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あい・らぶ・まみぃ!
作:シロクロ



よろしく


「やほ、さっきぶり」

休日なので少ない人数の食堂で朝食をとっていると、声をかけられた。
顔をあげると紗理奈が一人で俺の向かいにトレイを置いて座った。他のやつはいない。

「ん、紗理奈…さんか」
「はは。別に敬語はいいよ。今更だし。元々、同学年なんだし必要ないしね」
「え、マジ?」
「うん。てか敬語を強要してたのは会長だけだって気づいてた?」

そういえば…弘美はたまに『様づけしろ』や『生意気だ』なんて言ってきたがよくよく思い出すと敬語を使えと言ってるのは七海だけだったか。

「うっわ、損した」
「あはは。はい、忘れ物」

そう言って紗理奈は俺に眼鏡を差し出す。受け取りながら礼をいい、装着。

「ねぇ皐月」
「ん? 何だよ」

「昨日のこと、覚えてる?」
「ん? ああ…多分。解散する前に何回か寝ただろ? その前のあたりは覚えてない。あ、そう! 紗理奈と話してたよな。内容は…何だっけ?」
「…『汚い』の?」
「は?」
「君が言ったんだよ。小枝子ともあたしとも付き合わないのは、自分が汚いからだって」

どきっとした。

嫌だ。知られたくない。嫌われたくない。軽蔑されたくない。『今』を無くしたくない。

俺は精一杯平静を装いながら朝食の味噌汁を飲み干し、箸をおく。

「は? つか何で紗理奈も入ってんの?」
「小枝子には本気じゃないから駄目って言うから、あたしと遊びで恋人する? って聞いたの」

サンドイッチをぱくつきながら言う紗理奈には、カマをかけてる雰囲気はない。
全然覚えてない…けど、多分言ったんだろうな。

「……そうか。俺、そんなこと言ったんだ」

否定しても仕方がないので、肯定する。

「うん。で? 何がどう汚れてるわけ? 風呂嫌い…とかって問題じゃないよね」
「ああ…ってか、言えるわけないだろ」
「何で?」
「何でって…俺がどう汚いか説明なんかしたら、嫌われる。俺、紗理奈に嫌われたくないし」

素直に白状すると、紗理奈はん〜、と何かを考えること数秒。すぐにうん、と一人頷く。

「そんなにあたしが好きなら信じてよ」
「?」
「あたしだって皐月のこと好きだよ。てか、皐月が始めてだよ」
「何の?」
「始めて、自分から友達になりたいと思ったのはさ。あたし、友達はわりといるけど何となくだし。小枝子みたいに成り行きも多いんだ」

? なにが言いたいのかよく分からない。

ていうか
「普通だろ。友達になりたいからなるって…そういうものじゃないだろ」
「うん。でも違うんだ。これさ、言ったら皐月はあたしを軽蔑するかもだよ?」
「え?」
「あたしだって皐月には嫌われたくないから、あたしの本心知っても軽蔑しないって約束できる?」
「ああ…てかそんなんあり得ないし」

紗理奈はニコリと笑う。

「信じるよ。皐月が好きだからね。あたしさ、女の子を見ると友達より、食べたいって思っちゃうんだ」
「…………は? ごめん、何だって?」

サラリと笑顔のまま告げられた言葉が理解できずに聞き返すと、紗理奈は

「あたし、女の子大好きで、可愛い子を見るとひんむいてメチャメチャにしたくなるんだよね(はぁと)」

と可愛く言う。確かにわりと重い告白だな。
だが同性愛者っても、母親から女の恋人つくれと言われる俺ほど変でもない、のか?

「皐月も、素顔を知った時はちょっと食べたいちゃいな、とか思ったにゃあ」
「……」

それは心の中にしまっとけよ! 猫っぽく言っても可愛くねぇよ!

「…ひく?」


でもあんまりに紗理奈が寂しそうに微笑んで尋ねるから、だから俺も本音で答える。

「驚いた」
「…軽蔑、した?」
「……紗理奈、ずるいなぁ」
「え?」

そんな風にされたら、そんな目で見られたら、紗理奈を信じるしかないじゃないか



恐い。凄く恐い。嫌われるのが、恐い。

俺はうつ向いて、話すために口を開くが、中々言葉が出てこない。

「皐月?」
「俺さ………小学生の低学年の時に…大好きだった先生に犯されたんだ」


言った! 言ってしまった!

もう…戻れない。さげすまれるかも知れない、疎まれるかも知れない。

でも、紗理奈の誠意に応えたかった。

「……え…」

紗理奈が驚きに声をもらすが俺は顔をあげれない。
そのまま、勢いのまま話す。

「全身が精液だらけで先生の唾液だらけで……死にたかった。何も感じたくなくて考えたくなくて、全てを拒絶した」

ゆっくりと顔をあげる。
今思い出しても恐い。先生が恐い。男が恐い。
だけど、紗理奈に拒絶されるのだって恐いから。
だから紗理奈の顔を見て、確かめないと。

「半年くらい、かな。俺が、母さんと話ができるようになったのは」

「……ごめん」

俺は今どんな表情なんだろう。紗理奈が謝りたくなるくらい、顔色が悪いんだろうか。
それでも俺は言葉を続ける。

「怖かったから、逃げた。引越したし、二度と男に迫られないように男になった。それでも、人に触られると恐い。男は問答無用で恐いし、女に触られるのは汚いとことか見透かされるようで恐い」
「……」
「……こんな俺が、気持悪い? 弱い俺を軽蔑する?」

一体…紗理奈は何て言うんだ? 駄目だ! やっぱり紗理奈の顔を見れない!
俺はギュッと目を閉じて顔だけを紗理奈に向ける。

「怒ってる」





「……………………はい?」

即答された言葉に俺は間抜けな返事しか返せなかった。

目を開けると呆れたような紗理奈がいた。

「君ってやっぱバカ」
「な…!?」
「酷い目にあったのは分かったよ。恐いと思うのも…あたしには分からないけど、想像はできる。そんなの誰だって恐いよ。誰だって逃げるよ。全然君のせいじゃないじゃん。先生とやらが180パー悪いじゃん!」
「……」
「なのに…そんなことであたしが君を嫌うと思ってるとことか、そんなことであたしの告白より重いと思ってんのがマジムカつく」

紗理奈…嬉しいよ。その変わらない態度は嬉しいんだ。
だけど…

お前、今のは聞き捨てならんぞ。

「ちょっと待てよ。そんなもんお前の話のがどうでもいいわ。ただの性癖じゃねぇか」
「すぐに君の嫌いなセックスしちゃうんだよ? 世間一般からすりゃ評判最悪だよ」
「俺が嫌いだからってお前に押し付ける必要なんてねーだろ。んなこと言ったら俺なんてお前の好きなセックスが大っっ嫌いだ。つーか世間なんて気にする必要あんのかよ」



じっと俺たちは真剣に見つめあっていたが、しばらくしてどちらともなく笑いだした

「……あは」
「…ふっ」
「あはははは」
「ははっ、バカみてぇ」
「だよね。だって…お互いに不幸自慢みたいになってるし」
「だよな。あー……なぁ」
「ん?」
「本当に? 気持悪くない? いっぱい汚されたんだぞ。言葉で言えないようなこと…たくさんされた」

俺がまた真剣になって言うと、紗理奈はふぅと息をついてから微笑んだ。
普段のおちゃらけた様子からは想像できない、優しい、だけどどこか悲しい笑顔だ。

「…あたしだってしたよ。皐月にしたら気絶しちゃうようなこといっぱいしたよ。あたしSだから相手の子もよく泣かせたよ。浮気を浮気とも思わないで半ば無理矢理にしたこともあるよ……本当に軽蔑しない? 先生とやらと、あたしは同じ人種かもよ」
「違う」

絶対に違う。断言できる。
なのに紗理奈は微笑んでなおも尋ねてくる。

「…どうしてそう思うの? 先生は普段から嫌な人だった?」
「……凄く、いい人だった。お父さんになって欲しかった」
「…じゃあ」
「違う! 違うもん! 紗理奈は…優しいよ」

何が違うのか自分でも分からない。けど違う。紗理奈は人が嫌がることはしない。
さりげなく人を気づかってるし、昨日だって酔い潰れずにいたのは紗理奈だけで、多分それは回りを気にしてだ。みんな酔ってしまえば収拾がつかないから。
紗理奈は先生と違う。まだ短い付き合いだけど、紗理奈はきっと違う。
紗理奈は、本気で人が嫌がることをしない。

「…ありがとう。本当、皐月は可愛いなぁ。小枝子たちが好きなのも分かるよ」
「たち?」
「…気にするな。皐月、友達になろう。出来れば、親友希望。あは、なんか恥ずかしいな。こんな言葉、一生言わないと思ってた」

紗理奈は顔をほんのり赤くして誤魔化すように頬をかき、だけど俺から視線をそらさずにそう言った。
だから俺も、熱さを無視して紗理奈をまっすぐに見つめる。

「………昔、凄く仲がいい友達がいたんだ。親友だった。でも逃げてからはずっと嘘をついてたから、だから本当の意味で友達は出来なかった。
始めは…母さんと離れて最悪だったけど、ここにきて良かったと思う。小枝子と本当に友達になれたし…お前と、親友になれるんだから」

互いに照れながら、赤い顔で笑った。
「改めて、よろしくね」
「ああ、よろしくな」







読んでくださりありがとうございます。
実は皐月と紗理奈が友達になるためにパーティーをしたと言って過言でない程度に前から考えてました。
皐月には少しずつトラウマを無くして欲しいんですが、もしかすると一足飛びに見えるかもしれません。
稚拙な文ですが頑張って行きたいと思います。











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