元気な方がいいんじゃない?
言い出したのは紗理奈さんだ
「皐月元気ないしさぁ、会長もどうせ暇だしみんなでいっちょ盛り上がること考えない?」
「え…私もいいんですか?」
「もち。つか皐月の友達だし…ま、せっかくだしあたしとも友達になろうよ。よろしく」
「あ、はい、よろしくお願いします」
紗理奈さんの提案はどちらも嬉しいものだったけれど、七海様と弘美さんが暇とは限らないのでは? と思ってた
「あ、うん、じゃあ部活棟前で、ヒロにも伝えてくださいね」
あっさりイエスが七海様にもらえたらしく紗理奈さんは電話を切ってから笑って
「行こっか」
と言った
○
部活棟自体を閉じていたのでしばらく待っていると七海様と弘美さんがきて、七海様が鍵をじゃらじゃら鳴らしながらドアを開けた
「ね、どうしたら皐月好みかなぁ? 会長とヒロはどう思う?」
「別に…ヒロは皐月様のために集まってんじゃないし」
「私もよ。まぁ皐月は反抗的な子だしあまり元気がないのも逆に落ち着かないとは思うけれど……で、でも別に皐月のためではないわよ。だいたい犬ごときにどうして私が時間を割かなきゃならないのよ。まぁ、試験も終わったのだから少しくらい騒ぐのもいいような…」
紗理奈さんの問いに失礼ながらものすごく素直じゃなく答える弘美さんと七海様に、私は紗理奈さんと顔を見合わせ苦笑い
「はいはい。ま、あたしだって皐月が落ち込んでるの見させられるの嫌だしね。無理矢理にでも騒がせればいいんだよ」
「そうですね。皐月さんは空気を読める方ですし、すぐに乗っかかってきますから」
「ふーん…小枝子様ってさ、皐月様とどーゆー関係なわけ?」
「…友人です。中学2年で同じクラスになったので付き合いは4年と言えば4年ですが高校は別になりましたし、今年に再会したばかりです」
「へぇ、なんか意外。4年ずっと仲良かったみたいに君ら仲良しなのに」
「それは皐月さんの人柄のおかげ、でしょうか」
「あはは、人懐こいとか物怖じしないとと言えば聞こえはいいけど、要は遠慮しない図々しい無謀なバカだしね」
紗理奈さんの遠慮のない言葉にも私は言葉を返さずに苦笑を返す
良いように言えばもっと皐月さんを褒め讃えることが可能だけれど、今言った言葉にも当てはまるのは事実だ
最も、バカは言い過ぎだと思うがそれだけ反論すると、逆にそれ以外を積極的に認めることになるので私は話題を戻す
「それで、具体的に何か考えてるんですか?」
「ん? 何にも」
「え…」
「それを考えるために呼んだんじゃん。前みたいに夕食時間が終わった食堂借り切ってもいいけど、普通に誘ったんじゃ断りそうだし」
「そんなのあなたの赤点脱出祝いってことにして、『あたしの酒が飲めないかー』って無理矢理連れてくればいいじゃない」
あっさり言う七海様に紗理奈さんは「うわ〜」と七海様を横目で見る
「…会長の中であたしのイメージそれ? つか何で赤点脱出って知ってるんですか?」
「だっていつものあなたなら赤点だ赤点だってうるさいのに何も言わないし、何よりあれだけ教えてあげたんだから赤点なわけないじゃないのよ」
「あはは…ま、まぁね。バッチリだったよ」
「へー、ヒロは合計平均約90点だったけど紗理奈様はぁ?」
「……」
紗理奈さんは口をつぐみ視線を反らす
平均は計算していなかったけれど、確か紗理奈さんと皐月さんでは全5教科中皐月さんの3勝2敗だったような…点数は二人とも5、60点代で……ま、まぁ言わぬが花ですね
「? 今、何か聞こえなかったかしら?」
3階に着いた瞬間に七海様がふと立ち止まりそう言った
「え…?」
「何か聞こえた?」
「や、やだ七海様、変なこと言わないでくださいよ。ヒロを脅かそうたって…そ、そうはいかないんですからぁ」
そう言いながら弘美さんが私と紗理奈さんの袖口を掴んで、恐る恐ると言った風に私と紗理奈さんの隙間から七海様を見ている
……か、可愛い…。弘美さんが皆さんから妹のように可愛がられてるのは知ってましたが…確かにこれは可愛いですね
あ、でもこの可愛さに皐月さんがなびかないと言うことは私ではやはり無理でしょうか
う〜ん、それとも皐月さんは可愛い系より美人系が?
皐月さんの態度から男の方が好きと言うことはないようですが、だからと言って女の方が好きかはわかりませんし…
「小枝子? なにぼーっとしてるのさ、行くよ。発信元は淑女会室だからね」
「え、あ、はい」
「ちょっ、待ってよ七海様! いや、泥棒かも!? むしろ幽霊!? 警察に!? とにかくヒロたちの出番じゃないかもー!?」
「うるさいよヒロ! だいたい幽霊なんていないし泥棒ならあたしが退治するから静かに!」
「う〜」
弘美さんを黙らせて静かになった廊下には特に何も聞こえない
「…何か聞こえますか?」
「……おかしいわね。さっきはドスンという何かを床に置くような音が…」
「な、七海様の聞き間違いですってばぁ」
「……行くわよ」
七海様に続くようにして私たちは淑女会室の前へと進む。棟の入口は七海様と学園長が持ってる鍵か職員室の予備しか開けられないので、いるならば学園長か……無断侵入者ということになる
「…っ…」
はしたないけれど揃って分厚いドアに耳を当てると、何かを押し殺すような声が確かに聞こえた
「…母さん…」
……え…?
みなさんと顔を見合わせて、頷きあう。確かに、皐月さんの声だった
と言うかおそらくこの学園中、中等部を含めてもわざわざ淑女会室に泣きにくる人は皐月さんくらいだろう
七海様がノックをする
「皐月? …あなたそこにいるの?」
「七海…? なんでお前が、こんなとこに…いるんだよ」
素で返事をする皐月さんの声が震えていたのは気がついた。だから七海様も皐月さんの失礼な態度は気にしないことにしたようだ
「口調…まぁ今はいいわ。私だけじゃないみんないるわ」
「みんな?」
「小枝子もよ」
「皐月様、そこで何してんの? はいるよ」
さっきまで抵抗していた反動か弘美さんが容赦なくドアを開けようとして、開かない
「ちょっ、鍵かかってるってかどうやってあんた入ったのよ」
○
「開けるわよ」
会長が鍵をだして穴にいれようとするとダダン! と音がして目の前のドアが揺れた
「駄目っ! …開けないでくれ。…今日は仕事はないはずだろ? 何で小枝子まで…」
「あの…ごめんなさい。でも私…」
「謝ることはないわ。彼女はいいの。これから淑女会の一員にするから」
「…え? 会長?」
会長の唐突な発言には慣れたつもりだったけど、このあまりに突然の言葉には驚いた
確かに会長が推薦をするなら学園長と同じく文句なしに役員にできる
それに人出不足なのも知ってたけど…全く話題にしなかったのにいきなりだ。確実に会長の思いつきだろう
「去年の3年生が3人やめてからどうにか有能な人が欲しかったのよ。彼女には今更猫を被る必要もないし、丁度いいわ。あなたは雑用にしか使えないからそのうち増やそうとは考えていたの」
「…そう。それはいいな。小枝子がいた方が、うん、嬉しい」
「あ、ありがとうございます」
小枝子は役員になったことより皐月の発言の方が嬉しそうに笑っている
あ、皐月のこと好きなんだ
とすぐに思った
「……皐月、今あなた何をしてるの?」
「…別に」
「泣いてるのでしょう。いいから開けなさい」
「嫌だ。泣いてるから尚更嫌だ」
「開・け・な・さ・い」
「嫌っ! 何だよ、そんなことして七海に得があるのかよ!?」
皐月の真っ直ぐな問いに会長はうつ向く。何を言うのかな?
会長が口ではああ言いながら(仲間と思ってるかは分からないけど)皐月を気にしてるのは分かる
皐月は今までにないタイプだからあたしにもその気持ちは分かる
けど会長は素直じゃないから「心配だから」とは言わないんだろうな
「………私は…っ、私が楽しいわ!」
…うわぁ、会長、それはミスチョイスだから
「変態だ!」
……うん、皐月のツッコミは間違ってないよ。けど裏を読んで! 会長めちゃめちゃ怒ってる!
「なぁんですって!? あなた私に何てことを言うのかしら!」
「だ…だって…」
てか皐月って強気に言うけどわりとヘタレだよね
「皐月様、いいから開けなよ」
「……嫌なんだけど。というか見なかったことにして帰ってくれないか? 三者面談とかで忙しいだろ?」
「ヒロ、親いないし」
「私は両親とも忙しいから来てないわ」
「……ごめんなさい」
「何を謝るのか分かんないけど、さっさと開けてくんない? いい加減皐月様しつこいよ」
「……ちょっとだけ待って」
ようやくドアを開ける気になったのか皐月がそう言うとごそごそと室内から音がする
? 何してるんだろ?
「ねぇ、あなたが小枝子ちゃん?」
「…え?」
聞いたことがない声にあたしたちは振り向いた
○
|