パーティーをしよう
「……小枝子ぉ」
「はい」
「マジで腹減ってるんだけど」
「本当にごめんなさい。ですがもう少しだけ待ってくれませんか。ああ、でも皐月さんが辛いならこっそり私が食事を―」
「あー、いいよ。小枝子が悪魔3人組に怒られるし」
「そうですか? ですが遠慮はしないでください。私、皐月さんのためなら何でもしますから」
「あんがと」
「いえ、待ってもらってるのは私たちですから。ですがもう9時半を過ぎましたし…少し様子を見て来―」
コンコン
立ち上がる小枝子の言葉を遮るようにノックがしてドアが開いた
「おっ待たせ〜。んじゃ、食事にしようか」
「紗理奈さん、それはいいけどマジでなんなんですか?」
「着いてきてのお楽しみだよ」
紗理奈はパチリとウインクするが、七海と弘美がいないのにも不安を覚える
部屋風呂で言われたようにすでにすっきりしているんだから、また風呂に入るような目に会うのだけは勘弁してくれよな
「遅い。遅いわよ皐月」
「皐月様ったらおそぉい」
「まぁまぁ、皐月さんも色々あるのよぉ」
食堂に連れて行かれると何故か柚子先生がいた。
「はぁ…すいません? え〜、なんでこの人デキ上がってんすか?」
食堂ではいつもと違いご馳走が並べてあり、机配置が変わり椅子は端に言っていて何故か真ん中にお立ち台が……カラオケマシーンなんか見えない。見えないんだ。
ともかく、七海と弘美は普通だが柚子先生は真っ赤な顔で、あからさまに酔ってる(ついでに空のワイン瓶が一本転がってて今持ってるのは半分減ってる)。
「やぁねぇ〜、この人なんて…柚子せんせぇって呼・ん・で」
「……普段と変わらね〜」
だけど息臭いし絶対酔ってるよ。
俺は責任者―七海に目をやる。睨み返された。
「何かしらその反抗的な目は」
「別に…は! もしや柚子先生を酔わせて…何をするつもりだ鬼蓄!」
「何を考えているのよ!」
ええい、よりによって教師の身ぐるみ剥いでしまうつもりか。金があるくせに何でそんな強盗のようなことを…?
「皐月、とりあえず君が考えてるのは間違いだよ」
「わ! …ってえ? 俺、じゃない私を強盗の共犯にするんじゃ…」
紗理奈が肩をぽんと叩いて来たので慌てて振り払いファイティングポーズをとってから?を浮かべて問いかけると、紗理奈はもの凄く呆れた顔をした。
「……予想以上に検討外れな答えをありがとう」
「? 違うんすか?」
「違う。てかさりげに失礼だし。肩に置いた手を振り払うとことか」
「や、恥ずか…バズーカが欲しいです」
真っ正直に『恥ずかしい』と言おうとして慌てて誤魔化す。普通はこんな何でもない触れ合いに恥ずかしいなんて思わない。
俺だって自分からするにはなんの問題もない。が、自分が了承しないうちに相手から触られるのは無理だ。
まぁこの生活でだいぶ恥ずかしいのにも慣れてきたが、まだとっさに拒否反応がでるのは許せ。
「いや、誤魔化せてないし」
「…まぁ、とにかく、だ。なんなんすか?」
「ん、パーティー」
わかんないの? 頭悪いなぁとでも言いたげな紗理奈に俺はため息で返す。
「……なんで?」
「『祝・あたしの赤点脱出』を主に。ついでに母親がこない皐月を元気づけよかなって。ま、結局きたしぶっちゃけどうでもいいけどね」
「…そういうのはオブラートに包め」
「あはは。まぁとにかく、会長、音頭お願いしまーす」
「ええ、今夜は飲むわよぉ。と、その前に小枝子、鍵をかけて。紗理奈は寝てる柚子先生を隅へ」
言われて見ると柚子先生はうとうとと舟をこいでいた。
「はい」
「らじゃ」
素直に二人が従う。柚子先生は本格的に寝始めて紗理奈が背負って並べた椅子に寝かせても起きない。上に布団をかけ戻ってきた。
小枝子も七海に言われるまま窓にまで全て鍵をかけてから俺の隣に立った。
「じゃあ、宴を始めましょう。面倒な講釈はなしよ。乾杯!」
「イェーイ!」
3人が一斉に喉をならしてそれぞれの器を空にするのを俺と小枝子が見る。
いや、飲み物を配ってからにしろよせめて
飲み終えてからようやく気付いた3人はそれぞれの飲み物を俺達の前に並べた。
ビール瓶
徳利(多分中身は日本酒)
赤ワイン
3人が飲んでいるのはだけだが実際はそれ以上の種類が封を開けられずにある。
…後で飲む気じゃないよな?
「小枝子、あなたは何がいいかしら? ビール? それともウィスキーやブランデーが好みなのかしら?」
「あたしは焼酎がお勧めだよ。今日のは泡盛。沖縄から通販で取りよせた特別いいやつだよ」
「じゃあ俺はチュウハイで」
「私は…お酒は少し……烏龍茶でお願いします」
3人はすでにめいめい勝手な酒を飲みながらため息をつく。
「あなたたちねぇ…雰囲気を読みなさいな」
とはオヤジのようにビール瓶を持ちながら言う七海。
「つかチュウハイって何か分かってる? 焼酎の炭酸割りだよ!? 冒涜だよ!」
ダンッ、と紗理奈が徳利を乱暴に机にいくつも置いてコップに半分そそぎ炭酸水を溢れるまで注いだ。
って作ってくれんのかよ。
「ああ、ありがと…。小枝子は烏龍茶なんだよな、取って―」
冷蔵庫に行こうとすると手をひかれ、振り向くと弘美が物凄い形相をしていた。
「あんたバカじゃないの? 酒だってんでしょ!? 小枝子様!」
弘美は俺を離して小枝子に詰め寄り、小枝子はびくっとして気をつけをする。
「え、あ、はい!?」
「飲め!」
問答無用で弘美は小枝子の口に赤い液体がたゆたう瓶を逆につっこんだ。
「ぎゃああ!? お前酔ってるの!?」
小さな小枝子の喉が忙しく動き、半分まで減るとようやく弘美は瓶を小枝子の口からはずす。
「っはぁ…ごほっ」
「だ、大丈夫か小枝子?」
「あ〜、皐月さんがいっぱいいる〜」
「……」
手遅れだった。
てか酔うの早くね?
「おい七…って食ってんのかよ!」
「はふひはひは(悪いかしら)?」
「しかも何で今日はマナー悪いんだよ!」
「まぁまぁ、会長はとにかくビール飲んで食べてストレス発散させるんだ。ていうかみんな酔い始めてるから、皐月も早く飲みなよ」
弘美に目をやると小枝子をつれてお立ち台にいた。
すぐに音楽が流れだし、二人の微妙にずれた歌声が食堂いっぱいに響く。
「……なんなんだよ一体」
「まぁあたしらの宴はさ、つまり好きなだけ飲んで食べて好きなことをしようってこと。3回目だけど、今までの2回も柚子先生を保護者にしといて許可をとってから酔い潰して、会長が酔って食べて弘美が歌ってあたしは…まぁおいといてって感じで好き勝手にしてたかな」
「何で置くんだよ」
「まぁまぁ。あの2人の場合は猫被りが激しいから、好き勝手振る舞うだけでいいんだよ。それにあたしが潰れたら、酔った柚子先生運べないしね」
「…ふぅん」
とりあえず俺はがっ、と一気に液体を飲み込む。
味は分からなかったがとにかく体温があがったようで胃が燃えそうだ。
「あははは! 真っ赤だあ」
「うるさぁい。食うぞぉ」
「あたしも。まずは唐揚げかな」
「寿司!」
「皐月、そこの天ぷらをとってちょうだい。醤油も」
「はいはい!」
「はいは10回よ」
「はいはいはいはいはいは…って言ってられるか! なんだそのテンションは!」
「あははははは! 皐月、いいから天ぷら!」
大声で笑ったかと思うと急に怒り顔で怒鳴られた。
「笑いながら怒鳴るなぁ!」
「あはは! 皐月は本気で見ててあきないよ!」
七海に命令される俺を見て紗理奈はおかしそうに笑いながら酒を飲む。
あまりに強い酒の臭い。
臭いだけで酔いそうだ。
だから、俺も飲む。
七海のビール瓶をひったくり直接口をつけた。
「にがっ!!」
ビールは初体験だった。
○
「…ん…、あ、れ?」
目を開けるとベッドじゃなくて固い椅子の上で寝てた。
二人分の椅子を開けて座っている紗理奈が俺に気付いたのかお猪口から口を離す。
「や、起きたんだ?」
「あ…ぁあ、確かパーティー、してたんだっけ…酒の」
「そうだよ。君はさっさと脱落したけど、みんなかなり酔いながら起きてるよ」
起き上がるとあまりに雑然とした食堂に俺はうぇ、と思った。
そこらじゅうに空き缶や空き瓶が散乱していて、誰も歌わないのに機械からはポップな音楽が鳴っている。何より酒臭い。自分の息もだ。
そして七海は赤い顔でビール瓶を片手に何故か冷蔵庫に語りかけている。
「だぁからあなたはだぁめなの〜。いぃぃい? わたひはねぇ」
どうやら説教をしているらしいが呂律が回っていない。
次に弘美。小枝子とお酒を互いに注ぎ会いながら全く噛み合わない会話をしている。
「あんたってバカだよね〜」
「あはははは!」
「ヒロは赤ワインが一ば〜ん好きなの〜」
「あははははは!」
いや、小枝子が壊れてるのか。相槌がわりに笑わないでください。普通に怖いから。
そしていつ起きたのか柚子先生。何故か授業をしている。
「じゃあこの問題はぁ、愛さぁん…ん〜…はいよくできましたぁ!」
一人芝居なのを無視すれば普段と変わらないのが恐ろしいような…。
「あの〜、これって収拾つくんですか?」
不安になり尋ねると紗理奈は酒をあおりながらへらりと笑う。
「大丈夫大丈夫。もう1時間もしたら会長とヒロは切れるから。そんで仮眠とったら解散。柚子先生は一人で返せばいいし、会長もあれだけ酔ってるけど、仮眠とれば呂律も戻ってて部屋に帰るくらいできるし。ヒロは運ぶけど…今回は小枝子も運ばなきゃかな」
紗理奈の視線につれられるように小枝子に目をやると
「あはははは!」
小枝子の高い声が響いた。
小枝子…ストレスたまってんのかなぁ? それともただの笑い上戸か?
「君さぁ、もうちょっと小枝子を可愛がってやりなよ」
突然のセリフに小枝子に行ってた意識を紗理奈に戻す。
「え?」
「見てて可哀想だよ。どうみたって君のこと好きじゃん」
自然な口調に、カマをかけたのでなく確信的に小枝子の俺への思いがバレてるんだと分かる。鋭い奴だ。
「…まぁ、告白はされましたね。断りましたけど」
「は? それなのにべっとりって…駄目じゃん。小枝子、皐月のこと忘れたくても忘れたくなくなるよ」
「……そう、ですか?」
「うん。あ、飲む?」
紗理奈は内容のわりにニコリと笑いながら俺に並々と液体が注がれたガラスのコップを向ける。
「…いただきます」
受け取り一気に半分飲む。
カッと焼けるように喉が、お腹が熱くなる。
だけど、何だか心地よい熱さだ。
「で? 小枝子は好みじゃないわけ?」
「あー…違う。小枝子は、好きです。でも…俺、よくわかんねんです。好きだけど…恋かなんて…分からない。母さんの時だって……俺は、いつも間違って…恐いから、また逃げる…」
「皐月? おーい、意味不明だよ? 何言ってるか分かってる?」
「紗理奈…さん……好きですよ」
「は?」
「七海様も弘美さんも…ここの生活、気にいってる…楽しい、から。でも、母さんがいない…の…寂しい……今までより、会った後のが…寂しい。…おかわり」
「はいよ」
紗理奈がそそいでくれて俺はまたぐっと飲み干す。
「つまりだ、皐月は寂しいから小枝子を代わりにしてるの?」
「…小枝子、母さんじゃない…よ?」
「う〜ん、幼児化してるなぁ。飲ませすぎたかな」
「んーん…飲んで、ない。俺…まだ飲む。」
「ま、明日休みだしね。せーぜぃ頭痛で苦しみなよ」
注がれるままにまた飲む。世界が段々回り始める。
「でも付き合っちゃえばいいのに。恋じゃなくても付き合って色々してれば、親に執着なんかしなくなるよ」
「んー…小枝子が本気なら、本気で、俺も…じゃないと…。だって…小枝、子のこと…好き、だから」
うん、小枝子が傷つくのはやだ。優しくて好きだから、そんなテキトウなのは駄目。
「ふーん、じゃああたしと付き合う? あたしは遊びだしね」
紗理奈の言葉が反響するように聞こえる。もう紗理奈がどこにいるのか分からない。
「…嫌だ」
ぐるぐる回る。起きてるのか寝てるのか分からない。
何とか気合いで紗理奈に返事をする。冗談で言ったくせに紗理奈はさらに何かを言ってくる。
「何で?」
よく聞こえない。でも多分理由を聞いたんだろう。
「キスならいいけど…セックスは恐いから。それに……」
「なに?」
だんだん回る世界が暗くなってくる。音が遠い。水の壁で世界を遮られてるみたいに、遠い。
「それに…本当の俺は…」
「俺は?」
「………汚い…か…ぁ」
遠い遠い場所から、小枝子の笑い声が聞こえた。
○
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