あい・らぶ・まみぃ!(2/55)縦書き表示RDF


あい・らぶ・まみぃ!
作:シロクロ



俺の知らない血縁者


「あー…今日も疲…ん?」
玄関を開けると何故か見知らぬ靴があった。ここは格安のオンボロ共同アパートで住んでるのは俺と母さんだけだ。大家は向かいの家に住んでいる
そんなわけで一部屋だけとは言え、玄関も風呂もトイレも占有できるので木造ながらに贅沢な気分が味わえる
なのに何故か、知らない靴がある。大家さん…じゃねぇよな。俺らがいる時間とか分かってるんだし、中で待つ必要ねーし
…………ま、まさかとは、あり得ないとは思うが…泥棒? こんなオンボロで貧乏で健気な一家(俺と母さん)しかいないこんなアパートに…泥棒、なのか?
並んでいる二足の靴はピカピカの革靴だ。くそぅ、貧乏人から金を盗んで贅沢をするとはふてぇやろうだ
俺は下駄箱裏の、昔いた家族の忘れ物っぽいバットを取り出す。近所の草野球の手伝い(金はとる)の時にも活躍し、そして有事にも活躍する万能アイテムだ
「ふ…逃がさないぞ」
縛りあげて脅迫して金をまきあげてやる!
気配は…俺と母さんの愛の巣である共同台所横にある110号室だ。たった一つの住人有りの部屋に目をつけるとはさすがだな
強盗め…くくく、俺様はすでに隣の家の爺さんから免許開伝の腕前だぜ
「――だ――か―」
「―い―――の――う」
「そ―は――も――」
敵は二人。俺は一度強くグリップを握ってから、バカ鍵なドアで押せば開くドアを蹴って開ける
「強盗!お前らは完全に包囲されている!抵抗を止めて……止めて………お爺さん?」
部屋の中には昼間のお爺さんといかつい黒服にサングラスの男がいて、男は勝手にお茶をいれて爺さんは俺を不機嫌そうに見ていた
「乱暴じゃな」
「え…は? お、お爺さんは、昼間会いましたよね?」
「ああ」
「…強盗?」
まじかよ。年金で生活できないのか。くっ…しかしいくら爺さんと言っても、俺らだって生活がかかってんだから金はやれねぇぜ
「バカを言うでない」
「でも…なんでここが分かったんですか? 何の用ですか? ……もうすぐ、母も帰ってきます。夜に無断で人の家にいるなんて…非常識にもほどがあります。別に騒ぎたてるつもりはありませんが、帰っていただけませんか?」
「ふむ…なかなか論理的じゃの。学校の成績は悪いようじゃが」
「!? …な、なんなんですか? あなた…いやお前は―」
「ただいま〜」
声がして足音まで優雅な気がするが和んでる場合ではなく、俺は慌ててドアを押さえた
「っ…おかえり! ごめん母さん、今部屋を散らかしちゃったんだ。すぐ片付けるから、待っててくれないかな?」
「あらあら、仕方ないわね皐月ちゃんは。いいのよ。皐月ちゃんは疲れてるんだから私がやるわ」
「いやいや、母さんは毎日働いて僕のために凄く頑張ってくれてるよ。凄く感謝してる」
「いやぁね、当然じゃない。ねえ皐月ちゃん、いれてよー」
できません! だってあなた、この怪しい人を前にして絶対普通に迎えるじゃないですか!
この天然は可愛いけどこういう時は困りすぎ!
「皐月、お前の母親に話があるのじゃ。開けてやれ」
「帰ってください」
いい加減、帰れ爺と素で言いたいが、母さんに聞こえたら困るので敬語だ
「皐月様、私どもは怪しいものではありません」
男が見た目より低い腰でそういうが、油断はできない。だいたい俺は、俺より大きな男は嫌いだ。爺さんは年寄りだから許したけど…助けるんじゃなかったな
「無断侵入して勝手にお茶いれてる黒服の何処が怪しくないって言うんですか?」
「うっ…と、とにかく誤解です。私はちゃんと大家の柴田さんに了解をとっています」
「……本当ですか? 言っておきますがいくら母さんがお人好しでも保証人にはならせませんよ」
優しいのはいいが母さんはすでに三度ほど、借金の連帯保証人にされそうになって慌ててとめたことがある。日々何とか稼いでるのに、何が悲しくてしてない借金を背負わにゃならんのだ
「いりません。お願いです皐月様、会長の話を聞いてください」
「皐月ちゃ〜ん、お客様がいるのー?」
…もう、限界だ。仕方ないな。まぁ怪しいが、一度話くらいは聞くか
「分かりました。母さん、実はそうなんだ。紹介するよ。ごめんね? 外で待たせて」
「ううん。いいの。皐月ちゃんもお年頃だものね。お母さん、そんな日がいつか来るって、分かってたわ」
「…恋人じゃないよ?」
「え〜?」
「え〜じゃありません!」
俺がドアを開けるととても可愛らしい母さんが可愛らしく微笑んでいたが、そんなのはどうでもよろしい
「恋人なんて絶対につくらないからね!」
「あらあら…悲しいわ」
悲しくなんかない! だいたい……恋人なんて…俺に異性の恋人なんて…できるわけないじゃん
バカだなぁ、母さんは。大好きだけど、愛してるけど、そういう無神経なとこ、時々凄くいらいらする
「皐月ちゃん、別にね、誰でもいいの。あなたが愛するなら、宇宙人だってニューハーフだっていいの」
ニューハーフのほうが宇宙人より上ですか。ていうかどっちもあり得ねーよ!
「滝口、優希じゃな」
「はい? そうですけど…あなたは?」
「ワシは…崎山勇人の、父親で崎山 小五郎(さきやま こごろう)じゃ」
…………は?
この爺さん、なんて言った?

崎山勇人の

父親



はああ?
何だよそれ? 俺の…祖父?

「な…何ですかそれ? わ、笑えない冗談ですね」
「皐月、ワシは冗談は嫌いじゃ」
「でも…なら、なんで今更現れたんですか? 母さんは…母は、両親が15で死んでからも私をずっと育ててたんですよ? 一人で…今の私より年下だったのに…」
「滝口優希はワシの娘じゃない」
「だったら! 何の用なんですかか!?」
「皐月、ワシの元に来い。ワシは願塊会社(がんかいがいしゃ)の社長じゃ。もうお前にこんな惨めな思いはさせん」
願塊会社…聞いたことのないはずがない。最大手のインスタントコーヒー会社で、最近は各方面にも手をだしますます成長の兆しを見せる、一代で築かれた会社
息をするのも忘れていた。だってそうだろ? 祖父がいたと分かり、しかもそれが超有名会社社長。そして、俺を引き取ろうというんだから、驚くしかない
だが、答えは決まってる
「おこと―」
「有り難く、お受けいたします。皐月ちゃん、支度なさい」
「は!? ちょっと母さん!? 何言ってんのさ! この人は、僕に母さんを見捨てろって言ってるんだよ!?」
真剣な顔で了承する母さん。普段の柔らかい雰囲気じゃなくて、ただ決意だけが瞳に満ちていた
「まぁ落ち着け皐月。そうまでは言わん。うちの愚息の不始末はつける。今後滝口優希が不自由なく暮らせるだけの金は用意しよう。会いたいならいつだって会えるようにしよう」
何だよ、何だよ不始末って! 母さんと…父さんは愛しあって、それで俺が生まれたんだ! 母さんが子供だったからって、間違いなんかじゃない!!
「小五郎さんのご好意に感謝します」
「母さん!!」
認めるのかよ! 俺は、俺は認めないぞ! 会ったことはないし母さんの美化した姿しか知らない。だけど、母さんが愛して、全部の写真であんなに優しく母さんに笑うやつが、母さんを愛してないなんて嘘だ!
「……皐月ちゃん、私は、あなたに幸せになって欲しいのよ」
「僕は幸せだ! 母さんがいればっ、幸せなんだよ! どうして分かってくれないのさ!」
あなたが傍にいるならそれでいいのに! もう二度と崎山勇人以外の父親が欲しいなんて言わない。二度と我が侭は言わない。だから、だから俺を見捨てないで!
「皐月ちゃん、私は皐月ちゃんのためを思―」
「思ってない! 僕は母さんがいなきゃ駄目なんだ! 僕には…母さんが必要なんだ!」
俺が怖くて怖くてたまらない時に抱きしめてくれたあなた、辛くて辛くてたまらない時に微笑んでくれたあなた
俺が涙を流したら、誰が拭ってくれるのんだ?
俺が震える夜に、誰が抱きしめてくれるんだ?
母さんしかいないんだ
俺には、母さんしかいない
「お爺さん…帰ってください」
「皐月…ワシは…」
「帰れ! 僕は…僕の家族は母さんだけだ! これまでも…これからもっ」
本当は爺さんが悪いんじゃないのは分かってる。俺を見る目が優しくて、母さんみたいで、母さん以外の人がそんな風に見てくれるのはとても嬉しい
でも、でも母さんがいないなんて考えられない。俺は、母さんを愛してるんだ。だからずっとずっとずっと一緒にいるんだ
「……また、くる」
爺さんは俺が引き留めたくなるような悲しそうな顔でそう言って帰った
ごめんな。でも、無理なんだ。母さんがいなきゃ、俺は駄目なんだよ















ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう