あい・らぶ・まみぃ!(37/55)縦書き表示RDF


あい・らぶ・まみぃ!
作:シロクロ



友達


バン!

強い音に振り向くと皐月がドアを開けた姿勢で肩を上下させながらはぁはぁ言っていた。

「ちょっと皐月、ドアはもっと優しく開閉なさい」
「……」

会長が注意するけど皐月はうつ向いたままだ。
? どうしたんだろ?

「皐月様遅いよ」
「あ、もしかして送り狼してたのカナ?」

なぁんて、皐月だしあるわけないか。

「……」

ってなおも無言ですか。マジでどうしたのさ?

「皐月?」

あたしは席から立ち、開けられたままのドアを閉めて皐月の手を―
「っ」…あたしの手は叩き落とされた。

叩かれた手はじんと痛む。だけどそれより何より、驚いた。
あたしはいつものように必要以上に酔ったふりをするのを止めて(まぁ半分くらい素で酔ってたけど、皐月に叩かれさめた)皐月を見つめた。

最初こそあたしたちを警戒して、触れることさえ怯えてた皐月だけど、最近では皐月自身が気付いてる接触なら拒まないし、突然の接触だって軽く払う程度だ。
それはとても失礼だけど、聞かされた過去にすればしょうがないと思う。
でも同じ振り払うにしたって強さがある。普段のはとっさのガード。
でも今のは、完全なる拒絶だ。

むしろ、初対面でだって伸ばした手を掴まれはしても相手を見ていた。なのに今はあたしを見ようともしない。
うつ向いたままの皐月をそっと覗き込む。

「皐月…」

なんて、なんて顔をしてるんだよ。君は…そんな顔をしちゃ駄目だ。

「…さ…りな?」

皐月はゆっくり、ゆっくりと顔をあげる。ぼんやりした瞳はあたしに向いてるのに、あたしを映してるとはどうしても思えない。

「そうだよ。何かあったの?」
「……紗理奈は」
「ん?」
「…紗理奈は、違うよな」
「…何が?」

というか質問の答えになってないし、その質問も全然質問になってない。

「紗理奈は…友達、だよな」
「そりゃ…そうだよ。そんなの決ま……は!」

あたし『は』? …こりゃもしかしなくても、小枝子と何かあったな。

「…小枝子は、友達じゃな―」
「違う! …小枝子は……友達じゃなかった」
「は? 皐月様なに言ってんの?」

ヒロと会長も席をたつと不思議そうに近寄ってくる。

「ヒロ、ちょっと黙ってて。それって、小枝子が君を恋愛対象として好きだから?」
「……」

うわぁ…トラウマのこと話してなかったんだ。というかそれ以前か。
送り狼ならぬ、送り羊になっちゃったわけね。
ていうかあの小枝子が狼? ……想像できないなぁ。実際ナニをしたのか気になるし、皐月がこんなになるほどってむしろあたしにして欲しいけど…こんな皐月には聞けないしねぇ。

「え〜…つまり皐月はノーマルだから同性の小枝子に迫られたのがショックだった…ということなのかしら?」
「会長もちょっと黙っててくれませんか」

あたしのカミングアウトをどうでもいいとか言うような皐月が告白くらいでこんな反応するなら、あたしは友達になんかならない。

「なによ紗理奈、あなた何か知ってるの?」
「まぁ、それなりに。一応同学年で友達ですから」

皐月を妙に気にいってるヒロに気をつかってあたしはそう付け加える。

「…別に、ヒロは皐月様のことなんかどうでもいいし」

あたしの視線の意味にめざとく気づくヒロはふん、と鼻をならすがちらちら皐月見てるし心配してるのはバレバレだ。
つよがるなぁ。あたしの調べではヒロと会長はノーマルぽかったけど、ヒロはかなり皐月に脈アリだよね。
と、話が変わっちゃった。この考えごとがどんどん変わるのは悪い癖だよね。おかげでシリアスが似合わないとか言われるし。というか会長が真面目すぎ、ってまただ!

えっと問題は皐月だ。
とにかく落ち着けてあげないと。

「皐月、よく聞いて」
「…なに」
「抱きしめるよ」
「え」

拒否られないように断ってからあたしは皐月の頭を自分の胸に押し付けるように抱く。

「やめっ、や―」

慌ててもがき離れようとする皐月だけど断ったことでとっさに反応できなかったのか、抱きしめることができた。
思ったよりかなり強い力の皐月にあたしは柔道で鍛えた踏ん張りと力で無理矢理押さえる。

「聞こえる?」

そして無理矢理抱き締めたまま問いかける。

「紗理―」
「聞こえるよね? あたしの心臓、動いてるの分かる?」
「え……」

皐月の抵抗が止まる。







聞こえた。
紗理奈の心音は、とくりとくりと穏やかで、無条件に恐怖が何処かへ行ってしまった。
怯えた自分が恥ずかしい。紗理奈は小枝子と違う。友達だ。紗理奈も友達だと思ってくれてるのに、小枝子みたいなことをするわけがない。

そういえば、思い出す。
昔、眠れない夜は母さんが抱きしめてくれれば、その鼓動と温もりにに安心してすぐに眠れた。
七海や弘美を抱きしめて寝たことはあるけど、抱きしめられて相手の心音を聞いたのは久しぶりかも知れない。

「どう? あたしの心臓、君に恋をしてるみたいかな?」
「…違う」

恋はまだよくわからないけど、さっきは小枝子も俺も凄くドキドキしてうるさかった。けど紗理奈のはむしろ穏やかなほどだ。

あれ? でもそれだと俺も小枝子に恋してたことに?

「皐月」
「え?」

紗理奈の胸に苦しいくらいにくっつきながら顔をあげると紗理奈は優しく微笑んだ。

「何も考えなくていいよ。大丈夫。あたしはバカだけど、ずっと皐月の友達でいることができるから。友達として、君の味方であり続けるよ」
「…本当?」
「うん、大丈夫。小枝子だって君が本気で嫌がったならもうしないって」
「……そう、かな?」
「絶対にそうだよ」
「……俺、嫌なんだ。昔みたいなことは二度と嫌なんだ」
「そう、まあトラウマはそのうち改善するとしてぇ」

気持ちは嬉しいが、改善は無理だ。そりゃトラウマなんてないにこしたことはないだろうがさ。
でもちゃんと俺のことを考えてくれてるんだ。友達、か。全部話してる友達ってこいつだけだもんな。やっぱ、話して良かった。
何度か人選ミスったと思ったけど、こいつで良かったんだよな。

「とりあえず、落ち着いた?」
「…ああ、悪いな」

俺は今日だけで3度目の赤面をしながら紗理奈から離れた。
紗理奈は俺を見てにっこり笑った。

「いいよ、友達じゃん」

ああ、友達っていいな。何のよどみもなくそう思えた。
それと同時に、遠い昔たった一人いた親友を思い出したけど、声どころか顔も名前もあやふやだ。年上だったか年下だったか同い年だったかわからない。
だけどもしまた会ったら、紗理奈と言う友達ができたことを自慢したいと思った。そんなことは、ないだろうけど。

「さて、じゃああたしは小枝子の様子見てくるから、3人でのんびりしててよ。花火はまた明日でいいですよね?」
「ええ…別に構わないけれど、結局何があったのよ」
「小枝子に悪いから秘密。皐月も言いたくないだろうしね」

七海と弘美が俺を見るからなんとなく居心地が悪い。

「あー…腹減ったしご飯食いなおしますわ」
「言う気はないのね。まぁいいわ」
「……ヒロ、お風呂入ってきます」

ほっ、二人とも追求する気はないようだ。

「そう。じゃあ私はテレビでも見ようかしら」

弘美と紗理奈は部屋を出ていった。七海は何事もなかったように席に戻るとチャンネルでテレビをつけた。

「早く席についたらどう?」
「はい」

そのなんでもなさが、ありがたかった。










皐月さんに、嫌われてしまった。

本当にどうしてあんなことをしてしまったんだろう?
ああ…そんなのわかってる。やりたかったからだ。皐月さんに触れたかった。キスをしたかった。
でも、それだけじゃ足りなかった。もっともっともっと、皐月さんを感じたかったのだ。
だからした。
皐月さんに拒絶されたのはある意味では良かったと言える。止められなければ、自分でも何をするかわからなかった。
だけど、それは結果であり私が拒まれたのは変わらない。


…辛い。皐月さんに拒まれたのが辛い。悲しい、寂しい、苦しい。
皐月さん…、皐月さん、皐月さん皐月さん皐月さんっ。
本当に本気で本命に革命的に愛しているんです。私があんなことをするなんて自分でも信じられない。
だけど…その先だってしたかったし、しようとした。

カアッ
私の全身が熱い。恥ずかしい。なんて私はふしだらなんだ。そんな、私がこんなに破廉恥な人格だったなんて知らなかった。


「小枝子」
「……」

ドアがノックされたけど私は動けずにいた。
皐月さんじゃない。ああどうしよう、ひょっとして紗理奈さんは私を責めに来たんだろうか。
それならむしろ弘美さんの方が怒りそうだけど、皐月さんは紗理奈さんとも仲がいいから。

「小枝子、入るよ」

私はドアに背中を向けてベッドに座っていたけど、開閉する音がして紗理奈さんが入ってきたのが分かる。

「……何ですか?」

ベッドが勢いよく上下して、私の横に紗理奈さんの手がきた。どうやら私と反対側からベッドにダイブしたらしい。
紗理奈さんはよいしょと言いながら私の隣に顔を持ってきて手は床に落とした。

「ねぇ、皐月には結局何をしたわけ?」
「……紗理奈さんには関係ないでしょう」
「え〜? 友達なのに冷た〜い」

軽い、今にも笑い出しそうな口調にイラッとした。

「何の用ですか」
「狼さんに襲ってもらおうかなってね」
「……皐月さんに聞いたんですか?」
「うんにゃ、具体的に聞いたわけじゃないけど皐月の態度からね。一応、聞いてるし」
「聞いてる? 何をですか?」
「君の知らない皐月の過去さ」
「!?」

私は勢いよくベッドに手をついて紗理奈さんを見る。

「あは、やっとあたしと顔を合わしたか」
「…何なんですか?」
「教えてあげないよ。そういうのは皐月に直接聞きな」
「……どうして」

どうしてあなたなんですか?

私はこんなにも皐月さんを愛してるのに。
誰より何より好きなのに。
皐月さんのためなら何だってできるのに。

「恐〜い顔だね」

紗理奈さんはくすくす笑う。
物怖じしない明るい性格は普段なら憧れるけど、今は腹立たしくて仕方ない。

「紗理奈さん、教えてください」

皐月さんのことを知りたい。
すべてを、知りたい。
紗理奈さんだけが知ってるなんて、我慢できない。

ああ…何で私はこんなに醜いんだろう。だけど止められない。
皐月さんが悪い。こんなに私を虜にするから。私はもう、皐月さんしか見えない。

「皐月にしたこと、あたしにもしらちょっとだけ教えてあげないこともないよ」
「な…」

巫山戯ないでください!

何故かとっさにそう言えなかった。

それどころか、私は紗理奈さんに手をのばしていた。
紗理奈さんの顔にそえた私の手の動きにあわせ、紗理奈さんは手をベッドについて上体をあげる。

「ん―」

キスを、した。

何も感じない。
ただ、触れていることだけが分かる。ドキドキなんてしないし、続けたいなんて思わない。

私は舌で紗理奈さんの唇をなぞる。紗理奈さんが口を自分から開いたところで私は顔をはなす。

「あれ? もう終わり?」

紗理奈さんと舌をあわせるなんて冗談じゃない。皐月さんとなら望むところだが皐月さんとはしていない。

「終わりです。皐月さんに突き飛ばされましたから」
「なんだ。ディープできれば、あたしのテクで小枝子はメロメロなのに」
「あり得ません」

だって紗理奈さんではドキドキしないし、それに紗理奈さんは遊びだ。私には自分から傷つく趣味はない。

「ちぇ」
「これ以上は恋人たちにでもしてください」
「ああ…やっぱり知ってるんだ?」
「全校生徒の三分の一は知ってる、有名な話ですよ」
「だよね。……皐月には言わないで欲しいな」
「それは紗理奈さんが年齢に関係なく女性に手をだすことをですか? それとも、複数に遊びで手をだして捨てるということをですか?」

ありふれた単なる噂だと思っていた。
人気がある人にありがちな恋愛遍歴に関する噂。

だけど、2月に友人が泣いていたので理由を聞いて、噂が本当なのだと知った。
友人を傷つけたことに怒りはしたが、軽蔑はしなかった。私と紗理奈さんに接点はなかったし、他人の性癖に興味はなかったから。

と言うかそもそもその時の私は、女同士の恋愛なんて友人だって半分以上は遊びなのだと思っていた。
友情の延長で、恋人なんて言ったってキスをする程度だろうと。

勿論今は、違うけれど。

けれど本当に、慣れていたなんて。ぞっとする。
ひょっとして、皐月さんに手を出してはいないだろうか。他の誰に何をしようと私にはかなりどうでもいいけれど、皐月さんだけは駄目。
もし、そうならば、もう紗理奈さんの友人はできない。

「違うよ」
「…え?」
「そんなの皐月は知ってる。それに皐月は友達だから、本当に大切な友達だから、小枝子が心配してることは絶対にない」

顔に出てたのだろうか。少し恥ずかしい。私は隠さずに安堵の息を吐く。

「はは、そんなに好きなんだ。黙ってて欲しいのは別のことだよ。これを約束するなら、皐月について大事なことを教えてあげる」
「それ、さっきも言いませんでした?」
「そのくらいの価値はあるよ」

私としては別に人が嫌がることを吹聴してまわる趣味はないので、とりあえずうなずく。

「わかりました。約束します」
「あのね」

紗理奈さんは楽しそうに目を細めながらベッドに座り直し、内緒話をするように手招きをしてから手でメガホンをつくる。
吹聴はしないが私も人の『秘密』に興味がある年頃なので聞き逃さないように顔をよせる。

「はい」

私は待った。紗理奈さんの言葉を。


「っ―!?」

キスをされた。
訳がわからない。

「皐月には言わないでね、君を襲うこと」
「な」

なんだそれは。意味がわからない。

「小枝子はほら、可愛いから気になってたんだ」

強引に腕を掴まれベッドに抑えつけられる。
恐怖が芽生える。
紗理奈さんは――本気だ。

「ぃやっ…やめてください」
「そう言われると、凄いクるね。あたしSだから」
「……死んでください、こ…このめ……」
「め?」
「め…メスブタ…」
「あらら、あんなに淑女らしい小枝子がそんな汚い言葉、似合わないよ」

紗理奈さんに対抗するために私がSっぽい台詞を言えばいいかと考えたのだが、恥ずかしいだけで全く効果はなかった。
我ながら空振りっぷりが無駄に恥ずかしい。

「う…いや、嫌です。本気で嫌です。皐月さん以外の人とは嫌です」
「無理だよ」
「え…?」
「皐月は絶対にやらせてくれない。だから、あたしが代わりに小枝子の性欲をはらしてあげるの。う〜ん、あたしって友達思い。」
「…それは皐月さんが私を好きじゃないからですか?」
「違う違う。皐月は君を好きだよ。信頼してる、いや、してた、かな。まぁいいや」

過去形で言われて私の胸は痛んだが、こればかりは私のせいだ。
欲望に負けた私のせいだ。

「皐月がああじゃないにしろ、君は家族的立ち位置だからね。そりゃ拒まれるよ」
「家族…」
「わかっててやったんじゃないの? すべて受け入れ、優しさで包み込む。まさに『母』」
「……」

何も、言えなかった。
意識していなかったと言えば嘘だ。皐月さんはお母様が大好きだから、そのようにすれば好かれると、全く考えなかったわけではないし…無意識にそうしていた部分はあるかもしれない。

「だから、さ」

私の上で、紗理奈さんが微笑む。
それがとても、恐ろしい。

「い―」

無理矢理に唇を封じられる。

「っ」

恐い。
体が動かない。それは力でかなわないということもあるけど、それ以上に、恐怖で私の身が凍るのだ。
抵抗しなければと思うほど、私の体は動かない。

体をまさぐられ、私の上着を捲られる。脇腹の肌を直接触られる。
触れてるのかどうかわからないような手つき。鳥肌がたつ。
すぐにねっとりと吸い付くように変わる。段々、手のひらが上がってくる。

「―ぁ」
「小枝子の肌、柔らかくて気持良い。こっちは、どうかな?」

ブラ越しに、私の胸が覆われる。

「可愛い、可愛いよ小枝子」

その手のひらに、力がこめられ―

「っっ…い、や」

涙が出た。嫌だ。
嫌。気持悪い。どうしてこんなことをするんですか?
紗理奈さんの噂は知ってたけど…
「友達」だと言ったのに。だから、私は普通に接していたのに。

「…ふぅ」
「っ、ひくっ……?」

紗理奈さんは私の服の中から手を抜いて起き上がり、困ったように微笑みながら私を見下ろしている。

「恐いでしょ?」
「…え……?」

な…に?

「友達と思ってるのに、こんなことされたら恐いでしょ?」
「……そんなの、当たり前です」
「じゃあ何で?」
「?」

紗理奈さんが何を言いたいのか、わからない。

「何で小枝子は皐月にしたの?」
「そっ、れは…だって、私は…皐月さんが好きだって…言ってました、し」

皐月さんだって私がただの友達以上の思いなのは知ってるだろうし、それに…キスは初めてじゃないのに?
少しは受け入れて貰えてると思ったのに。

「…はぁ、とにかく、皐月にこういうことしちゃ駄目だよ。キスだって触れるくらいにしとけば、おふざけですむからさ」
「ふざけてなんか―」
「小枝子」
「……」

強く、真剣な顔で名を呼ばれ、私は黙りこむ。
どうしてそんな知ったふうに言うんですか?
私は、知らないのに。

「皐月は傷ついたんだ。君のせいで。君がどう思おうとそれは変わらない」
「……」


それは……私だってわかっている。
気づいてないわけじゃない。けど、気づきたくなかったから知らないふりをしてただけ。私はずるい。
そんなの、知ってる。けど、どうにもならない。
私がずるいのなんて前からで、変わらない。

「あたし、小枝子のことだって友達だって今も思ってる。だから、約束通り皐月のことを教えてあげる」
「…何ですか?」

私が起き上がると紗理奈さんは再び内緒話をするように楽しげに微笑む。
私は警戒して近寄らずに壁際にあとずさる。

「皐月はね、性的なことが凄く嫌いなんだ。肌を晒すだけでも凄く嫌がる。女にだって嫌がるし男なら尚更だ」
「…どうして?」
「教えてあげない。」
「…紗理奈さんの嘘つき、教えてくれるって言ったじゃないですか」

だから私は、キスをしたのに。
勢い余って近寄ると顔を寄せられ、額がくっつくほどの距離で紗理奈さんは口を開く。

「じゃあ小枝子は、あたしに聞けばそれで満足?」
「…え?」
「違うでしょ? 小枝子は、皐月が好きで好かれたいんでしょ? なら、あたしから聞いてどうすんのさ」
「…あ……」

紗理奈さんは私から通常時並に離れるとにぱ、とお気楽な笑みを浮かべる。

「とにかくそういうことだから、もうしちゃ駄目だよ。皐月から言い出すかイエスと言うまで、ね」
「……」
「返事は?」
「…わかって、ます。私だって、皐月さんが嫌ならやりませんよ」

だからその態度はやめて欲しい。すごくすごく腹が立つ。
まるで私は皐月さんを全然わかってなくて、紗理奈さんだけが皐月さんの味方みたいな、そんな言い方はやめて欲しい。

「うん、いい子いい子。う〜ん、おふざけじゃなく、小枝子とセックスしたくなってきたなぁ」
「断固としてお断りします」

私はきつく、今までこんなに人に怒りを抱いたかと言うくらいに紗理奈さんを睨む。

「にゃは、じょ〜だんだよ。一割くらいはね」
「…紗理奈さんのこと、ちょっと軽蔑です」
「どうして? 噂は前から知ってたでしょ?」
「それでも、『友達』とは区別すると思ってました」

それは真実。
皐月さんに関する嫉妬が抜きなら、紗理奈さんは憧れの対象でさえあるし、友人だと思っていた。噂があったけど、『友達』の私や皐月さんには関係がないと思ってたから。

だけど友達でそういうことをしたいと言うなら、私は紗理奈さんを軽蔑する。

「そか、なんかちょっと嬉しいかも」
「え」

軽蔑されて?
あれ? 実はMなんですか?

「…小枝子が何を言いたいかは顔で分かるけど、違うから」
「え、分かります?」
「皐月といい君といい、わかりやすいんだよ」

私は少しだけ笑う。
今も紗理奈さんに嫉妬してやまない黒い心はあるけど、それは紗理奈さんに言ったって仕方ないし、そもそも紗理奈さんには関係がない。
紗理奈さん経由で皐月さんを知ったって、私が皐月さんから信頼を得なければ意味がないから。

「まぁ安心していいよ。本命と遊びと友人は分けてるから」
「噂通り最低ですね」

そして噂通り、素敵な人だ。
悔しいから、いつもみたいに口には出さないけど。

ありがとうございます。
危うく、またズルをするところだった。
皐月さんには真摯に対していたいのに、私のずるい心はすぐにズルをしようとする。
近道と思った道が、本当に目的地につづく保証なんてないのに。








読んでくださり、真にありがとうございます。

話が飛んでる気がするので、もしかすると修正するかもですが、面倒だと無理矢理話を繋げるかもです。
変なところがあると教えてくれると嬉しいです。

今度はもう少し早く更新できるよう頑張ります。











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