

あ、即答しちゃった。

目に見えて落ち込む小枝子に俺はあちゃあと額に手をあてるがフォローはしない。
だってあんまりフォローして後で無意識に拒否ったらかなり傷つけるだろうし。

「カワイソー。あたしが可愛がってあげよう。よーしよしよし」

言いながら紗理奈は俺と小枝子の頭に手を伸ばし、わしゎわしゃと撫でてくる。
あんま乱暴にすんな、ヅラがとれるだろ。言えないが。

「なんで俺もだよ」
「かぁいい、から?」

疑問かよ。
紗理奈の手を払って、俺はクスリと笑う。

「バカやってないで行こうぜ。お腹減ったー」
「あ、待ってください」
「今日は和食な気分〜。皐月は和食だよね? 交換しようよ」
「嫌だ」

廊下を歩きながら紗理奈の意見を切って捨てる。
バカめ。日本男児なら朝は白飯って決まってんだろ。


って俺、女か。
フリが長かったから今わりとマジで言った(正確には考えた)ぜ。
と言うかこの「〜だぜ」口調は男になる時に矯正してなったんだが、最近半分くらい混ざってるかも。

「即答? 冷たいな。心友でしょ?」
「それとこれとは、ってか親友だろ? 『心の友』とかそれ言いスギ」
「お、音は同じなのによくわかったね。さすがツッコマー」
「なんでやねん」
「…お二人、仲がいいんですね」

羨まし気な小枝子の言葉に紗理奈はにまぁと笑う。

あ、嫌な予感。

「嫉妬? 仕方ない恋人だなぁ小枝子は。よし、今からあたしがしっかりぐったり可愛がってやろう。今夜は寝かさないぜブラザァ」

小枝子に抱きつくように肩を抱く紗理奈に俺はにっこり笑顔で拳を突き出す。

「よし、どこからツッコんで欲しいんだ?」
「では、僭越(せんえつ)ながら私が。紗理奈さんじゃなくて皐月さんにですから!」

大真面目に左手首のスナップをきかせてツッコミをいれる小枝子。

「そこはスルーしてよ」
「まぁ…なんでもいいけど」

てか、意外とツッコむ手つきは上手いんだな。

そんなバカなやり取りをしながら、昨日は何もなかったように俺は七海らがすでにいるだろうダイニングのドアを開けた。









けどまぁ、なかったフリをしてもあった事実は変わらないわけでして。
つまり何が言いたいかと言うと…。

「どうしたの皐月様、早く座りなさいよ」

「ん…えっと、席替え希望」
「は? 何よあなた唐突に」
「そうだよ。なに? 3対2じゃバランス悪いとかくだらないこと考えてんの?」
「いやいや」

むしろ考えてんのはお前だろ。

「じゃあなんなわけ?」
「まぁまぁヒロ、そんなつっかかんなくてもいいじゃん」
「別にっ、つっかかってるわけじゃ…」

とっさに言い返そうとしたがすぐに声を小さくする弘美に紗理奈はあっさりスルー。

「そ? ならいいじゃん」
「まあそうなのだけど、一つ聞くわ。皐月、小枝子、あなたたち喧嘩したわね?」
「……まぁ、遠からずってとこです。そんなわけでちと気まずいんで、頼みますよ七海様」

隠してるわけじゃないし、むしろこのくらいなら言っておいたほうがいいだろ。

食事が冷めない内にしましょうよと言うと七海は息をつきながらも承諾する。

「仕方ないわね。小枝子、私とかわりなさい。異存はないわね」
「え…はい」
「ってなんで七海様なんですか? つか皐月様が移動すりゃいい話じゃないですか」

む、何だよ弘美。またケチつけんのか?

「だって和食なのは皐月一人じゃない。まだ手をつけてないのに器を移動させるなんて面倒よ」

当たり前と普通に言う七海に(ていうか俺も妥当だと思うが弘美は何が不満なんだか)弘美は唇をとがらす。

「う…でも別にヒロでも」
「小枝子のサンドイッチ、トマト入りよ?」
「いっそ紗理奈様とか」
「紗理奈はひとりパスタでしょうが。パン系は私のタマゴサンドに小枝子のトマトサンド、それにヒロ、あなたのガーリックトーストだけでしょ。というか、どうして私だと不満なの? あなたはいったいどうして欲しいのかしら?」
「〜別に、もういいですっ」

何だか機嫌悪いなぁ。


は!?
もしやこれが噂の
「アノ日」か?


……………それに関しては考えるだけ負けな気がするから放っておこう。

ていうか、話の流れからすると弘美はトマトが苦手なのか。
とりあえず覚えておこう。いつか役立つかもな。

「じゃあいいわね。早く食べて、昨日の分も遊ぶわよ」
「?」

昨日の分? それって俺のセリフじゃね?
七海には関係ないような……って、もしや夕方ごろは俺を心配して遊んでなかったのか?

俺が席替えをして隣にきた七海をまじまじと見ると、七海は何よと俺を見る。

「いや…昨日の分、って?」
「あなたね…あなたが弘美つれて出てった2時間弱、心配で遊ぶどころじゃなかったからに決まってるじゃない」


…うわぁ。
ヤバい、なんか…かなり嬉しい。

「その…悪かったな。今日は目一杯遊ぼうぜ」
「敬語」
「…いやまぁ、はい」

そりゃ年上だし使って当然なんだが、そこまで徹底しなくてもよくね?
言われると逆に使いたくなくなるっての。


















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