やりすぎたかな…?
『良かったわねぇ』
「うん、僕ね、凄く頑張ったんだよ」
防音はしっかりしてあるので携帯電話で母さんと今までのことをかいつまんで報告した
『偉い、偉いわね。皐月ちゃんは私の自慢の娘だわ』
「…む、娘ってのはやめてくれないかな」
『やぁね、崎山皐月は男だけど、滝口皐月は正真正銘女の子じゃない』
「そ…そうだけどさぁ。恥ずかしいし…。…ねぇ母さん」
『なぁに?』
「いつ…会えるかな?」
『そうねぇ……皐月ちゃん、ママに会いたい?』
「あ、会いたいよ! 決まってるじゃん」
『ごめんねぇ。うすうす感付いてると思うけど、ママちょっと新婚旅行してるの』
「…はぁあ? え、ちょっ、誰とっ!?」
社交会でナンパしてきた男!? それともまさか爺ちゃん!? 俺の知らないうちに我が屋敷でそんなピンクワールドが形成されてたのか!?
『パパの遺影と一緒によ』
「…良かったぁぁ。つまり母さんの一人旅か」
マジでびびった。心臓に悪い言い方しないでよ
『新婚旅行よ。藉は最近変わったから』
「いや、婚じゃないし、父さん死んでるし実質一人た―」
『ママが新婚旅行と言えば新婚旅行よ。悲しいわ。皐月ちゃんはママが嘘を言ってると思うのね』
「う、ウワー、ママトパパダケズルイナァー。ボクもシンコンリョコー、イキターイ」
『うふふ、また今度ね』
疲れる…。でも頭があがりません。これが惚れた弱みなのか!?
つか『ママパパ』呼びは恥ずすぎるが…母さんこの呼び方好きなんだよなぁ。まぁ気分で『お母さん』『優希ちゃん』とか色々言うけどな
「で、母さん、マジな話どうなの? そりゃ小枝子とかいるけど、やっぱり母さんに会えないと…寂しいよ」
今夜からはもう恐い夢を見たりしても、俺の汗を拭い抱きしめてくれる人はいないんだ
『ん〜〜、最悪でも夏休みには会えるようにするわ。何と言ってもほら、世界5周くらいする予定だから』
「初耳だし!! だいたい夏休みまでにって無理だし!」
『やぁね、夏休みにはいったん休憩して日本に戻るって意味よ。皐月ちゃんはお母さんに似ず阿呆ね』
「うわ…なにその暴言。じゃあ誰に似たのさ。父さん?」
『決まってるじゃない。突然変異よ』
「ミュータントっ!? 謎の物体X!? 何か人間じゃないと言われてるようで激しくやだ!」
『我が侭ねぇ、お母さん困っちゃうわぁ』
「それ以前に可愛い一人娘にそんな暴言吐かない!」
『だって…ママったら頭いいもん。最近気付いたの。もうびっくりするわよ? 実はフェルマーの定理を解いたのママかも』
「絶対に違う!! 母さんの名前フェルマじゃないし!」
『あ、あれって人の名前だったの?』
「……母さん、うん、とりあえず、愛してますよ?」
何の脈絡なく言ってみる。ていうか何を言えと? あんまり言うと母さん拗ねるし
『ママも皐月ちゃん大好き。だからお願い。頑張ってね、優希ちゃんもきっと頑張ってると思うから』
何故に人事のように言うかな。ま、そういう脈絡なく意味不明なとこも可愛いっちゃ可愛いけど
本当は、いますぐにでも泣き付いて会いたいとだだをこねたい
本当は、何処にも行かず誰にも会わずに母さんと爺ちゃんといたい
でも、頑張ってと母さんが言うなら、俺の返事は決まってる
「…うん。頑張るよ」
『いい子いい子。じゃあもう夜も遅いでしょ? きるわよ』
「うん、また明日」
『またね』
電話をきると、妙に寂しくて、俺は音楽を大音量でかけた
○
「おはよう、ちゃんとやってるわね。感心感心」
俺は命じられたように朝食も食わずに掃除をしていたのだが、授業開始の20分前に七海様がいらっしゃったので敬礼してやる
「はっ、今朝もお美しゅうございますね七海様!」
「ふふ、当たり前じゃない」
言い切りやがった…っ!
こいつ…ナルシストか。つかマジで美人だから手に負えねぇんだよな
「へぇ…思ったより頑張ったのね。綺麗になってるじゃない」
すーっと指を窓枠に走らせてそう言う七海に、俺は苦笑しか返せない
「ははは…」
お前は姑か
「はい、差し入れよ」
七海がナイロン袋を差し出し俺は反射的に受け取る
「?」
「私が言った通り6時からしてるなら食堂は開いてないし朝ご飯まだでしょう?」
実は7時からだが寝坊して慌てて来たから朝食は実際食べてない
「ありがとうございます! 七海様大好き!」
「ふふ、素直でよろしい。と言っても購買で買ったものだけど、一応健康バランスは考えてあるわ」
受け取った袋を開けると、ゆで卵角切り入りサラダとBLTサンドイッチにミニパック牛乳が入っていた
朝食のメニューとしちゃいいんだけど…たったひときれのサンドイッチと野菜ごときでどうしろと言うんだ。肉か砂糖を寄越せ
「……こ、これだけっすか?」
「あなた、昨日も思ったけど食べ過ぎよ。ダイエットなさい」
「私は食べても太らない体質なんです。ダイエットもしたことありません。まぁ有りがたくいただきますが、せめてデラックス苺パフェとカツ丼くらいはもってきてください」
「…朝から食べる気なの?」
「大丈夫です。一時期一日三食ケーキ山盛り食べてたことありますし、朝から油ものも全然いけます。心は肉食獣ですから」
ちなみに一食で一ホール。さすがに3日もすると別のが欲しくなったけどな
「あなた…乙女の敵ね」
「よく言われましたよ」
女フリまくってその癖今まで通りに接してると特にな
「……私は生徒会長よ?」
「知ってますけど?」
「その私をパシろうとはいい度胸ね犬の分際で」
「わお、まだ言うってかそれ素で言ってます?」
「当たり前じゃない」
「あなた絶対友達いないでしょう」
「いるわよ!」
ムキになって赤い顔で否定されたが怪しすぎる。挨拶しただけとか、猫被ったままじゃ友人とは言えねぇぞ
「どうせ紗理奈さんと弘美さんだけでしょう?」
「いるわよ! …いるわよ。しかも男の子なんだから!」
「はぁ…」
ひょっとして崎山の方の俺か? てか何故に『しかも』をつけるんだよ
「どうせ山に引きこもってるあなたには男友達なんていないでしょう?」
そう言うことか。つまりお嬢様は女ばっかのとこにいて外では猫被ったりして、男友達はいないやつが多いのか
「普通にいます」
「…え?」
「小中高は普通に共学行ってましたし」
まぁその時の友人はもう繋がってないけど、社交会で二人ほど男で息の会うやついたし。触れなきゃ普通に友達でいれるんだよな
「そ…そうなの!?」
「まぁ引越して色々きっちゃって今では二人しか男友達いませんけど、昔は普通に2〜30人とそれなりに友人してましたよ」
ついでにパシリしてくれる男が10人と尽くしてくれたり寄ってくる女が遊びを合わせると4〜60人はいたし
…俺、いきなり友好範囲減ったなぁ。前はバイト先の兄ちゃんとかオッサンやお姉さんとかいろいろいたのに…
「……」
「あ、とりあえず食べていいですか?」
「…いいわよ」
「あざーす」
「?」
七海は不思議そうに頭をかしげて、俺は席につき、サンドイッチを口に頬張りながら説明する
「あ、あふぁーふっへほは、あひぃはぁほふっへいひぇへ(訳:あ、あざーすってのは、ありがとうって意味で)」
「食べながら話さない!」
「んっ…あざーすって言うのは、ありがとうって意味です」
「ふぅん、にしてもあなた…やっぱり行儀が悪いわ」
「行儀が悪くても死にませんよ。あ、今日って何か仕事あります? 私は具体的に何をすればいいんですか? 私、頭悪いんであんまり細かいことは…」
七海は胡散臭そうと言うか不審そうと言うか、何か嫌なものを見るように俺を見てからふい、と顔をそらせ一番奥の普段座るのとは別の立派な机に向かう
「分かってるわよ。あなたは雑用、幸い足は遅くないみたいだしね。ま、力があると尚良いのだけど…」
「あ、ありますよ。七海様くらいなら二、三人担げます」
「あらずいぶんな自信ね。じゃあその自信のほどを、見てもいいかしら?」
「どうぞ、何します?」
俺は流し込むように全て食べ、へこんだ牛乳パックをナイロン袋にいれる。あとでまとめて捨てるかな
「プリントだけじゃあれだからダンベルでも…ん、風が強くなってきたわね。窓、閉めるわよ」
七海は書類をまとめて机に置いてから、反対側の窓に向かう。いい感じに風が吹いてると思うが、まだ書類が飛んだら危な―飛んだ。拾わねぇと
「はい、掃除はもう終わってもいいですか?」
俺は立ち上がり机の向こう、こっちから見てからだから七海のいる場所に行く
「ええ。…っ!」
どすっ
と音がしてプリントを拾いながら顔をあげると窓からパンツが生えていた
訂正、何だか知らんが七海が窓から上半身を出して、浮いた足をぶらぶらさせている
パンツは大人っぽい外見に似合わず普通にシマパンだ。青い横縞のやつ。まぁ制服スカートの中に黒のレースやガーターベルトだと引くけど
「くっ…このっ」
窓枠に指がかかってるものの、ふらふらと上下して今にも七海は窓の向こうに落ちそうだ
ちなみにここの高さは3階だ
「あの…大丈夫っすか?」
「助けなさ、きゃあっ!!」
七海の体が大きく外に傾いた
「っ!」
自分も窓の外に体を出して七海に手を伸ばす
「とっ…大丈夫ですか?」
腕をつかんで壁に七海が当たらないように一度強く引き、安定してから七海を改めてぶらさげ、俺の態勢が半分以上窓から出ていたので治す
「は、早く助けなさい!!」
感じ悪……は! いーこと思いついちゃった
「そんな口を聞いていいんですか?」
「え…」
「ちょうどいい。私を試すんでしょう? 七海様を空に投げてそれを受け止めて地面に着地、なんてどうでしょう?」
「何をバカなことを………って…さ、皐月…あなたまさか…」
「七海様、日常生活にも、スリルは必要ですよね?」
「そんっ―」
「口を開いて舌を噛まないでくださいよ!」
俺は再び体を最大まで窓からだして七海を反動つけと空に投げた
「いぃゃやあああぁぁあああ!!!」
1メートルほど上がってから七海は俺の目の前を通過、その瞬間に俺は窓枠を蹴て勢いよく七海に飛びつく
「よっ」
そのまま横抱き(俗にいうお姫様だっこ)にして飛びだした勢いそのまま斜めに下降
膝を使い衝撃を和らげながらズザザーと音を立てながら着地。2メートルほど地面に足を擦った跡ができたが、とにかく無事だ
つかさすがに人を一人担いで飛ぶと一人よりは疲れるな
「七海様、どうです…って七海様?」
「……」
真っ青だ。口は半びらきで焦点のあわない目を瞬きさせている
ヤベ、壊れたか?
「な、七海様…」
「…………………皐月」
「ご無事でしたか!」
セーフ! 生きてたしセーフ!
「でしたか…じゃ、なぁ〜い! あなた、あなた私を殺す気なの!?」
「いえ、全然」
「死ぬかと思ったわ…」
「はは、そんな簡単に死にませんて」
「諸悪の根源が言うんじゃないわよ!! このっ!!」
七海はびょ〜んと俺の頬をひっぱる
「あら、意外と伸びるわね」
びよんびよ〜ん
七海は俺の頬を両手で左右に伸ばしては縮めまた伸ばす。遊んでやがる
「って! こここんなことじゃ誤魔化られないわよ!」
そう言ってパシンと俺の顔を挟むように叩きそのまま押してくるから、俺は唇をつきだすような形になる
「はひふふんへふか(なにするんですか)」
そもそも誤魔化すも何も勝手に俺の顔で遊んでんだろ
「ぷっ、変な顔ね」
殺すぞクソアマ
は! ヤベ、ちょっと本気だった。てへっ
「はははは、ところで七海様、試験のほうは?」
「……あなたねぇ、本気で言ってる? というか…よくあそこから落ちて平気だったわね」
「ええまぁ…」
所詮3階だし、斜めにだからだいぶショックは逃がしたしな。まぁ学校とかの建物は無駄に高いから思ったよりは高かったが……コンクリートだったらやばかったかも。土で良かった…
「ところでいつまで私を担いでいるつもり…しかも……こんなお、おおお姫様だっこで…」
赤い顔で言う七海についからかいたくなる
「どもりすぎですよ七海姫」
「ひ!? …巫山戯ないでよ」
ぷいと顔を背けられた
…ってか、可愛すぎだし反則だろそれ
仕方ない、ここは一発赤い顔を止めさせるか。可愛いけど…自分で思いもよらないことしそうだ
「じゃあ、七海ヒゲ」
「巫山戯るなー!」
怒りで顔を赤くする七海は、うん、さっきまでの抱きしめたい可愛さはないな
「はは…おろしますよ」
さっきのどきっとするような可愛さのせいで、妙に七海の柔らかさとか温かさに緊張しながら俺は腰を折り七海をおろし…
「なにしてんすか?」
七海は俺の首にしがみついてぶらさがっている
「……」
「あの、重いんで―」
「黙りなさい犬」
「……もしかして、腰、抜かしてます?」
「……黙りなさいよ」
うつ向きながら赤みがかった顔で小さく呟く七海に、不覚にもまたドキリとしてしまった
くそ…こいつ顔だけはいいからなぁ
ムカつく
「はいはい、では姫、淑女会室にお連れしましょう」
お姫様だっこをしなおして歩きだす。さっきは意識していなかったが、七海…胸デカッ
「ひ、姫はやめなさい」
「了解です、女王様」
「もっと駄目ぇ!」
だだこねると子供みたいだな
育った体と普段の大人びた雰囲気とのギャップに俺はおかしくて笑った
おまけ
「そういえば七海様、意外と普通のパンツはいてるんですね」
「っ!? ヒロの時と言いあなたは本当にっ!」
「ぐほっ」
殴られた
凶暴女め!
○
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