弘美さんは個室がお好き?
「…あの、質問してもいいですか?」
「なに? つか敬語はやめろっつったでしょ下僕」
「下僕もやめろって言っていいのか?」
「駄目」
厳しいやつだ。
と、まぁいつもの事だ。それよりも…
「なんなんだよこの部屋は…」
今いるのは大手デパートの、ビップルーム…でいいのだろうか。
わりと広い室内に洋服やバックが並んでいる。
気のせいか…どれも一流ブランドものに見えるんだが。あ、水着もある。
あまり乗りたくない、あからさまに金持ちっぽい高級黒塗り車で運ばれ、スタッフに案内されて裏口からここまできた。
「は? 買い物でデパートにくんのは普通でしょ」
「俺は今だかつて買い物でこんな部屋に案内された覚えはありませんが?」
「ヒロは正真正銘のお嬢様なのよ。個室でしか買い物をしかことがないらしいわ」
七海…お前がそれを言うのか。
それにしたって、やっぱり部屋に集められるのにも限りがあるんだから、普通の方がよくね?
そんな疑問を投げると七海は水着を物色しながら冷たい態度だ。
「知らないわよ。ヒロに聞きなさい。」
尋ねてみた。
とてつもなくバカを見るような目で見上げられてるのに、見下されてるようだ。
「バッカじゃないの? なんでヒロが庶民どもに紛れてあんなゴミゴミしたところで選ばなきゃならないのよ。だいたい知らないやつがいたら落ち着かないのよ」
「ふぅん…そんなもんか。まぁ確かに静かかも知れないけど、やっぱり普通の売り場の方が何か選んでる感があると思うけどな」
こうまでお膳立てされると、むしろ選ばさせられてるだろ。高いのしかないし。
「ヒロはあんたみたいな田舎者と違うのよ。いい? ヒロは他人が嫌いなの!」
「あっそ」
そこまで嫌わなくても。もしかして猫被りがくせになってるから人がいたら落ち着かないのか?
店員にも猫被って、追い出してから素をだしたしな。
俺は質問をやめて3人のように水着を物色する。何気なく値札をひっくり返す。
げ、高い!
小枝子の時もそれなりにしたが、ここの部屋、万からしかねぇよ。うわぁ…こんなに布がないのに値段が…
○
「会長、会長はどれにするか決めました? あたしはこれー!」
紗理奈の元気な声に視線をやると、紗理奈は真っ青な際どいヒモビキニを持っていた。
この前に見せられたのはマシだったのか。てかそういや俺はスクール水着じゃないとな…。
見てるのは楽しくないわけじゃないが、着たいと思うのはなかったし、何より母さんの要望だしそれでいいか。
「私はこれね。ヒロも決めたのかしら?」
「オッケーです。」
ちらと見ると七海は白のワンピースタイプで腰に黄色の布をまいてる…なんだっけ、そう、パレオだ。
弘美は普通のセパレート水着で、紗理奈ほど際どくなくビキニではない。緑系統。
ふぅん…。
何だか、変な感じだ。こう、むずむずする。
「で、皐月は?」
「え…ああ、俺はスクール水着ですからここにないですね。後で買います。」
注文したっていいしな。
「は?」
「あなた…」
「スクール水着で海に行くわけ? バカじゃないの?」
3人とも物凄い珍獣を見る目で俺を見る。やめてくれ。
「な…別にいいじゃん。七海様たちには関係ありませんー」
「ちょっと、あなた何を考えているのよ。いいから、私が選んであげるわ」
「ダメ! 皐月様はヒロのなんだから、ヒロが選ぶんです!」
「んじゃ、3人で選んで、皐月が気に入ったのでいいじゃん」
「…分かりました。皐月様、あんた何色が好きなわけ?」
うわ、ある意味小枝子の言った展開に。
てかだから色に好き嫌いなんてないっての!
「う〜ん、何でも好きですよ」
「皐月には白が似合うわよ」
「緑だって似合いますよ!」
「じゃああたしも…う〜ん…とりあえず、あたしと揃いのにしようか」
何気なく言う七海に何故かつっかかるような弘美、そしてさらに何故か楽しそうな紗理奈が、笑顔で俺に青いシンプルなワンピース水着を押し付けてくる。
「おいだから」
「皐月様は胸がないんだからワンピースだと寸胴に見えるのよ。これにしなさい」
さらに弘美に押し付けられたのは淡色の弘美と違い濃い緑だが弘美と似たようなセパレート水着。
「お前、失礼だぞ」
「そうよ。皐月は胸はないけど、腰は細いから…これでいいんじゃないかしら?」
さらにさらに、七海が持ってきたのは胸元にはフリルのついたワンピースで短パンのようなのとセットだ。白が基調なのはいわずもがな。
とりあえず…うん、お前らの好みを押し付けてるだけだろ。
俺はお前らの着せかえ人形か。
「まぁほら、順番に試着試着〜。点数は10点満点でね。二人とも仲良くしなきゃダメだよ。点数は公平にね」
「つけるな。ってか押すな!」
俺は試着室に押し込まれた。
○
「うん、似合うじゃない。」
「さっきのがいいですって」
「そうかしら? 私はそうは思わないけれど」
何だか知らないがさっきから弘美が七海に反抗的だ。七海が全く相手にしてないのが救いだが…。
つか、七海が必要以上にトゲトゲしいのは俺にだけだからな。
「うん、皐月はわりとタイプが広く似合うよ。会長が選んだそのワンピースだってちゃんと似合ってる」
「そ、そうか…サンキュ。恥ずかしいんだけどな」
着替えるのにも精神力がいたが、見せるのはさらに疲れる。
今だって、多少は慣れたとは言えまだ顔が熱い。
触られないのが幸いだ。
「で?」
「あん? 何だよ弘美、ってかそんなじろじろ見るな。…ハズイだろ」
「ヒロは恥ずかしくない」
こいつ…ちょっとは人の気持ちを思いやるってことを知らんのか。
「……とにかく、もういいだろ。着替える」
俺は試着室のカーテンを閉めて元の服装に戻る。
しかし短いズボンだなぁ。足のつけねから丸見えじゃん。ファッションのことなんて分かんないから、通販雑誌でモデルが着てるままに買ったんだが……似合ってんのかもよく分からない。
ま、スカートじゃないだけマシだ。厚底のサンダルは微妙に歩きづらいが、あのほっそい、ピンヒール?とかよりはマシだ。
「お待たせしましたぁ。と、弘美、なんか用事か?」
カーテンを開けると弘美がすげぇ睨んでくる。
「結局さ、どっちの水着を選ぶわけ?」
「ん? スクール水着。母さんがそうしろって言ってたし」
「………それを早くいいなさいよバカ」
「確かに…母親が言ったなら皐月は絶対そうするだろうね」
「まぁいいじゃない。とにかく私たちの分を買いましょう」
「ラジャーです会長」
紗理奈がビシッと敬礼する。
こいつってかなり調子いいよな。てか…睨むのはやめて下さい弘美さん。
○
「もう7時か…じゃあそろそ―」
「まさか帰るなんてバカなこと言わないよね皐月様?」
帰ろうとすると弘美に笑顔でとめられた。
「あ? 目的は達しただろ」
「まだまだ〜。次はボーリングするよ。予約はしてるからね」
「え」
「晩御飯は好きなジャンクフードを出前していいわよ」
なんでジャンクフード?
つかあれは出前するもんじゃねぇだろ。
「あたしはケン○ッキーが好きぃ。会長とヒロはマク○ナルドだよね」
「ええ。不味いんだけど普段食べれないとなるとたまに食べたくなるのよね」
「てか晩御飯食うのかよ」
「皐月様、約束、忘れてないよね?」
「…分かったよ。爺ちゃんに電話するからちょい待て」
携帯電話に短縮で登録してる爺ちゃんの携帯電話番号にかける。
『もしもし皐月か、どうした?』
「ああ、今日は友達と晩御飯食うから。伝えといて。心配しないでも大丈夫だから。んじゃ」
『な! ちょっと待っ―』
強制的に切る。
爺ちゃんには悪いけど、爺ちゃんは無駄に過保護だからな。電源も切っとこう。
「さて、じゃあ行きますか。てか予約ってどこのだよ?」
「ヒロの」
弘美の端的すぎる言葉に俺は首を傾げる。
「だから、ヒロのボーリング場」
「ん? 悪い、どういう意味なのか噛み砕いて言ってくれ」
弘美はお決まりのように俺に軽蔑の視線を向ける。
「だから…ヒロの家がやってるボーリングとか色々ある娯楽施設を予約してんの」
「…んなのあるんすか」
この金持ちが…。
「敬語禁止!」
「あ? うるさいやつだな。…とにかく、どうやって行くんだ」
「車、今呼んだから来るよ」
キィィー
激しいブレーキ音がして車がつっこんできた。
早っ!
○
「う〜ん、この無駄に脂ぎったのがいいよね」
個室の中でマジで出前されたジャンクフードの山に俺たちは手を伸ばす。
ちなみに個室ってのは弘美のとこの特別室みたいなもんで、ボーリングのレーンが一つでカラオケマシーンがありバッティングの機械もある。
区切りがあり今はカラオケしか見えないが、実際にはもっと色々なものがあるらしい。
「普通に美味いだろ。前はよくおごってもらってたんだよな。懐かしいな」
「え? よく食べてたの?」
「中学ん時かな。俺、わりとモテてたから」
「え? き、君が!?」
そんなに驚かなくても…ああ、俺が男にモテるとかだと、そりゃ驚くか。
「女に、だぞ」
「…は? ちょ…皐月って共学だったんだよね?」
何故かより一層驚いた顔をする3人に俺は若干ひく。
「ああ」
「……」
「俺、男として生活してたって言ったろ? 真面目な話、学校にも男として通ってたんだよ」
「ああ…戸籍が? でもそれって現実に可能なの? ばれないわけ?」
紗理奈に言われ俺は言いよどむ。
そう言われると確かにそうかも知れないが…やったのは母さんだし、俺はよく分からないんだよな。
実際には女の戸籍だし。住民票とかだってあるし…もしかしたら学校側は知っててやってたってのもありえるよな。
ま、実際のはとこは今夜の電話ででも母さんに聞くか。
「ま、母さんに聞いとくよ。このバーガーも食べていい?」
春にでた新作のハンバーガーを手にとる。ちなみにメニューをテキトウに注文しまくって好きなものを食べるやり方だ。
「あ、それは駄目。ヒロの」
「半分にしないか?」
「嫌」
「頼むよ。最近は食ってないからこれは食べたことがないんだ」
「嫌よ」
「けちだな。頼んでんだろ」
「調子に乗らないでよ。下僕は下僕らしく地面にはいつくばって私の靴を舐めなさい」
「アホか。七海様も何とか言って下さいよ。こいつめちゃめちゃ我が侭じゃないですか」
「え? そんなのポチが我慢すればすむ話じゃない。むやみに私に頼ってると橋の下に捨てるわよ」
「何でだよ!」
いつまで俺は下僕扱いされてペット扱いなんだよ!?
○
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