夏休みはじめます
「はぁ〜」
「ん? 弘美さん、どうしたんすか?」
「別に…夏休みだなぁって」
「…はあ」
おかしくね? 普通夏休みならもっとテンション高くていいだろ。まぁ俺もだけど。
今日、終業式があり今はまだ12時過ぎだが放課後、というか夏休みだ。
今年はあまり暑くないな…。
自然が多いからか、田舎ではないが都市部からは数駅離れてるからか?
……あ、通学時間とか外出には許可がいるとかで外に出てる時間が短いからか。常に建物の中ならそりゃ快適だよな。
トレーニングだって建物内にそういう設備があるって知ってからは中でやってるし。
「皐月様はまだのんびりしてていいわけ?」
何故だか皮肉げな口調で言われたがわけが分からない。
「? どういう意味ですか?」
「だぁかぁらぁ…はぁ」
「?」
弘美はため息をつくが答えない。
「ヒロは皐月に、まだ実家に母親に会いに帰らなくていいの? って言ってるんだよ」
「ああ…帰ってもいないしな。爺ちゃんには会いたいけど忙しいから、急がなくてもいいし。」
「ふぅん」
「てかそうか、みんな…もう帰りだしてんのか。七海様たちは?」
「私は…盆には帰るわ。どうせ親には会えないだろうけど。実家にいると出たくもないパーティーに出なきゃならないしね」
「ヒロは帰らない。てかここに住んでるし。まぁ夏だし旅行には行く予定だけどね」
「あたしはまだ。さ来週に父さんと母さんが一日だけ開いて食事するけどね。他は会えないな。母さんもわりと急がしいんだけど、父さんがまた輪をかけて酷いから。祖父母には盆に会いに行くのが定例だからね。
小学生ん時は親に着いて回ったけど、中学からは寮だし、毎年帰らずに友達とかで遊ぶかな」
「へぇ…そういや小枝子も帰る前にメールするって言ってたな」
夏休みだもんなぁ。爺ちゃんとも居たいし、あいつらとも遊ぼうかな。
「ああ、いないのはやっぱ帰ってるんだ。てかあたし皐月のメルアド知らないな。教えてよ」
そういやそうだな。俺は教えようと携帯電話を取り出し―
「そうね、連絡が取れないと困ることもあるかも知れないし、私も聞いてあげるわ」
「……」
七海には男として教えたじゃん!?
教えたら駄目だ! バレバレだよ!
「あ〜…その、実はもう買い換える予定なんです。だからとりあえず教えてください。買ったらメールしますから」
「え〜、面倒だなぁ」
「すみません。」
ぶちぶち言いながらも二人はメモ用紙に書いて渡してくれた。
ふぅ、下手につっこまれなくて良かった。さっさと話題変えよう。
「そういえば七海様って両親が医者なのに社交会とか行くんですか? 医者ってそういうのとイメージ違うんですけど」
「ああ…そうね」
七海は面倒そうにため息をついてから紅茶を飲む。
つくづく動作が優雅なやつだ。
「言ってなかったかしら? 私の母方の祖父が資産家なのよ。母は忙しいし何より父との結婚は反対されてるから。でも何だか知らないけど、お爺様は私を可愛がってくださるのよ。従兄弟も何人かいるけど、私を特にね」
「へぇ…七海様って母親に似てますか?」
「え…ええ、よく言われるわ。どうして?」
「う〜〜ん、とりあえず、七海様の母親、愛されてますね」
「? また訳の分からないことを…」
まぁ多分だけど…七海の母親が好きだから結婚に反対して、似てる七海が可愛いんだろうな
…いや、素で可愛いってのもあるのか?
「…何よその目は」
「ん…ああ、すんません」
ガン見してた。
「まぁいいや。それより紗理奈、暇なら遊ぼうぜ。来週なら暇なんだろ」
「え」
「……」
「いいよ。あ、なんなら携帯電話買うのに付き合おうか」
「えぅ!? そ、それはいい! えっと…何かしたいことあるか?」
「買い物」
「え、ん〜…まぁいいけど…あ〜…」
女のカッコで会わなきゃならないんだから、買うのも女もんだよな。
「皐月様」
「え? ああ…おかわりですか?」
弘美の前の空のコップにオレンジジュースを注ぐと、逆にされた。机にオレンジが広がる。
「ってああ! なにしてんすか!?」
雑巾で慌てて拭いたので床に溢れずにすんだが…なんなんだこの嫌がらせは。
え? ていうか当たり前にその世話をする俺って…
「違う! …ヒロも行く」
「え?」
「そう…水着を買いに行くわよ! 今年はみんなで海に行くの! ね? 七海様もいいですよね?」
「そうね…いいんじゃないかしら。でもそれなら、私も水着を買わないといけないわね」
「いいねぇ。海か。やっぱ夏は海だよね!」
あれ? 何だこれ? いつから海に行くのが決定なんだ? ていうか海って……水着じゃん!
「す、ストップ温暖化!」
「うん。だから室内じゃなく外で涼もう」
「…いやいやいや! 違う! 違います! 冗談です!」
さりげなく止めるためにユーモアをいれただけなんです!
「じゃあまず買い物だけど…いつなら開いてる?」
「え〜…今週はたっぷり爺ちゃんと遊ぶから、まぁ来週末とかなら良いけど、ってじゃなくて!」
「じゃあ土日は混むから一週間後火曜の昼に学園前で。二人はどうせ暇なんだしいいよね」
笑顔で俺の話をスルーする紗理奈に二人も頷く。
「どうせってのが引っかかるんですけど…まぁ大丈夫です」
「構わないわ」
「俺が構うわ! ヤダ! 水着なんて絶対反対!」
机を叩いて抗議すると紗理奈がはぁと大袈裟にため息をつく。
「いいじゃん別にさ〜」
「いや!」
「皐月様」
「なんすか!?」
「いいから黙って従えよカス」
「………はい」
…なんなんだこの扱いは
だが何故か弘美に逆らえない俺…ていうか本気でその睨み顔は恐いから
こうして、俺の夏休みは始まった。
○
「でさぁ、小枝子も行こうぜ。来週の火曜なんだけど」
家に帰ってきた俺は早く帰ってきた爺ちゃんに迎えられ、たくさん話をするといつの間にか日が沈んでいたので夕食をとった。
そして今は、昨日決めたことを小枝子に報告している。先日めでたく?小枝子も淑女会の一員になったのだから普通に誘えて嬉しい。そうじゃなかったら、小枝子は遠慮するだろうし。
『あー…すみません、その日はもう約束が…すみません』
「あ、ならいいよ。泳ぎに行く日はまだ決めてないけど、その時は小枝子の大丈夫な日を聞くから水着だけ用意してくれよ」
『はい。分かりました。ところで皐月さん、それ以外に予定は決めてますか?』
「ん、明日は爺ちゃんと一日家で映画見るよ。明後日は爺ちゃんと釣りに行く」
『……あの、失礼ながら会社は大丈夫なんですか?』
あ〜…まぁ、平日に遊ぶ発言したらそう思うか。そもそも社長なのに俺が家にいる日は毎日定時帰りって…まぁ夜中にパソコンに向かってるしやってるんだろうけどな。
「うん。特別に休むらしいし、それからは普通に休日しか休まないから。まぁどっちにしろ朝も夜も顔を合わすんだけどな」
『そうですか。じゃあ4日後に遊びませんか?』
「いいよ。何する? あ、水着選びに付き合おうか?」
『いいですね! 皐月さんのを選べないのは残念ですが』
「え、選んでよ。どうせあの3人とだと荷物持ちだろうし」
それにどうせ水着を着なきゃならないなら、小枝子に選んで欲しいしな。
『駄目です。きっとみなさん皐月さんのを選びたがりますよ。』
そうかぁ? 小枝子、考えすぎじゃね?
と思ったが、まぁ小枝子がそう言うならそうするか。それに買わなくても参考くらいになら聞けるだろ。
「じゃあ、携帯電話選んでよ」
『携帯電話…ですか?』
「うん。女の皐月用に買わないと七海にメルアド教えられないし。何か携帯電話二つってカッコよくない? 仕事とプライベート、みたいな?」
『ふふ、そうですね』
「小枝子にも教えた方がいいか? でもアドレスは別だけど、小枝子からしたら変わらないか?」
『いえ、二つ持ち歩いていたら七海様たちに見られたらどう言うんですか? ちゃんと女の時、男の時に持ち変えた方がいいですよ。』
た、確かに…今のやつはもう見られたのにタイプ変わってなかったら怪しまれるよな。
「う、う〜ん…でも男の俺しか知らないやつからメールきた時にすぐに対応できないしなぁ」
『う〜ん…あ、じゃあ同じ携帯電話を二つにすれば一度に出さない限り大丈夫ですよ』
「それだ! 小枝子ナイス!」
『ありがとうございます。じゃあ次の土曜に…何時に何処にしましょうか』
「俺が小枝子の家に行くよ。てか行きたい。昼になら行っていいか?」
行ったことないしな。楽しみだなぁ。まぁ小枝子の部屋なら寮部屋から傾向は分かるけどな
『構いませんけど、どうせならお昼一緒しません? 私の家、分かります?』
「うんにゃ、わかんね」
『……じゃあ、私が駅まで迎えにいきます。あ、私の家でご飯にしますか? 母も喜ぶと思いますよ』
そりゃあいい! この間は猫被ってちょっと挨拶しただけだしな。小枝子の母親なら仲良くしたいぜ。
「いいね。じゃあ11時に…E駅、だよな?」
『そうです』
「で、小枝子の家で遊んでそれから買い物に行こう。E駅なら一駅でショッピングモールあったよな」
『はい。それほど大きくはありませんが』
「じゃ、決定!」
○
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