真面目に勉強やっときゃよかったなぁ
「たたたた大変だぁ!」
俺はプリントを渡し挨拶もそこそこにUターンし、勢いよくドアを開けて音を立てて閉めながら怒鳴った
「ちょっ、なんなの今のは! しかも走ったわね!? 口調も行動も乱暴だし最悪じゃない!」
「うるさいぞ七海!」
「なっ!?」
「そんな些細なことはどーでもいいんだよ! 大変なんだよ! スゲー大変なことに気付いたんだよ!」
俺の口調に慌てて怒鳴るのは七海だけだ。弘美は怒ってるのか睨んでくるが特に七海のように叱る気はないらしい
つか一度正体見せてるしな。紗理奈は機嫌を悪くするでもなく普通に呆れたような視線を俺に向けてくる
「てか君、心の中では会長のこと呼び捨てなんだ」
「だから細かいことを気にするなって。つーか心の中でまで様付けだとキモイだろ」
「さん付けくらいしなさいよ」
冷たい弘美の視線を追い払うようにオーバーアクションで腕を振るう
「ああもう! 弘美もうるさい! いいから聞けよ!」
「どうしたんですか?」
ああ、俺の話を聞いてくれるのはお前だけだ
「さすが小枝子大好き!」
俺は小枝子の隣に無理矢理座って内緒話をするように顔を寄せる
「実は、ここだけの話……来週には試験があるんだ」
あの後柚子先生に聞くとなんと来週…早すぎるぜ
「………知ってます、けど?」
とても不思議そうな顔で言われた。あ、あれ? もしかして知らないのって授業中も寝たりしてる俺だけ?
「……マジで?」
「はい」
「……」
「てか知らない皐月のがどうかしてるとあたしは思う」
「ヒロもー」
「…皐月? あなた一体どんな授業態度なのかしら?」
「そ、それは…」
「寝てばっかだよね〜?」
「うぐ。バカっ、紗理奈は余計なこと言うなよ」
「あ〜? 誰がバカなんだいポチ君? あたしにそんな口聞いていいのかな〜?」
紗理奈はにやにや笑いながら某スティック形菓子を俺のほっぺに突き刺す
「う…止めてください」
七海たちの厳しい視線に我に返った俺は改めて敬語になる
「うりうり〜、あたしに逆らうと酷いめに会うぞ〜」
「現在進行してますが?」
頬にチョコがついてるんだろうなー。嫌だなぁ
「あ、紗理奈さんて頭いいですか?」
「そう見える?」
俺の頬に突き刺すのに飽きたのか菓子を食べながら言う紗理奈
うん、見えないな。ぐると小枝子を向いて手を取る
「小枝子さん、勉強教えて欲しいんですけどいいですか?」
「え…いいですけど…皐月さんって成績悪くなかったような…」
頬をうっすら赤らめながら首を傾げる小枝子に俺は苦笑。小枝子は俺の中学までしか知らないからなぁ
「それは真面目にしてた中学ん時の話です。今は、駄目駄目です。授業も寝てますし」
それに1年の時には半分以上行ってないのに分かるわけねーじゃん。まぁそれは言わないけど
「そうなんですか?」
「中学レベルも怪しいですね。日本語の読み書きなら大丈夫ですけど、英語は話せるだけで読み書きは出来ませんし」
「そうなんですか? あんなに先生と普通に話をしていらっしゃったのに…」
「まぁあれは直接会話して覚えたものだから、単語は駄目なんですよ」
「まぁ皐月様は見た目からして駄目駄目オーラでてるしね」
「てか皐月って別に余裕から居眠りしてたんじゃないんだ?」
「あはは…むしろぎゃ―」
「皐月」
逆です。と言おうとして名を呼ばれギクリとしながら七海を見ると、優雅に紅茶を飲みながら俺には顔も向けてない
「…何でしょう?」
「あなた、編入試験の成績は? 編入は普通より難しいはずだけど?」
「いや、受けてません。じ…祖父と学園長が知り合いで入れてもらいました」
「皐月……それっていわゆる裏口入学ってやつ?」
ウラグチ…? あれ裏口? そう言えば俺ずるい? ズルしちゃってる?
「え、でも別にお金つんでませんし…え? アウト?」
「アウト退場」
親切な学園長の孫悪魔の弘美は俺に向かい親指を下に向けて振り落とした
「……」
とりあえず中指をたてて対抗しておいた
「こら! 何やってるの皐月! あなたって子は本当にっ…!」
だから何で俺だけ怒られるんだよー!
○
「で? 皐月様って何が駄目で何が得意なわけ?」
「あ、ん〜…暗記なら割りと得意、ですかね? って言っても短期記憶ばっかで一週間もしたら忘れますけど、テストはそれなりに点数とれてましたし得意と言えば得意ですね」
「はぁ? すぐに忘れるってあんたは鶏かってーの。まぁいいや。なら暗記じゃないのって数学くらいだし楽じゃん?」
「いや、それなら話は簡単なんですが…」
「なにか問題があるのかしら?」
「それはあくまで中学の時でして、高校に入ってからは授業自体全く覚えてないので流石に一からとなるとちょっと…」
「諦めろ」
「んな簡単に見捨てないでくださいよ!」
ここは夕食後の俺の部屋。小枝子に勉強を頼んだのだが何故か淑女会が大集合していた
「ところで紗理奈さんは…何故ここに?」
俺に勉強を教えてくれるとのことだが、勉強は得意じゃないんだろ? まぁ1年がいるのもおかしいが、悔しいことにその1年以下の学力だし
「君のせいだよ」
「え?」
「君のせいであたしまで会長に勉強教わるはめにぃ…」
「ご、ご愁傷様です」
「だから皐月のせいだってば!」
恨めしそうな顔をしていたかと思うと眉をつり上げ殴られた。紗理奈も手加減をしてるだろうし特に痛くはないが…
「理不尽だー…。えっと…そういえば小枝子さんは昼間は何のようで来てくれたんですか?」
「あ、私クラス委員長ですから、先日皐月さんがみなさんに配布したアンケートを集計して届けに…」
「あ、そうなんですか。 なぁんだ」
「?」
不思議そうな小枝子に恥ずかしながらも俺は心中を話す
「ちょっとだけ、私に会いに来てくれたのかと勘違いしてしまいました」
傲慢だった、かな? う〜…我ながら恥ずかしい勘違いだ
「あ…その…半分くらいは、そのつもりでした。最近皐月さんとはあまりお話できませんでしたから…」
「半分だけ?」
「……すみません。本当は書類はただのきっかけで、皐月さんに会いに行きました」
頬を染めてうつ向き気味にして俺を見つめる小枝子は可愛いし、嘘でもそう言ってくれると言う気持が嬉しかった
「えへへへ…私、小枝子さんのそーゆー優しいとこ好きですよ」
「え」
「んん、ゴホン! あなた、どうして私たちがあなたの部屋にいるか分かっていて?」
わざとらしく咳をする七海はジロリと睨んでくる。七海が恐ろしいのか俺の脇に隠れる小枝子
「まぁまぁ七海様、そう恐い顔をしないでください」
「あなたが言わないの! だいたい怖くて悪かったわね。地顔よ。じ・が・お」
「またまた、黙ってれば美人何ですからそういう謙遜は嫌味ですよ」
「……」
「小枝子さん、大丈夫ですって。七海様はお嬢様でどうせ口だけですから、ええ。辞書を投げられたりはしませんから」
「皐月様の言い方、なぁんかひっかかるんだけどぉ?」
「気のせいです。一番苦手なのは数学なんで、そこから教えて欲しいです。あと漢字と英単語が凄く苦手です」
「……はい、じゃあ今日は数学の範囲にざっと目を通しましょうか。七海様も、私はそれでいいですか?」
「ええ。私は紗理奈を。ヒロはそっちね」
切り替えの早い七海は怒り顔を止めて弘美に指示し、弘美は俺の教科書軍から数学を抜く
「了解でぇす。はぁ、じゃあ基礎からねー、1+1はぁ?」
「にぃ。ってそれは良いですから。じゃあ小枝子先生、よろしくお願いしま〜す」
「あんたねぇ、もっとヒロに敬意払いなさいよ」
「はいはい、ヒロ先生もよろしくでーす」
1年に習うことなんかあるわけねーだろ
○
「だぁかぁら! ここは二分の一を入れるの! コサイン60度は二分の一ってさっきも言ったのに覚えてないわけ?」
「てかそもそもサインとコサインって何なんですか?」
「ああもう! 教科書読め!」
至近距離で投げられた教科書をキャッチして開く。見たことのない記号が山盛りだ
「読めない」
「はあぁ!?」
「これは数学の教科書のくせに漢字が難しい。ていうかXとY以外にアルファベットがあるなんて変です」
「このバカッ!!」
俺に思いきり辞書をふり落としてくるので右手で辞書を掴む
「むぎぎぃ…あんたバカ力、なの、よっ!」
「っと…暴れないでください」
両手で押さえつけ体重をかけまくるようにジャンプまでしだす弘美に俺は顔をしかめる。机をはさんで座っていたものだからこの距離がまた微妙に心配だ
「ま、まぁまぁ弘美さん、そのくらいで…」
隣の小枝子が言うが弘美はあぁん? と小枝子を睨む
「……」
「……ふん、まぁいいわ。小枝子様が教えてよ。私は休憩しておくから」
「はい」
弘美は立ち上がり俺のベッドに行くと寝転がりベッド脇の本棚をあさり始める
まぁどうせ俺のじゃないしいいか。隣の小枝子がさっきより俺に近づいてきてペンを持つ
「?」
ちょっといい匂いがした。何だろ?
「皐月さん? とりあえず読みますよ?」
「あ、はい。お願いします」
勉強勉強…はぁ、普通に弘美に教わるとは思わなかった
○
「〜〜っふうぅう…終わったぁ…」
時間は12時少し前、4時間だぞ4時間
4時間も勉強したなんて生まれて初めてだ。しかもテストまでまだ数日あるのに、だ
「お疲れさまです、皐月さん」
「ありがとう小枝子〜。俺…これで今回は大丈夫そうだ。みんなもご苦労様ぁ。う〜疲れた」
「そうね。紗理奈もよく頑張ったわね」
「………皐月」
「え?」
「…これであたしのテストが悪かったら……殺す」
「俺のせいじゃねぇ」
「皐月様、口調が乱れてるよ」
「知るかよ。疲れてんだ。ごろごろしてるちびっこと違ってな」
「……皐月様、疲れたしヒロの背中流してね」
「…は?」
「ああ、そうね。みんなで入りましょう。紗理奈、まだ寝ちゃ駄目よ」
「う〜〜」
「皐月、当然私たちの背中も流すのよ」
「…は!? いやいやいや、無理だから! 俺は部屋風呂使うから!」
「は? 何を言ってるのかしら。あなたもしかして私たちをこき使ってタダですます気かしら?」
七海の言葉にぐったりしてたはずの紗理奈まで顔をあげ、弘美と同時に頷く
お前が教えたのは紗理奈だけで弘美もほとんどごろごろしてただろうが!
「冗談じゃない! 小枝子もなんとか―………もしもし小枝子さん?」
小枝子は俺を見ていた。かなり恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、期待した目で俺を見ていた
「……小枝子…」
ブルータス、お前もか…!
「あの、別に背中を流す流さないはともかく、一緒に入りませんか?」
「…俺は、嫌だ」
「我が侭を言わない。私たちのような綺麗どころとお風呂なんて、殿方なら泣いて喜びむせび泣くわよ?」
「俺は女です」
「心は男じゃないの」
好き勝手言いやがってこのサディスト。つかそう思うなら尚更風呂になんか誘うなよ!
「とにかくヤダ!!」
「何でそんなに嫌なの? 皐月の体、何か傷跡があるとか?」
「……」
「皐月様? 分かってると思うけど、理由がないなら絶っっ対に強制だからね」
「………――ぃ」
「え?」
「ぁ――しぃ」
「皐月、言いたいことがあるのならはっきりなさい」
言うしか、ないのか
「…恥ずかしい、からです」
シーーーン――――
静かな空気に俺は顔が急速に熱くなるのを感じながら、隠せないのは分かっているがうつ向く
「……し、仕方ないわね。皐月様は、ウブだから」
「え?」
「そう…ね。恥ずかしいなら、仕方ないわよね」
「うん、うん! そう思う。あたしも…そう思うよ」
「え…本当、に? 見逃して、くれるのか?」
何故か気まずそうな3人を見回してからゆっくりと小枝子を振り向くと、小枝子は愛らしくにっこり笑って
「だって今の皐月さん、とっても可愛かったですから。私も何だって許したくなっちゃいました。ええ、何でも」
と言った
「何でも?」
「はい」
「……そ、そう。えと、じゃあ俺はもう帰―」
「駄・目、よ。せめて私たちの背中を流しなさい。服は着ていてもいいけれど、ね」
「へ? え? や! それも恥ずかしいっての! バカどもが! 恥を知れよ! お前ら本当に女かよ!」
「それはあたしたちのセリフなんだけど…」
「というか私らは女同士では恥ずかしくないから」
「何よりあなたが私たちをバカ、と? はっ。犬が生意気な口をきくわね」
「………分かりましたよ。不肖、滝口皐月が皆様の背中を流させていただきます」
「水着姿でね〜」
さりげなく弘美がひらひら手を振りながら言う
ふっ、俺が女物なんて持ってるわけねぇだろ。つか水着なんて男物も持ってねぇし
「持ってないっす」
「あ、あたしの貸すよ。服が濡れたら大変だしね」
紗理奈め! 余計な真似を…っ! その『気』をもっと別のことに回せよ!
「じゃあ部屋から着替え持ってきますね。皆さんも早くしないとのんびり湯船につかれなくなっちゃいますよ」
小枝子が言いながら立ち上がり、全員が続くので仕方なく俺も立ち上がる
「そだね。皐月も来なよ。貸すから」
「…うぃーす」
女物なんて…ていうか、水着自体全然着てない。中学からは授業にプールはなかったし、小学校後半は病気ってことにしたしな(母さんがグルなのでバレない)
あ〜〜憂鬱だ
○
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