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あい・らぶ・まみぃ!
作:シロクロ



なんで?


「皐月さん」
名前を呼ばれ俺は緊張気味に立ち上がり、教卓に立っている柚子先生の元へ行く
「次はもうすこぅし頑張りましょぉね」
「え」
裏向けて受け取ったテスト用紙を表返すのが恐くなることをさらりと笑顔で言われ、俺は悪かったらどうしようと思い冷や汗をかきながら、プリントにシワがよるほど無駄に力強くテストを表にした
「……え」
62点だった
「な、なぁんだ。柚子先生も人が悪いですね。全然いーじゃないですか」
「え? そ、そう?」
「はい!」
テストなんて50点とれば赤点100%回避だしつまり留年しないし、つまりはオールオッケー!
かん〜なりの高得点だ! だってマジな話、俺って1年の勉強全然やってないんだぜ。凄くない?
「くふふ…」
にやにや笑いをかみ殺しきれないまま俺は席につく
「皐月さん皐月さん、良かったんですね」
「うんっ。ありがとう、小枝子のおかげだ。お前ってホンットにいいやつだな」
「そんな…。えと、何点だったんですか?」
「62」
「……え?」
「いやぁ、50をきるのは勘弁したいなぁとは思ったが、まさか60とれるなんて…」
「……お、おめでとうございます」
めちゃめちゃひきつった笑顔で言われた
いやまぁ、そりゃ小枝子らのレベルからしたら低いのは分かるが…俺にしたらマジ凄いんだよ
頑張ったんだよ
努力の結果が出まくってんだよ


だからそんな哀れんだ目で見ないでください(切実に)

「皐月皐月、どうだった? あたし今回かなりいーよ。会長にしぼられたかいがあるってなもんだよ。あっははー」
ドドンとかざされたのは59点とかかれたテスト用紙。ふふん! 所詮貴様はその程度なのだよ
「は、見ろそしてひれ伏せ」
「な…くっそムカつくなぁ。あ、小枝子は?」
「………ち点です」
「え?」
「………………98点、です」
控え目に気まずく目を反らしながら告げられた事実に、紗理奈の時が止まった
え? 俺? 俺は小枝子が頭いいのは中学の時のと教えてくれたので知ってるし、驚かない
ああ驚いてないし、動揺なんかしてない。まして器が違うってか格が違う小枝子の点数なんか羨ましくもない。本当だ






本当はちょっと羨ましかったりしたりして


で、でもとにかく母さんに自慢できる点数だ
まぁ元々母さんは俺が赤点とっても怒ったことはないけど、だからこそむしろ俺が居心地悪い気持ちするんだよな
来週は、約束した参観日だ



「小枝子、おはよう」
「おはようございます。いよいよ今日ですね」
「ああ。思わずこんな時間に来ちまったぜ。にしても小枝子はホントに真面目だなぁ。一番じゃん尊敬するぜ」
「そんなことないですよ。習慣みたいなものですから」
微笑む小枝子に俺は笑みを返しながら席につく。あー…まだかな
親がくるのは最後の4時間目(午後からは懇談などがあるので半日授業)だ



少しずつ気の早い親が来て授業を覗き始める3時間目、俺は気もそぞろに背後を伺うがまだ母さんは来ていない
今日は珍しく全く授業中に寝ていないという快挙だが、母さんが来なければ意味がない
まだかなぁ…まだだなぁ



4時間目が始まった
小枝子の両親と紗理奈の母親はもう来ている。紗理奈の父親はどっかで何とか大会に出てるらしいが正直どーでもいい


問題は
母さんがまだ来ないってことだ

あ〜、何でなんだよ
遅れてるのか? 遅れてるだけなのか?





キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン

無情にもベルがなるが、母さんは……来てない

何で?

訳が分からない

一体何があったんだ?

事故か? ハイジャック?

それか……俺?


俺が駄目だから?
俺が嫌だからこないのか?


何で、嘘つくの?

「皐月さん」
「え……小枝子に紗理奈……さん、なに? ああ、はじめまして。皐月といいます。お二方が小枝子さんの両親で、あなたが紗理奈さんのお母さまですね?」
気づくと5人に見られていて立ち上がり、猫を何重にも被り落ち込む心を封じて挨拶をする
「ええ、はじめまして。あなたが噂の…ふふ、話通りね。私はこの愚子の母親、夏奈子(かなこ)よ。夏奈子さまって呼んでね」
小枝子の両親のスーツと違い、ラフな恰好の女―夏奈子は紗理奈の肩に手をおいてから言う
「か、夏奈子さまぁ? いや、あんたふざけてんすか?」
なんだこの初対面からイケイケオーラだしまくりは
「あは! いいなぁその反応。顔も…ああ、作りたいなぁ。ねぇ、私の娘にならない?」
「全力でお断りします」
「けち」
「紗理奈さん、何なんですかこの生き物は? 拾ってきたとこに返してきてください」
「あはは…」
紗理奈が苦笑するが夏奈子はなんら反省していない。小枝子父がわざとらしく咳払いをする
「ゴホン、私は小枝子の父の(しげる)だ。こちらは妻の香織(かおり)。君の話はよく聞いているよ。今後とも娘をよろしく頼む。仲良くしてやってくれ」
「いえいえ、こちらこそ。普段から小枝子さんにはお世話になってます」
「皐月ちゃん、うちの子には?」
何がしたいのか夏奈子が聞いてくる
「なってません。だからあなたに借りも貸しもありません」
「けちぃ」
何を要求するつもりだ。つか夏奈子さま…しまった。様付けしてしまった。つーか俺の中で人の下につくのが習慣化してるのがマジでヤバい
「あなた、時間よ」
妻の香織に促され繁が時計を見ると頷く
「ああ…そうだな。すまないが懇談会に行かねばならないので失礼するよ」
「皐月さん、小枝子をよろしくね」
香織さんに言われ俺は軽く会釈する
「はい。私でよければ」
「私も行かなきゃ。またね皐月ちゃん。高田さん、でしたよね? ご一緒しても?」
「どうぞ」
3人が教室から出ていってから俺はため息をつく
台風のような夏奈子さんの登場でタイミングを逃したからどん底に死にたいほど落ち込んだりはしないが、それでもやはり凹む
「皐月さん…」
「あのさ、理由があると思うんだよね。電話、してみたら?」
紗理奈に促され俺は携帯電話で母さんにコールするが、電源がきられていた
「……わるいけど、帰るな。今日は淑女会もないだろ?」
「ああ…ないよ。うん、じゃあ…また明日」
「…皐月さん…あの……私…ごめんなさい。何を言えばいいのか、分からない」
「大丈夫。…俺は、大丈夫だから。サンキューな」
「……はい」
不安そうな悲しそうな、そんな小枝子を慰める気さえ起こらなくて俺は教室を出て寮へ向か―
「皐月!」
振り向くと紗理奈も教室を出て俺を見つめていた
「…なに?」
「その…あたしバカだからうまく言えないけどさ。元気だせ! 名前も知らないけど君の母親ならなんか事情があって仕方なくだったんだよ。それに……君の母親は来れなかったかもだけど、あたしたちはここにいるんだからね! 独りでうだうだするなよ。泣きたいなら胸くらい貸してあげるからさっ」
「…サンキュ」
聞こえるか分からないくらいの声量で礼を言い俺はまた廊下を歩きだす
お前はいいやつだよ。本当に
横暴なとこはあるけど他の二人に比べりゃマシだしな
俺は楽しそうな女の子の声と大人の声を聞きながらゆっくりと歩いていて、ふと窓の外を見て止まった
窓から見える距離にある我らが寮にまで大人がいる
おそらく懇談には片親だけがでてその後の三者面談では両方が出るために娘と寮で暇つぶし、と言ったところか
または片方の親は参観だけなのか……どちらにしても、羨ましいのには変わりがない


どうしよう。泣きそうだ

この学園にきて俺は絶対に涙もろくなってると思う

だけど胸にぽっかり空いた穴は誤魔化せない
「……淑女会…」
今日は部活は全て休みだから部活棟には誰もいないだろう
淑女会も休みだし、淑女会室に行こう
自室なら防音も完璧だし思う存分泣けるには泣けるかも知れないが、少なくとも寮につくまでに誰にも会わないなんて無理だ
でも部活棟になら、可能だ



「……」
部活棟自体閉鎖されていたがそこは補欠と言えど生徒会役員の俺、鍵に触れる機会があったので複製しておいた
いや、ほらこんなこともあろうかと? まぁ窓を割って入るよりマシだろ。屋根から換気窓に飛び移ることも可能だが見つかったら言い訳のしようがないからな
「…っ…」
そんなこんなで淑女会室の定位置のソファー上で、俺は上履きをぬいで体育座りをしていた
開けたところは全て施錠したのでまさか俺がここにいるとは誰も思うまい
「……はぁ…っ」
ああ…なんて、説明口調で冷静さをアピールしても俺の頬を伝う涙は隠しようがない

なんで来てくれなかったんだ?

母さんが無理でも爺ちゃんが来てくれたって良かったんだ

誰でもいい。無理だって使いを寄越せば良かった

一言でいい。メールで断ってくれれば良かった

すっぽかすなんて酷すぎる
どうして俺をこんなに悲しませるんだよ

「母さん…っ…」

会いたい。声が聞きたい。笑顔がみたい

トントン
戸惑うようにドアがノックされ、俺はぱっと顔をあげた
「皐月? …あなたそこにいるの?」
「七海…? なんでお前が、こんなとこに…いるんだよ」
「口調…まぁ今はいいわ。私だけじゃないみんないるわ」
「みんな?」
「小枝子もよ」
「皐月様、そこで何してんの? はいるよ」
ガチャガチャ音がしてから弘美の「ちょっ、鍵かかってるってかどうやってあんた入ったのよ」という声が聞こえた















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